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グレイスフルデッド

メルテッドスノウ第三章です

ちょこちょこ真相などが語られ始めます

六時限目の授業が終わり、ホームルームでいくつかの連絡事項が担任から伝えられると、その日の授業は終了となった。朱音は、帰りに駅前のCDショップに付き合えというユウキの誘いを断り、早足でA組の教室を後にした。ドアを開くと、すぐ横の階段ではなく、逆の方へと廊下を歩き出す。行き先は言うまでもなく、「桜井季流葉」という少女の在籍するD組だった。三十メートルほど歩くと「2‐D」の表示が目に入る。

「ホームルームは……終わっているみたいだな」

呟いて朱音はD組のドアを開く。教室の中を見渡すが季流葉はいないようだった。すると、朱音に気づいた都子が近づいてきた。

「あれ〜、あかねちゃんどうしたの?一緒に帰る約束した……」

「桜井さんは?」

「えっ?」

「桜井さんはもう帰った?」

ここしばらく、記憶に無かった朱音の剣幕に驚きつつも、

「う、うん、ついさっき教室出て行ったと思うけど」

 都子が何とか返すと、

「ありがと!」

それだけ言って、朱音は鞄を持ち直し教室の外へと走って行った。残された都子はその後姿を眺めながら、

(アカネちゃん?)

しばらくその場に立ち尽くしていた……


朱音はD組の教室を出て、校舎の出口へと廊下を走る。ふと横に視線を向けると、窓の外に広がる校庭を、部活の準備をする生徒に混じって、一人歩く少女の背中が見えた。

「桜井……季流葉」

走りながら、搾り出すように朱音が呟く。バレエのステップでも踏むように流麗に歩いていた季流葉は、突然立ち止まって振り返ると、二階の廊下を走る朱音に向かって微笑みかけた。

(……誘っているのか?)

少女はゆっくりとした足取りで校門へと歩を進める。

(とりあえず話しを聞こう)

朱音はスピードを上げ、廊下を駆け抜け、階段を飛ぶように下りた。下駄箱で急いで靴を履き替え、校庭へと飛び出た時、季流葉の後ろ姿は校門を出て行くところだった。校門を出た後、左に曲がったのを確認した朱音は急いでその後ろ姿を追いかける。

数秒で校門までたどり着き、左へ曲がったところで朱音は急ブレーキをかける。

(……いない!?)

校門と学校の周りのフェンスに沿って続く道は次の曲がり角まで百メートルほどある。季流葉が校門を出てから数秒、彼女が校門を出た後走ったとしても……いや、例え彼女の足が百メートルの世界記録を出せるほど速くても、姿が見えなくなるというのは不可能だった。

呆然としていた朱音は仕方なく、本来の帰り道である逆の道へと向き直る。向き直って、朱音は眼を見開いた。

視界の先三十メートルほどに、つい先程、見失ったはずの後ろ姿があったのだ!

再び走り出す朱音。走りながら、

(確かに左に曲がったはずだ……何をした?)

冷静さを失った頭脳で、乱暴に思考を巡らせる……が、いくら朱音の頭脳が優秀でも、この状況で考えなどまとまるはずもない。季流葉との距離があと十メートルほどのところまで来た時、またしても季流葉は曲がり角を左へと曲がった。それを追うように朱音も、数秒のタイムラグの後左折するのだが、またしても季流葉の姿は無かった。今度は迷うことなく振り返ると、案の定、数十メートル先に季流葉の後ろ姿が見えた。

(どういう仕組みかは分からないけど間違いなく、相手の意図する方へと向かわされている(・・・・・・・・))

 手のひらで転がされているような感覚を覚え僅かに苛立ちを顔に顕にする。

(くそ、やられっ放しはおもしろくないな……)

朱音は三回目の曲がり角で一旦立ち止まり、数秒で呼吸を整える。そして、ゆっくりと目を閉じた。暗闇に包まれた瞼の裏でイメージを具現化させていく。こめかみのあたりに上げられた指先から、

「パチンっ」

という乾いた音が響く。ゆっくりと目を開き、視界の先にいる季流葉の背中を確認すると……突如、猛烈な勢いでそれとの距離を縮める。朱音は周りの景色が、視認できないほどのスピードで流れていくのを感じながら目標にむかって駆ける。

