理想と現実
私は今、森の奥の可愛い一軒家にルイスと住んでいます。私は手持ちの資産を戦いのために使いきったので、報奨として父が用意してくれました。私の夢は、大好きなルイスと穏やかな家庭を築くこと。だから、爵位もいらない、勘当してくれと言って幸せ隠居生活がスタートした……はずだった。
「ルイス、いや師匠!おはようございます!」
どうしてこうなった…と言わざるをえないが、これも仕方ないのだ。修行に明け暮れた結果、私は女子力がマイナスだった。ゼロですらない。マイナスである。嫁にいけそうもないレベルだから、花嫁修行をすることにしたのです。
マイエンジェル・ルイスのほうが女子力が高いという泣けてくる現実。いつか彼レベルの女子力を…いや、嫁力を身につけたらプロポーズしようと思う。
「おはよう、エルシィ。掃除してたの?」
「うん!」
「………で、何割ったの?」
「………………花瓶。なんでわかったの?」
「割れた音がしたからね。心がけはいいと思うよ。早朝から掃除して僕を驚かせようとしたんだよね?」
ルイスは優しく私を撫でた。しゅんとする。そうか…片付けは完璧だったけど…音か。元からがさつだからかそそっかしいからか…やはり家事は壊滅的なようです。掃除で家具を破壊しないところからとか、どうなんだ…
「…ごめんなさい」
「いいよ、あれは安物だから。それよりご飯にしようか」
「ごはん!ルイスのごはん大好き!!」
「ふふ、たくさん食べてね」
朝食は大好きなフレンチトースト、こんがり焼いたウインナー、サラダにジュース。
「おいしい!ルイスのごはんは世界一だね!んー、幸せ!」
「誉めすぎだよ」
照れるルイスはマジ天使。いや、同い年なんだけどね?ルイスはシルスと同じで深いサファイアみたいな瞳に、美しい銀髪。シルスに比べれば顔は劣るが十分綺麗な顔立ちだし、穏やかな表情が魅力的だ。シルスは内面が滲み出てるのか、野性味溢れる美丈夫である。好みじゃない。
「エルシィは本当に美味しそうに食べるから、作りがいがあるよ」
「…そう?おいしいものをおいしそうに食べるのは普通だと思うよ?」
「…エルシィは必ず『僕の』ごはんがおいしいって誉めてくれるだろ?それがくすぐったくて…嬉しいんだ」
はう…柔らかな笑顔いただきました。幸せでお腹いっぱい、胸いっぱいです。まあ、おかわりしましたけど。
「すいません、こちらは勇者様のお宅ですか!?」
幸せ朝食タイムに、ボロボロの青年が駆け込んできた。
「何かご用ですか?」
「村が、村が魔獣に襲われて……助けてください!」
見捨てるわけにもいかない。ため息をついてルイスを見た。ルイスも苦笑している。
魔獣とは魔族とはまた別物。魔族には魔獣を使役する奴がいるから同じと思われがちだが、魔獣は話もできないし、魔族もたまに被害にあうらしい。
「行ってくるわ」
「行ってらっしゃい。無理はしないでね」
ルイスからでこちゅー、ではなく守護魔法をいただきました。うう…ときめく…ただの魔法だと理解していても大好きなルイスからのでこちゅーである。ときめかないはずがない。
「お待たせしました!ドラン君!送って~!!」
「…どこまでだ」
装備を整え、すっかり我が家を囲む森に住み着いたドラン君を呼ぶ。ドラン君はルイスを殺そうとした魔族の竜だ。素手で倒されたドラン君は一命をとりとめ、私に忠誠を誓った。よくわからんけど、そういう一族なんだとか。
「ひいっ!?」
「大丈夫だよ。ドラン君速いから」
ビビる村人男性を宥めて、魔獣を退治しました。魔石もお肉もたっぷりゲットして、報酬もたんまり。
「ただいまー」
「おかえり!怪我はない!?」
「みぎゃあああああ!?」
そしてこれも毎回恒例。帰宅すると脱がされる。怪我がないか心配してくれるのは嬉しいが…確かに血まみれだから怪我がパッと見てわからないのも理解してるけど、下着姿に剥かなくても…!と思う。
ちなみに適当な宿で汚れを落として帰宅したら叱られた。心配してるんだから少しでも早く帰ってきてと言われてしまい…剥かれるとわかっててそのまま帰宅する私はMなんだろうか。そしてたまにさりげなく乳や尻を揉まれたりしてる気がするのは自意識過剰なんだろうか。
「…今日は白か」
「え?」
「なんでもないよ。怪我はないみたいだね。洗濯しとくから、お風呂沸いてるから行ってきて。着替えは用意してあるよ」
相変わらずルイスは嫁力が高いです。
そして、風呂場の鏡にうつる血まみれ泥まみれの我が身を見て思うのです。
嫁力を身につける日はまだまだ遠いな……と。