プロローグ・運命の夜
シナリオ通りであれば、14歳の私の誕生日…つまり今日、聖女の資質を感じた魔王軍が我が領地に攻めてくる。
我がヒルシュ領は魔族領と隣接しており、戦いには慣れているがこの日は普段の10倍もの魔族が攻めてきて……私の領地は壊滅的被害を受けるのだ。ただし私が聖女として目覚め、形勢は逆転。ルイスは死ぬが、民は救われる。
私は強くなったが、聖女の力には目覚めなかった。何が足りないのだろうか。まだ鍛練がたりないのかな。多少休んでおくべきだとわかっているが落ち着かない。
私はこの日のために、ひたすらに強さを追い求めた。愛剣を手に取り、胸に抱いた。大丈夫、きっとうまくいく。
「ギャアアアアアア!!」
「敵襲!敵襲!!」
「うっわ、マジで来やがった!野郎共、撃てえええ!!」
けたたましく警鐘が鳴る。どうやらおいでなすったらしい。
「行かなきゃ!」
戦場へと走り出す。どうやら私がしこたま仕掛けた落し穴にかなり引っかかったらしい。
「くらえええ!!」
「ギャアアアアアア!!」
ゴキに熱湯、魔族に聖水。魔族にダメージを与える聖水を、しこたま神殿に作りまくってもらってある。物見櫓から聖水をくくりつけた矢を射かける者もいる。
私は自らを鍛えるだけではない。この10年…ひたすらに準備もしてきた。
「いや、半信半疑だったが本当に来たな。さあ雇い主様、指示をどうぞ」
「魔族を殲滅する!皆、私に続け!!」
おおおおおお!!
男達が雄叫びをあげた。私が冒険者で貯めたお金は、全てこの準備に充てた。腕のいい冒険者を雇い、領地の壁の補修、更に回復薬や魔法回復薬…………考えられる手は打った。
後は結果を出すだけだ!!
「オラオラオラぁ!!」
愛剣を振り回し、敵をひたすらに殲滅した。私の武器は斬るより叩き潰す大剣である。魔法で重力操作して戦うわけだ。
倒して、倒して、倒して、倒して、倒して………ようやく終わりが見えてきた頃、私は満身創痍だった。無茶な戦いをしたから、左手を負傷した。それでも右手で魔族を凪ぎ払う。
「エルシィ、危ない!」
「ルイス!?」
魔族…竜の爪にやられそうになった私を、ルイスが身をていして庇おうとする。世界がスローモーションになったかのように見えた。
ああ、いやだ。
がんばったのに。あんなにあんなにがんばったのに!
わたしは………だれよりあなたを、あなたをまもりたかったのにぃぃ!!
光と共に、体の中から熱いナニカが現れた。
「こんにちは~。いやぁ、なかなか出れないからど~しよ~かと思いましたよ~」
なんか、ユルくね?
私の胸から現れたのは、聖剣エクステリア…だと、思うんだけど………聖剣て喋るんだ……知らんかった。
「ほらほら、勇者な聖女様~、斬って斬って斬りまくるよ~」
どんなに頑張っても発現しなかった聖女の力…聖剣。神々しく輝く美しい大剣だ。
「なんで、今……」
「あ~、それはね~?守りたい思いが聖剣には大事なんだよ~。勇者な聖女様は~、わりと戦うとき無我になるからそれが足らなかったんだね~」
「……聖女は聖剣を振るえないはずでは?」
「普通はね~。でも~勇者な聖女様は異常に鍛えてるから無問題だよ~」
「異常にって……」
「本来は勇者な聖女だったんだけど~、ここ最近の聖女は皆戦えなかったから~、苦肉の策で聖女が愛した男に使われてあげてたわけ~。聖女に愛されてれば口づけで魔力譲渡ができるからね~。さて、そろそろ時間が動くよ~、愛する男を守ってあげよ~ね~」
そういえば、竜固まってたわ。ルイスもカチコチだわ。…まだ助けられるんだ!!
「ええ!殺ってやるわ!」
そして私は、テンションが上がりまくっており…何故か聖剣をぶん投げてルイスに持たせ、竜の頭に右腕でアックスボンバーをかました。
「おっりゃああああ!!」
更に、手刀で竜の弱点である逆鱗を貫いて倒した。
「っしゃあああああああ!!」
盛大に返り血を浴びて勝利の雄叫びをあげる私に、聖剣がドン引きしていた。
「わ~、私いらないかも~」
「エルシィ!」
「ルイス!無事!?怪我は!?生きてるよね!?」
「…無茶なのはエルシィだよ!動かないで…」
ルイスはいつの間にか回復魔法が使えるようになっていたらしく、私の怪我は嘘みたいに治っていた。
「ありがとう、ルイス!私、頑張って皆殺しにしてくるね!」
「うん。皆殺しにして無事に帰ってきてね。これ以上怪我したら駄目だよ」
「わかった!」
笑顔のルイスに見送られ、私は戦場を駆け抜けた。
「おりゃああああああ!!」
聖剣てスゴいのね。形状をある程度なら自由に変えられるし、何より豆腐みたいに魔族がスパスパ斬れる。おまけに聖剣は存在するだけで魔族を弱体化させるので、魔族は形勢を不利と判断して逃げようとした。
「逃がさない!」
聖剣を魔力を込めて投げ、聖剣は逃げ出そうとした残りの魔族も一掃した。
「さて、シルス!」
「なんだよ、エルシィ」
「このまま魔王を倒しに行くよ!」
「………………はあ?」
シルスが呆れた顔をした。
「私、聖女兼勇者になった」
「…………………へ?」
「ルイスがまた襲われたら困るし、元凶をサクッと殺ってくるわ」
「待て待て待て!お前をそんな危険な目にあわせたら、俺がルイスに殺され…じゃなかった危ねぇ…せめて準備をちゃんとしてからにしろ!」
「わかった」
しかし私はその日のうちに魔王城に特攻をかけ、魔王に『二度と人間を襲いません。部下が人間を襲っても死んだ方がましな苦痛を魔王に与える』という呪い…じゃなかった聖なる制約をかけてきた。聖剣って便利だね!
「ありえねぇぇぇぇ!!」
シルスがなんか叫んでたけど、気にしないことにした。
王城に行き、魔王を事実上無力化したことで望むものはなんでもくれると言われた。
「では…………」
それは無茶な願いだと自覚していたが、王様をはじめとして…皆が協力してくれて、私は願いを叶えることができた。