……数秒後、曲がり角を曲がる前に季流葉に追いついた朱音は、息を切らしながら彼女の肩に手をかけようとした、その時、

「まぁ、面白い能力(もの)をお持ちですわね」

聞き覚えのある歌うような声が目の前ではなく、なぜか背後から届く。切れ切れになった呼吸を整えつつ振り返ると、そこには、もう一人の桜井季流葉が立っていた。いや、「もう一人」というのは語弊があるだろう。桜井季流葉は最初から一人(・・)だったのだから。

「まさか……こんなに早く追いつかれるとは思いませんでしたわ」

そう言うと、季流葉は柔らかい微笑を朱音に向ける。朱音は手を掛けようとした方の季流葉がいた場所を見るが……当然の様にいない。不思議と、あまり驚くことは無かった。呼吸が整い、改めて朱音は目の前で微笑む少女を見据える。

「桜井さん……僕が聞きたいことはもう分かっているよね(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

「……ええ、そのためにこうしてあなたにきていただいたのですもの」

そう言うと季流葉は身を翻して、音もなく歩き出す。数歩目を踏み出した後に見せた横顔が、「付いて来て」と無言で言っていた。朱音は素直にそれに従うことにした。


鞄をスカートの前に持ち、ゆっくりと歩を進める季流葉。その後ろを、一定の距離を保ちながら朱音がついていく。商店街を抜け、市民会館の前を通り、住宅街がある方へと進んでいく。

(……この道は?)

朱音は気づいた。それは、朱音がいつも商店街を利用する時に使う道だった。住宅街にある自宅から、市民会館を通り、商店街へ。ちなみに藍空西高校は、商店街を抜けていくつか角を曲がったところに位置している。道の真ん中を、ゆっくり歩きながら季流葉は、

「そういえば、先程も言いましたが、不思議な能力(もの)をお持ちですわね?あれは何ですの?」

朱音に質問した。

「あ〜、あれはなんて言うのかな……「自己暗示」みたいなものかな?」

季流葉に続いて歩きながら、朱音が質問に答える。

「いつ頃か忘れたんだけど、自分の頭の中に「スイッチ」があることに気づいたんだ。「スイッチ」は一つしかないんだけど、様々な暗示を自分にかけるときにそれ(・・)を使うと、自分のほとんど限界に近い力が出せるようになったんだ」

使うと頭が痛むから一日二回くらいが限度だけど、とも続けた。それを聞いた季流葉は、

「なるほど、先程や運動会の時は「早く走れる自己暗示」を掛けたのですね……他にはどんなことができるのですか?」

 興味深そうに二つ目の質問をする季流葉。

「う〜ん、そんなに使ったこと無いからなぁ、後は重いもの持ったり、集中力を上げたりするくらいだよ。でも何でそんなことを聞くの?」

 逆に質問を返す朱音に季流葉は、

「……影響はまだ出ていないようですね」

そう独り言のように言った

(影響?何の?)

朱音の頭にクエスチョンマークが浮かんだところで季流葉は、住宅街に入る手前にある、公園の入り口で足を止めた。公園の入り口の汚れた立て看板には「藍空ふれあい広場」という文字が書かれていた。

「……ここは?」

朱音が呟く。

「藍空ふれあい広場」は、グラウンドや多くの遊具が設置された中々大きな公園で、自然も多く、近隣住民の憩いの場であった。しかしここ数ヶ月ほどは、十数頭の野犬が公園内を縄張りとして、昼夜を問わず徘徊していたため、利用する者はほとんどいなかった

「入りましょう」

そういうと季流葉は、立て看板の端に張られた「野犬注意!」には目もくれず中に入って行き、奥へと歩き出す。一つ呼吸をして、朱音もそれに続いた。公園の中ほどにある、金網に囲まれたグラウンドまでくると季流葉は、朱音の方へ顔だけ振り向き、

「中へ……」

と短く言って、開け放たれたままの金属の扉をくぐる。

朱音も周りを見渡した後、意を決して中へと進んだ。二十メートル四方ほどのグラウンドには放置されたカラーコーンや、以前少年野球の練習で使われていたと思われる軟式球などが転がっていた。地面は野犬の影響からか、ろくに整備もされておらず荒れ放題だ。二人でグラウンドの中心あたりまで歩くと、立ち止まった季流葉が、

「まずはこれを「観て」いただきましょう」

そういうと、季流葉は右手をすっと宙へ伸ばし、呟いた。

『ラーデン(現れよ)』

その瞬間……伸ばされた彼女の指先から風が巻き起こる。巻き起こった風はその大きさを増し、瞬く間にグラウンド全体を包み込んだ。

「なっ……うわ!」

朱音は、目の前で巻き起こる風に耐え切れずに目を閉じる。

(何だ?何が起きているんだ?)

