そして、罠にかかったあわれな獲物
とある傭兵のおにいさん視点になります。
アグニブーの先行部隊は森に隠れながらゆっくりと進んでいた。今回の目的は、近くの村での略奪である。要はあの化け物娘…ヒルシュ伯爵の娘が到着する前に逃げればよいのだ。
いけすかない任務ではあるが、多少略奪品をちょろまかせば自分の懐も潤うし、必要悪だと俺は自分を納得させた。
傭兵なんてそんなもの。任務を選り好みできないのだから。
「ぎゃあああ!!」
部隊の一人が悲鳴をあげた。スライムに襲われたらしい。すかさず剣で斬りつけようとするが………
「は、速い!?」
そのスライムは虹色で、見たこともない奴だった。しかも、とんでもないスピードで味方の魔法使いに狙いを定めて昏倒させてゆく。ありえない。スライムにこんな知能があるはずない!しかも、気がつけば多数のスライムに包囲されていた。他は普通のスライムのようだが、数が多すぎる!
さらにえげつないことに、スライム達は…………
取りついた相手を全裸にしている。
服も、下着も、武器も一瞬で溶かしてしまうのだ。超えげつねぇぇ!!いや、肉を溶かされんのもエグいけど、スライムってこんなに消化が早い生き物だったか!?どっかの実験体かなんかなのか!?
「い、いやあああああ!!」
寒さに震える被害者達。しかも、武器なし。スライムはただでさえ物理が効きにくい。素手では戦力にならないし、頼りの魔法使いは既に戦闘不能。一人だけいるにはいるが、転移しか使えない奴だ。
ヤバすぎるだろう。
比較的簡単な任務が、一気に最高難度まで跳ね上がった。
まずい。まずすぎる。これはきっと罠だ。来るのが読まれていたんだ!
奴が来る。
早くしないと、来てしまう。
「撤退だ!司令官!せめてあんただけでも転移しろ!」
司令官に撤退を指示したが、どうにかしろとわめきやがる!無茶言うなよ!!無理だよ!!
しかも、最後の魔法使い、司令官を見捨てて逃げやがった!!馬鹿野郎!!
「ちっくしょおお!!」
スライム達の動きにどうにかついていけるのは俺だけだった。虹色はいつの間にかいない。しかし、決定打もない。
このスライム達は間違いなく何らかの実験体だ。俺の斬撃に合わせて衝撃を殺している。野生のスライムにこんな芸当ができるはずもない。
逃げることもできず、ひたすらに消耗していく。
「やあ、アグニブーの兵士さん達、元気かなー?」
ついに悪魔がいらしてしまった。見た目だけは極上で、剣など持てないような愛らしい娘だ。
「い、いやあああああ!!」
俺は、本気で泣いた。戦況は絶望的だ。味方は全員全裸で、無事なのは俺だけ。
これはもはや戦いなどではなく、一方的な蹂躙にしかなりえない。
しかも、とどめにヒルシュ伯爵の悪魔小娘がご登場である。他の奴なら勝てたかもしれないが、こいつの実力は人間かが疑わしいレベルであるため、今の疲弊した俺では…いや正直言って、万全でも勝てねぇよ!!単体で敵陣に乗り込み、前に立つ敵を容赦なく撃破し、どうやってか必ず司令官を探しだして生け捕りにする戦いの天才児。そして、身代金を要求するらしい。
見かけで侮る馬鹿を確実に泣かす悪魔っ娘である。
終わったな、俺の人生。
俺は、武器を手放した。




