猿とゴリラと月の女神
「おい、子猿」
「なんでしょうか、筋肉ゴリラ様」
私とアイザック様…いや、アイザックでいいや。アイザックとは非常に仲が悪い。幼馴染みだが基本的に馬が合わないのである。
男女ではあるが、同じ武家系貴族の私達は切磋琢磨してきた。私はアイザックの体格が羨ま妬ましい。そして奴は私に勝てないのが気に入らない。現在戦歴は全戦全勝である。
城を出る前なのに、既にお互い臨戦態勢だ。やんのかコラ!と言わんばかりだ。戦って勝つぞ!
「ケンカすんな。任務中だろ」
シルスがため息をつきながら仲裁する。これもいつものことだが、今日は普段いないルイスがいた。
「エルシィのどこが子猿なんだよ。エルシィは猿なんぞ比較にならないぐらい可愛いだろうが。穢れた世界に舞い降りた天使だろうが。目が腐ってんじゃないの?それ飾り物なの?役に立たないんだから斬って捨てたら?ガラス玉の方が役に立つんじゃない??いや、ゴリラだから人と猿の見分けもできないんだね。高度なことを要求してごめんね?」
「「………………」」
すげえ、流れるように滑らかな悪口だ!ルイスカッコいい!そこにときめく憧れるぅ!しかもノンブレスだ!!
でも、ルイスの中で私がどうなってるのか超気になるわ!天使って言い過ぎだよ!別に私は猿でもいいよ!?全く気にしてないよ!?
「…殺す」
「安い挑発に乗らないでください、アイザック様!!ルイスも謝れ!」
「僕は殺されようがエルシィを侮辱した奴に謝罪はしない」
「………確かお前はエルシィの婚約者だったか。非礼を詫びよう。俺とて譲れぬものはある」
ぬあ!?アイザックが謝罪しただと!?珍しいな!しかしルイスカッコいい!私はアイザックに攻撃の意思がないようなので気を抜いた。
「…アイザック様」
すると、まるで鈴の音みたいな美しい声がした。
月の女神のごとき美しさ。所作も洗練された令嬢の中の令嬢…イオリア=クラン。
「…隣国に行くと伺いました。どうか、お気をつけて」
憂い、目を伏せても美しい。いや、本当に月の女神じゃないかと思う。
「ご安心を、イオリア様。アイザック様は我々が守ります」
「まあ、エルサールが居るなら安心だわ。アイザック様をお願いします」
「はっ!イオリア様のためとあらば!」
ぶっちゃけ筋肉ゴリラの護衛なんてやる気なかったけど、イオリアちゃんのためなら頑張るよ!ちなみに今の私は騎士服を着て男装しています。騎士の礼をとり、イオリアちゃんの手にキスをした。
頬を赤らめるイオリアちゃんは女神様ですよ。
わりとどうでもいいが…いや、よくないが…イオリアちゃんは私を男で騎士見習いだと思っている。
超ザックリ話すと、昔私髪が短かったんですよ。長いと掴まれたりするし、危ないからね。しかも、よく騎士服着てたんですよ。軍に参加するからね。で、たまたま絡まれてたイオリアちゃんを助けたんだけど、女性騎士って居ないんだよね。だからついとっさに説明ができず、反射的にイトコの名前を名乗ってしまい男のふりをしてしまった私は悪くないと思いたい。そして今でも男だと思われてるわけだ。
最近では、たまにアイザックの事を相談されるんだよね。ゴリラの分際でこんな美人を困らすとか、死ねばいいのに。
「……………(ギリィ)」
「………………(ギリギリ)」
「………ルイスとアイザック様は気が合いそうでによりだな…」
イオリアちゃんの手にキスで、ルイスとアイザックがギリギリしていたのに、後で気がつきました。
アイザックにはどや顔してやった。悔しそうでした。ざまぁ。
ルイスにも手にキスをしてあげたら、顔を真っ赤にしてきゃああ…とか細く呟いた。
やべえ、純情可憐な乙女にしか見えないよ!!しかし、困った。イチャイチャしたいのにルイスは最近照れるか失神かである。こうなったら何回もやって慣らすしかないね!
ところで、さっきから部屋の隅でマナーモードみたくなっているのは確かアイザック護衛の双子だったはず。彼らはついてくるのかお留守番なのかが気になります。
ようやく出てきました!前作残念な悪役令嬢の主人公、イオリアです。
まだ前世を思い出してないのでドジの呪いは出ていませんが、わりと天然です。
ちなみにアイザックがエルシィを嫌いな理由。
・勝てない
・イオリアと仲良し。
・イオリアがエルサールかっこいいと言ってた。
・後にイオリアに言い寄る王太子に似ているから。
大半がイオリア関連です(笑)
勝てないに関しては、気に入らないぐらい。自分の努力が足らないせいもあると考えてます。