目を閉じて数秒後……耳元でうるさいくらいにその存在を主張していた風が、その音を消した。ゆっくりと目を開くと朱音は、目の前に広がる光景に驚いた。先程まで見えていた金網は姿を消し、目の前にはただ……無限の闇の世界が広がっていた……

「……ここは?」

「安心なさってください。先程いた場所と物理的な位置は変わりません」

いつの間にか朱音の横に立っていた季流葉が言う。

(つまり、見えているモノが違うだけでグラウンドにいることは変わりないってことか?)

「理解していただくのが早くて助かりますわ」

朱音の心を読んだように季流葉が言う。

「ではティル……お願いします」

そういって合図を送ると季流葉は、どこから現れたのか分からないイスに腰掛けた。

「少し、時間がかかりますので……よろしければ」

そう言って手を差し出された先―朱音の後ろにも同じイスが出現していた。朱音は素直に出されたイスに腰掛ける。それと同時に、広がっていた暗闇の中空に、スクリーンの様な長方形の光が現れた。光はその姿を確立すると……一つの物語を映し出した。

それは、ある「少年」の「時間」を断片的に切り取った物語。「少年」がラストに待ち受ける事態に、打ちのめされるであろうことを予感しながら、朱音はそれを静かに視聴した。


その日……「現在」から約二十四時間前の四月十二日の午後四時半頃。ある「少年」が自宅の近所にある商店街で買い物をしていた。右手に下げているスーパーのビニール袋の中身は、じゃがいも、にんじん、カレールーの箱などだ。「少年」が左手に持ち、視線を落としている小さなメモの内容からは、それがカレーの材料であることは想像に難しくなかった。

「えっと、後は『豚細切れ肉200g』……か」

「少年」は呟くと、メモに大きく書かれた「特売品を買うように!」という見慣れた文字を見て少し笑い、肉屋のある方へと歩き出した。

              暗転

全ての必要な品を調達し終えた様子の「少年」。メモと、手に持ったビニール袋の中身を照らし合わせ、不足が無いことを確かめると「よし」と小さく呟いて歩き出す。

その頃には既に空も茜色に染まり、夕闇の訪れを知らせていた。「少年」はいつもそうしているように、商店街を後にし、市民会館の前を通って、住宅街へ入り、自宅へと帰る……はずだった……

市民会館を超えた辺りで、「少年」は吠えている複数の犬の鳴き声を聞いた。いや、鳴き声というほど生易しいものではない……それは明らかな、「何者か」への敵意をむきだしにした威嚇の叫び。

「犬の声……もしかして?」

「少年」は、最近近所で話題になっている野良犬に占拠された公園の話しを思い出した。夕暮れ時になると、近くから集まってきた野良犬が公園を徘徊し、知らずに入った人間を襲って怪我をさせるという事件が起こっていたのだ。

「誰か、襲われて無ければいいんだけど」

そう言うと少年は、片手に一つずつ持っていた袋を左手にまとめ、肩に掛けるようにして走り出した。数分で息を切らせながら公園の入り口に着いた「少年」。息を整えるために下を向いていた顔を上げ、公園の中に目をやると、グラウンドに7、8頭の犬が何かを取り囲むように陣取り、吠えているのが見えた。囲まれているのが何なのか、そこからでは確認できないが、少しだけ見えた影は小さな子供の様にも見えた。

(見間違えかもしれない……でも、もし子供だったら大変だ!)

そう考えた「少年」は、影の正体を確認するべく、公園の入り口に持っていた荷物を置き、グラウンドの方へと歩き出した。グラウンドへ近づき、犬達の鳴き声が大きくなるのと共に、だんだんとその姿を明確にする影。「少年」がグラウンドの入り口に立った時点で、子供に見えた人影は、古びた人形であることが分かった。その人形は、人間の幼稚園児くらいの大きなもので、捨ててあるにしては汚れも特に無く、綺麗な状態であった。「少年」が子供の姿と見間違えたのも無理は無いだろう。

「なんだ、人形か……」

処理に困った誰かが捨てたのだろう、そんなことを考えながら安堵の表情を浮かべる「少年」。子供で無いことを確認し、彼が入り口のほうへと踵を返したその時、それまで狂ったように吠えていた獣達が、突然吠えるのを辞めた。同時に、まるで何かから逃げるかのように、猛烈な勢いでグラウンドの外へと駆けていく。

異変に気づいた「少年」が振り返ろうとしたその瞬間……グラウンドの周りを黒い霧状のものが覆い尽くした。

           暗転

「え?」

突然の事に戸惑う「少年」。

(何か人形に仕掛けがしてあったのか?)

