僕の実家に天使が舞い降りた
前話のルイス視点になります。
盗聴のため風魔法を展開していた。
「エルシィちゃんに似合いそうね!着てみてくれないかしら!あ、ルイスの部屋からもっと持ってくるわね!」
「ええ!?」
僕の部屋に母が突撃する前に服を準備しておいた。エルシィは押しに弱いので、母が願えば全部着てくれるに違いない。
「ルイス、盗み聞きしてたわね?」
母の表情がひきつっていた。
「すいません。お願いします」
母は僕が用意しておいた可愛い服に機嫌を直し、エルシィに着せに行った。
見たい。
僕が作ったフリフリヒラヒラの服を着たエルシィが見たい。しかし、野性動物並みに勘のいいエルシィだ。近寄れば確実に捕獲される。
僕は、霊体になって覗くことにした。これならばエルシィにバレないだろう。エルシィは魔力的なモノに比較的疎い。
エルシィは可愛かった。いつも可愛いけど、やはりフリルとレースをふんだんにあしらった服もよく似合う。最終的に僕が選んだワンピースを着ていた。
「エルシィちゃん、可愛いわ……」
「ありがとうございます」
霊体から体に戻り、廊下にいるエルシィを見ていたらすぐエルシィに気づかれた。慌ててドアを閉めて自室にこもった。
「あら、ルイスったら…エルシィちゃん、お義母様が美味しいご飯を作ってあげるからね」
「…ありがとうございます」
しょんぼりした様子のエルシィの声に罪悪感を感じた。エルシィが気になる。
僕はまた霊体になってエルシィの側にいた。あまり身体を離れるとよくないのだが、気になるから仕方ない。エルシィは客室で過ごすようなので、お茶とお菓子と気晴らしに買っておいた小説を置いておいた。
「……至れり尽くせりとはまさにこの事」
そう言いながらエルシィの表情は暗い。寂しそうだから、うるさい精霊達に話し相手になってあげてと桃のタルトの残りと引き換えでお願いした。
しかし結局大丈夫かが気になって、また霊体となってエルシィを見に行った。
「ルイスがいなくて寂しい。ルイスが足りない」
駄目だ、うちのエルシィが可愛い。
「ルイスがほしい……」
ポロポロ涙がこぼれる。慰めてあげたいが、霊体では涙を拭くこともできない。
「ナカナイデ!」
「ルイスハヘタレナダケ!」
「ルイスヘタレ!」
「エルシィナイテルッテイットクネ!」
おいこら。お前ら後で見てろよ?とりあえずエルシィにお菓子をたくさんあげてみた。
「ルイス、私が嫌いになったのかな?」
『ソレハナイ!!』
全員が力強く否定した。うんうん、と僕もうなずいた。
「ほんとに?」
『絶対ナイ!!』
やはり力強く否定した。本当にそれはない。ありえない。
「ルイス、ヤキモチヤキ」
「エルシィ、カワイイスキダカラ、ボクラ二ナカヨクスルナッテイッタ」
「ルイス、ケチケチ」
「エルシィ、スキスキ」
好き放題言う精霊達。後でほっぺたを伸ばしてやろうか。しかし、エルシィの機嫌が直ったみたいだから勘弁してやるか。
エルシィがテーブルの菓子が山盛りになっているのに気がついた。
「……………妖精さんがいる」
なにそれ。
うちにそんなものはいません。精霊はいるけど。
「……たくさんあるから皆で食べよっか」
「ワーイ」
「ナカマヨンデクル!」
精霊達と仲良くお菓子を食べるエルシィは可愛かった。
「エルシィちゃん、ご飯よ~」
一階で夕飯を食べるらしい。母には霊体でもバレるので、一階にはいけない。エルシィの寝巻きとかお風呂セットとか、お風呂後のドリンクでも用意しておくか。
エルシィは持ってきてないかもしれない。下着まで用意すべきか真剣に悩んでいたら、エルシィが二階の廊下に走って来たらしい。早いけど、どうしたんだろう。
「ふえぇ………」
え!?まさか泣いてる!?部屋のドアにひっついて魔法を展開する。どうやら泣いているらしい。夕飯が不味かった!?いや、大半下ごしらえしたからそれはない。焼くだけなら母さんでも問題ないはずだ。
「エルシィ?」
兄さんが来た。優しくエルシィの頭を撫でる兄さんに嫉妬した。
「うっ、えっく…」
気がついたら霊体で洗濯用の金ダライを兄さんの脳天に落としていた。
「痛ってえぇ!?」
くわあああああんという音がした。床でくわんくわん鳴る金ダライ。頭をおさえて倒れている兄さん。ついやってしまった。
泣いているエルシィの手にタオルハンカチを落とす。エルシィは困った表情をしていた。
「うっえっ……」
ぐしゅぐしゅ泣くエルシィ。精霊達がよしよししに来た。あまりエルシィに触るんじゃない!でも泣き止んでほしい。どうしよう…
「…エルシィ、骨は拾ってくれよ」
「…………………は?」
何かを決意した様子の兄さんは、僕の部屋のドアを破壊する勢いで殴った。身体はドアに寄りかかっていたのでダイレクトに衝撃と轟音が来て、気がついたら身体に戻っていた。
「この、馬鹿ルイス!!エルシィをこんなに泣かせて、何をぐじぐじしてやがんだ!!テメェの事情なんか知ったことか!!これ以上エルシィを泣かすなら、俺がエルシィを貰うからな!!」
嫌だ。エルシィを誰にも渡したくない!!