そう思うと、意を決してグラウンドの中へ入り、人形へと近づく。土の地面に倒れた人形を上から覗き込むと、ガラス球で作られた虚ろな目が、一瞬こちらを見たような気がした。

しかし人形は、童話のように立ち上がって歩き出したり、奇声を上げたりすることも無く、ただその身を冷えた地面の上に横たえている。

(気のせいか?)

そう、無理やり(・・・・)思うことにして立ち去ろうとした。いや、そうするべきだと「少年」の体と思考が訴えかけていた。しかし……当然のことながらそれは気のせいでは無い様だった。

「ひゃははははははははははははは!」

突如、グラウンド中に背筋を虫が這い回るような気味の悪い笑い声が響き渡る。それを聞いた「少年」は、目の前で起こる現象に目を見開く。グラウンドの周りを覆っていた霧が、意思を持ったかの様に人形に集まり始めた。

「…………っ!」

目の前で起こる、明らかな異常事態に声が出ない「少年」。見る見るうちに集まった霧は、人形を包み込むと、その形状をゆっくりと変えてゆく。「少年」は黙って見つめることしか出来ない。全ての霧が集まり、その正体を明らかにした「それ」は「少年」に向かって言った。

「……ようこそ追跡者さん(チェイサー)……私の「エーテル」を感知して来たのでしょうが、残念だったわね!既にここ(・・)は私の支配下に置かれたわ!」

甲高い声を発した「それ」は、宙に浮いていた。しかし、その姿は紛れも無く、人間の女性そのものであった。背中に羽織ったマントに、縦に半分に割れた仮面。中世の貴族が着るような刺繍の施されたブラウスに大きなフリルの付いたスカートと、どこかピエロを思わせるコミカルな姿をしながらも、「それ」は圧倒的な威圧感と、邪悪なまでの空気を纏っていた……

(何だ?ヒトが、宙に?いや、それよりも)

「少年」は、「危機が迫っている」という「警告」と、「逃げろ」という「信号」を脳から全身へと送るが、体が動いてくれない!

「さ〜て、どうやって始末してあげようかしら?爆殺(エクスプロージョン)?それともスティック(串刺し)にした後で……ん?」

意気揚々と発していた言葉を途中で引っ込ると、しばし思索にふけるピエロ姿の女性。数秒の後、女性は周りをキョロキョロと見渡し、

「ウルヴァ!ウルヴァーーー!」

と誰かの名前を呼び始める。名前が三回呼ばれたところで、宙に浮く女性の真下に2M近い影がどこからとも無く現れた。

「……お呼びでしょうか、デルバトス様?」

巨大な影が、よく響く重低音でうやうやしく発する。

「ふむ、ちょっと聞きたいことがあるの。私の記憶では「四季(クアトリメ)」の人形ども(・・・・)は全員、私と同じ「女」だったと思うのだけど?」

「その通りです」

「では……この軟弱そうな「()」は?」

デルバトスと呼ばれた女性が「少年」を指差して言う。影は、「少年」の方を見た後、

「恐らく、ただの「ヒト」が紛れ込んだのではないかと」

そう冷静に返した。

「…………」

女性と影の間に、しばしの沈黙が流れる。

「では、この私の「パーフェクトプラン」が、たかが「ヒト」によって崩された、そう言うの?」

「僭越ながら申し上げますと……その通りかと」

「…………っ!」

影の返答を聴いた瞬間、大げさに頭を抱える女性。顔につけた半分の仮面の表情が「憂い」に変わる。これまでのやり取りをただ見つめていた「少年」は、その異常な光景を「テレビのコメディ番組なのではないか?」という逃避的な考えに走った。「僅かな望み」をかけ、テレビカメラを探すが……当然どこにもない。

「何ということなの!()天使(ファニム)たるこのデルバトス様の完璧かつ美しい計画が、たかが「ヒト」によって邪魔されるなんて!おまけにこんなの(・・・・)相手に「マッドエフェクター(狂気への招待)」まで発動して……嬲り殺しにしたって面白くとも何ともないじゃない!」

怒りとも悲しみともつかない表情でそう言い放つと、顔につけた半分の仮面がころころとその表情を変え、次々とよく分からないポーズをとる女性。その姿は、サーカスで観客の笑いを誘う道化師(クラウン)そのものの様にも見えた。しかし、そんな滑稽な女性の姿を見ても「少年」は、笑うどころか声を上げることすら出来ない。

……数分が経過する。黙って女性を見つめる「少年」と影。女性はひとしきり「苦悩」や「憂鬱」といった感情を仮面に表現すると満足げな表情で、

「まぁいいわ、ついでだし……ウルヴァ、植えつけておきなさい(・・・・・・・・・・)」

淡々とそう言うと女性は、出現した時の逆再生のようにその姿を霧へと変えると、散るように姿を消してゆく。去り際に女性は、

「じゃあね、坊や。次に合う時は立派な「下僕」ね……そうそうウルヴァ、記憶はちゃんと消して(・・・)おくのよ……あの「悪魔」に私達の居場所をわざわざ知らせることは無いでしょう?」

愉快さの混じる声と蛇の様な笑みを残して消えた……

        暗転

霧が完全にその姿を消すのと同時に、「ウルヴァ」と呼ばれていた影が「少年」の前にその巨大な風貌を表す。その姿形は、デルバトスと呼ばれた女性と同じく人型だった。違っているのはその巨体を、足から顔までを隙間無く覆う鋼の鎧、左手に装着された巨大な爪。そして何より頭に装着された、嘴を開いて獲物に襲い掛かる鷲の様な形状の兜からは、禍々しさが溢れ出ていた。

(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ)

先程より一層強まった危機感が信号となって体を駆け巡るが、体はストを起こしたかのように動かない。

「動け!動けよ!」

気付くと「少年」は、そう叫びながら自分の足を両手で強打していた。骨を砕かんばかりに叩いてみるが、動くどころか痛みさえも足は感じてくれない。ゆっくりと「少年」に近づきながら鎧の男―ウルヴァは、

「動けない的を相手にするのは全くもってつまらんな……さて、一応確認しておこうか?お前は『スヴァルトヘイム(魔導世界)』とは関係が無いのだな?」

と、グラウンド中によく響く重低音で問う。少年は自分の足に向いていた視線をウルヴァの方へとやる。その顔には「未知の者への恐怖」がありありと浮かんでいる。

「『スヴァルトヘイム(魔導世界)』って何だよ!僕はそんなもの知らない!お前らは一体何なんだ!「計画」?「()天使(ファニム)」?「植えつける」?一体何をするつもりだ?」

「少年」は無理やり声帯を震わせ、喉から押し出すように声を発し、動かないからだの代わりに、より早く回転する頭脳と舌でウルヴァの問いに答えた。それを聞いたウルヴァは苦々しい顔つきで、

「そうか、無知とは悲しいものだな……よく聞け「ヒト」よ。無知とは……」

 瞬間、ウルヴァの周りに流れる空気が一変する。

「罪だ!日々「知る」こともせず、ただ自分の置かれた環境と日常に甘え堕落していく、己の欲のために他人を騙し、奪い、傷つけ、それがお前達「ヒト」という劣悪種だ!……せめて人間として存(  あ)在する内に……真実を知ってから逝け!」

そう言うとウルヴァは左手をゆっくりと構え、その鋭い爪で、


……ドスっ


子供がフォークで肉でも刺す様に……無造作(・・・)に「少年」を貫いた……

スローモーション再生の様にゆっくりと、地面に崩れる「少年」の肉体。土の上に、大量の朱を撒き散らしながら、その瞳は徐々に光を失っていく。気付けば日は落ち、辺りには暗闇が訪れていた。暗闇の中、グラウンドの照明に照らされながら、「少年」の十七年に及ぶ「ヒト」としての生に終わりが近づいていた。