気がつけば部屋から出て、エルシィを抱き上げようとする兄さんの手を払いのけてエルシィを抱きしめていた。
「エルシィ!エルシィは僕のだ!兄さんになんかやらない!!」
「なら、泣かすんじゃねぇよ!!」
兄さんの容赦ない拳骨が炸裂した。兄さんの馬鹿力!ものすごく痛い!!
「いったぁぁぁ…」
「とりあえず、ちゃんとエルシィと話せ!ぐじぐじすんのはかまわねぇが、泣かすんじゃねぇよ!!」
それだけ言うと兄さんは一階に行ってしまった。そんなこと言われても、何を話せばいいんだろう。
困っていたら、何故かエルシィが土下座した。
「うちに帰ってきてください!!」
「は?え?」
土下座!?え!?僕は完全に思考停止してしまった。
「ルイスがいなきゃやだ!ご飯だって『エルシィは美味しそうに食べるね』ってルイスが笑ってくんないと味気ないし、寂しいよおおお!!うわああああああん!!」
「エルシィ!?な、泣かないで!」
「泣かしたのはルイスだもん!ルイスが悪いんだもおおん!!うああああああん!!」
こんなに泣くエルシィは初めてだ。どうしたらいいのかさっぱりわからない。
「ぼ、僕が悪かった!何でもするから許して!いや、許さなくていいから泣き止んで!」
「じゃあ、ずっと一緒にいて!あと、添い寝とお風呂!」
「うっ!?わ、わかった!」
反射的に返答したけど、それはご褒美だよ!?いや、ある意味拷問だ。
「毎日」
「毎日ぃ!?えっと…」
「ルイスはやっぱり私に飽きちゃったんだ…」
エルシィは泣き止んだが、また泣きそうだ。毎日にちょっと怯んだけど、エルシィを泣き止ませる方が先だと僕は判断した。
「飽きてないから!大好きだから!僕のせいでエルシィが好きなことを出来なくなったと思ったら申し訳なくて…!」
「なにそれ」
僕は自分の気持ちを話した。僕の死を回避するために、エルシィの未来を犠牲にしてしまったことが申し訳ない。エルシィにだけ対価を払わせ、僕は何も知らずにいたことが恥ずかしい。僕はエルシィに相応しくないと考えて、今回の家出したのだと告げた。
「ルイス、ひどい」
「うん、ごめん」
「そんな私が勝手にやらかした事で責任感じて離れるなんてひどい!!」
「そっち!?」
エルシィは離れたことに対して僕を責めた。
「ルイスのばか!私はルイスが大好きだから、生きてて欲しくて自分でこの道を選んだの!そこに後悔なんてない!」
「エルシィ…」
エルシィが好きでたまらない。エルシィは女の子らしく暮らす未来より、僕を選んでくれたのだ。どうしよう、嬉しい。
僕がそっとエルシィを抱きしめると、エルシィはキスをねだるように目を閉じた。
しかし、触れる直前目があった。
何とって?階段で覗いている父、母、兄と。
からかわれた僕が暴れたのは、仕方ないと思う。それから、エルシィと皆でご飯を食べた。
「ルイス、これ美味しい!」
「…………………」
「うん!僕が作っておいたしょうが焼きだね」
「ルイス、これも美味しい!」
「うん!エルシィそのドレッシング好きだよね」
「…………………」
僕の料理に舌が慣れたエルシィは、僕が大半を作成したものを美味しいと喜んだ。悔しそうな母親にニヤリと笑ったら、母はふてくされて父に慰められていた。
ちなみに、エルシィは首をかしげていた。やっぱりご飯はエルシィと食べるのが一番だなって、僕は幸せだった。頑張って作ったご飯を美味しく食べてくれる笑顔に、何より報われた気持ちになるから僕は料理が好きなんだ。僕もエルシィに笑顔を向けながら、和やかに夕飯を食べた。