……スクリーンがその光を失い、再び暗闇の世界が舞い戻る。先程まで映像が流れていた辺りを見つめたまま、動きを止めている朱音。

「……これが」

 震える声で朱音が言う。

「これが、「昨日」の出来事だっていうのか?」

「少年」が貫かれた映像がまだ瞼の裏に残る目を足元に向けつつ、やっと出した声で朱音が呟く。

「ええ……やはり覚えてはいらっしゃらないようですね?」

季流葉はそんな朱音の様子を察してか、わずかに沈んだトーンで答える。

「そうか、事実……なんだよね?」

「……ええ」

少しだけ辛そうな声で答える季流葉。朱音を、ゆっくりと「絶望」の二文字が支配してゆく。

(まるで、出来の悪いSF映画みたいだな)

自らの「過去」をそう振り返ると、朱音は自嘲的に笑った。頭の中には、「嘘だ!」と叫びながらも、「それ」をテレビの中の出来事ではない(・・・・・・・・・・・・・)、受け入れざるを得ない現実(・・・・・・・・・・・・)として認識する冷静な朱音の姿があった。

「質問……してもいいかな?」

朱音が笑みで歪んだ顔を、下に向けたまま季流葉に聞く。「どうぞ」と言うようにうなずく季流葉。

「色々聞かなくちゃいけないことはあるけど、とりあえず……僕はなぜまだ生きているの?」

少し迷ったあと季流葉は、

「正確に言えばあなたの肉体は死んではいません……ですが、確実にヒトとしての死には向かっています……こうしている今も」

(肉体は死んでいない?)

「それは一体どうゆうことなんだ?つまりその……僕の肉体は今もこうして生きているけど、「魂」みたいなものが死に向かっているってこと?」

「……噛み砕いて言えばそういうことになりますわね……詳しいことは……この続きを見ていただいた後にお答えしましょう」

(まだ、続きがあるのか?)

朱音は「ばっ」と顔を上げ季流葉を見つめる。朱音は、わずかに瞳に光を取り戻す。朱音の視線を真正面から受け止めて季流葉は、

「では、もう少々お付き合い願えますか?」

暗闇に向かって二度目の合図を送った。合図と共に再び暗闇の中にスクリーンが現れる。グラウンドに横たわる「少年」の姿が映し出されると、二人だけの上映会が再開された……



みぞおちのあたりに五つのトンネル(・・・・)が開通し、熱を失った冷たい地面に横たわる「少年」。

背中から吹き出した血が、見る見る内に地面に紅い絨毯を広げてゆく。眼球は宙を舞う蝶を追うように忙しなく動き回り、口は血を吐き出しながら、金魚のようにパクパクと開閉を繰り返す。意識はまだ残っているようで、僅かにうめき声を上げていることから、絶命には至っていないことが分かるものの、それは既に「肉塊」と表現しても差し支えの無い代物であった……その姿を見下ろし、確実に植え付けた(・・・・・)ことを確認した男―ウルヴァは左手を一振りし、爪に付着した血を払い言う。

「その内「フォールダウン(・・・・・・・)」が始まれば痛みも無くなるだろう。お前が堕ちたころ、主と共に迎えに来よう。それまでにせいぜい「ヒト」として……」

そこまで言ったところでウルヴァは突然、体中に走った悪寒に言葉を飲み込み、身構えた。(空気が変わった?いや、しかし……)

悪寒を杞憂と判断し、構えを解こうとした次の瞬間……

突如、音もなく吹いてきた「風」に鎧と爪ごと左腕を切り落とされる!

「なにっ!」

地面にゆっくりと落ちて行く自らの左腕を見ながら驚愕するウルヴァ。しかし、一瞬後には現れた脅威を迎え撃つべく、再び構えを取る。

(気配は無かった!それに、今の衝撃波は……まさか!?)

「少し……狙いがずれてしまいましたわね……」

唄うような声がどこかから、グラウンドに響く……声のした方へ顔を向けるウルヴァ。その先―グラウンドの金網の上には全身を黒い衣服に包まれた黒髪の美しい「少女」が立っていた。


腹部の辺りが、焼ける様にその熱量を増していくのを感じながら、「少年」は現れた「少女」

を視界に捕らえる。先ほどまで忙しなく動き回っていた眼球は、焦点を「少女」に合わせたところで……その動きを止めた。少しずつ、肉体から命が零れてゆくのを感じながら「少年」は、

(……キレイだな)

「少女」に魅入っている自分に気付いた……


突如、現れた「少女」は、今この空間において、一番の違和感であった。眼下に鎧の男を平然と見据えながら、その顔には笑みを携え、右手に握られた彼女の身の丈近くはありそうな長く細い剣からは刻まれた「(ルーン)」が淡い光を放っている。

(闇に溶け込む漆黒のモーニングクロース(喪服)と長髪。そしてその体躯に似つかわしくない長剣)

ウルヴァが、自分の腕を落とした相手の正体を見極めんと睨む。それに対して「少女」は、

「ご紹介が遅れて申し訳ありません。私は「四季(クアトリメ)」が一人、春を司る「悪魔」……」

そう言いながら、剣を握ったままの手でスカートの裾を掴み、

「『メルテッドスノウ(雪解けの悪魔)』のキルハ……あなた(・・・)()の「敵」ですわ」

以後お見知りおきを、と続けるとちょこんとお辞儀をして、微笑を浮かべる。その微笑は自ら「敵」と名乗った相手へ向けるにはあまりにも穏やかであった……しかし、「敵」に向けられた微笑に怒りを覚えるならまだしも、向けられた相手(ウルヴァ)は、全身に戦慄が走るのを感じていた。

(『メルテッドスノウ』だと?まさかあの「処刑人形(エグゼキュータードール)」がこうも早くに出張ってくるとは!)

自ら評した相手を目の前にして、再び戦慄を覚えるウルヴァの肉体。

「片腕で相手にするには少々荷が重過ぎるか……」

そう呟いて、ウルヴァは落ちていた左手を残った右手拾い顔を上げると……言葉とは裏腹に少女へと向かって地を蹴った!風を切るような勢いで近づくウルヴァに対して、「少女」は、

「あらあら、せっかちな方ですわね。そんなに焦らなくても……お相手して差し上げますわ!」

笑みを浮かべたままそう諭すように言って、右手に握られた剣を軽く振る。同時に、

「ギィン!」

と大きな金属音が響き渡る。それは「少女」の持つ剣とウルヴァの右手に握られた左手(爪)が交錯した音だった。

「ぐぅっ!」

意外にも簡単に爪を弾かれ、金網の方へと吹き飛ばされるウルヴァ、それとは逆にその場で涼しげに剣を持ち直す少女。

(力負けした?その細い体躯(からだ)のどこにそんな力が?)

ウルヴァは、金網に四つん這いになるようにして取り付き、体勢を立て直す。

(いや、相手は「四季(クアトリメ)」……気を抜けば一瞬で!)

「少女」の力量を自らの中で修正し、左手(つめ)を持ち直すと、金網を蹴り再び「少女」へ向かって飛び出すウルヴァ。向かってくる相手を視界に捕らえながら金網から飛び立つと、今度は自らそれを迎え撃つ「少女」。宙で二人が交錯する。瞬間、金属同士の摩擦で、二人の間に閃光の様な火花が散る。接触後、宙に浮いたままの「少女」とは対照的に、地面へと弾き飛ばされる様にして一足先に着地するウルヴァ。それを追うように、再びウルヴァを眼下に見下ろしながら、舞い落ちる木の葉の様なゆったりとした速度でグラウンドに降りてゆく「少女」。

「『エインへリャル(死せる魂)』にしては中々やりますわね……少しばかり侮っていましたわ」

唄うような声で相手への評価を述べる。しかし、「少女」の言葉とは裏腹に、両者の優劣は明らかであった。

(やはり、私一人では力の差は歴然。恐らく逃げるのも叶わぬだろう……ならば!)

手足を着いて地面に着地していたウルヴァは、「少女」の着地際を狙い、再びその四肢をバネのようにして飛び掛かる!が、またしても「少女」は剣の一振りでそれを払いのける。

「大したものだ、『メルテッドスノウ』!「四季(クアトリメ)」を相手にしているとはいえ、この私がこうも子供扱いを受けるとは思わなかったぞ!」

 巨体を弾き飛ばされながらも、叫ぶウルヴァ。その後も「少女」へ攻撃を仕掛けては弾き飛ばされをひたすら繰り返すのだが、当然ながら相手にダメージを与えることは叶わず、むしろ体力を削られていくばかりであった。しかしウルヴァには、焦りや動揺といった感情は微塵も無く、頭の中はむしろ「少女」に対する尊敬の念と自らの「強大な力を持つ者」への挑戦心、で一杯だった。

(ダメージを与えられぬことは、百も承知……しかし!)

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

叫び声をあげ、自らを奮い立たせるようにして飛び掛るウルヴァ。その声はどこか楽しげで、頭を覆う兜からもそれが伺いしれる。しかし、それとは対照的に「少女」の周りには悲しみといった感情が漂っている……数度目の爪による斬撃を難なく受け流したところで「少女」は、

「私の不意打ちとはいえ片腕の相手を嬲るのはあまり気が進みませんわね……断られることを承知(・・・・・・・・・)で尋ねますが……「あれ」を返してはいただけませんか?」

……悲しそうな顔で問う。それを聞いたウルヴァは、先程までの嬉々としていた雰囲気を一変させる。彼の周りに漂うその気配は……怒り。

「戯言を!私はお前の敵だぞ!情けなどかけず一思いにやれば良かろう!」

そう嫌悪の感情をあらわにした声で叫ぶと、再び「少女」へと飛び掛った……それが恐らく通用しないことを承知の上で。

「失言は謝罪いたします、しかし……」

 理解していても、期待していた返答を得られないことに悲しみを覚える少女。

「いえ、仕方無いことなのでしょうね……ならば、直接あなたの主に聞くことにしましょう!」

そう言いながら「少女」は剣を両手で持ち直すと、頭上高く掲げ、

「クラウ……ソラス!」

自らの手に握られた長剣の真名を呼ぶ。

「少女」が叫んだ瞬間、「クラウソラス」―そう名を呼ばれた剣は、その刀身を、暗闇をなぎ払わんばかりに輝かせる!光は瞬く間にグラウンド中を包み、少女の声に応えた(・・・)剣はその威力をいかんなく発揮しようとしていた……


……グラウンドを照らした光が徐々に収縮してゆく。宙に浮いたまま動きを止めるウルヴァの肉体。「少女」はゆったりとした動作で剣を持ち直し、眼前のそれ(・・)に目をやる。兜から、真っ直ぐ縦に走った青白い光が、纏った鎧ごとその巨体を二つに分かれさせる。

二人の勝負は、「少女」が剣の名を呼んだ瞬間に付いていたのだった……

「少女」が悲しそうな顔で、相手の消去を完了したと確信した……その瞬間、

「見事だ、『メルテッドスノウ』……」

僅かに目を見開く「少女」。その顔には少しばかりの驚きを浮かべている。聞こえてきた声は間違いなくつい先程切り裂かれたウルヴァのもの。しかし、それは目の前に浮く鎧から発せられるものではなかった。声が続ける。

「しかし……詰め(・・)が甘い。情けなどかけずに、最初からその力を使っていれば一瞬で勝負はついていたはずだ」

自分を両断した相手へアドバイスとも言える言葉を掛けるウルヴァの声。

「次は……次は今回のようにはいかぬぞ……心して来い「メルテッドスノウ」!」

そう()が(・)叫んだ(・・・)後、二つに切り裂かれた鎧は、黒い霧に姿を変え「少女」を包みこんだ。

「しまっ……」

「少女」の視界を完全に塞ぐ霧。視界を奪われた「少女」は状況を打開するべく左手を差し出す。すると、突如「少女」の周りを風が吹き荒れ、霧を瞬く間にどこかへと運んでいった。 視界がクリアになると、

「不本意ではあるが、『ラグナロク』を前に消えるわけにはいかんのでな。次の機会には必ず主の名を……そして私の名を貴様に刻もう!」

ウルヴァの屈辱に満ちた声だけが反響して消えていった……

目標を逃し、しばしその場に立ち尽くす「少女」。その顔には僅かばかりの落胆と、止めを刺す機会を逸した自らへの、自責の念が浮かんでいた。

「……ティル、追えますか?」

立ち尽くしたまま、誰かに問う。

「いえ、既に気配は感じられません。どうやら奴の実体(・・)は少し前からここには無かったようです」

どこからともなく厳格な深い声が響く。

「そうですか……私としたことが、「して(・・)やられた(・・・・)」ということですわね」

「少女」はフゥ、と一つ息を吐くと闇の中へ持っていた剣を納めた。

「これでは「甘い」と言われても仕方ありませんか……」

そう言うと体の向きを変え、歩き出した。


戦いが始まる数秒前、勝ち目が無いことを早くに悟ったウルヴァは、すぐに目的を「善戦」から「逃走」へと変更した。一見、その無謀とも言うべき「少女」への攻撃は、「少女」に、「あくまで戦い抜く気構え」である、ということを意識させるためのもの。数回に渡る無茶な攻撃(・・・・・)によってそれに成功したウルヴァは、切り裂かれる直前、彼の主たるデルバトスより授かった「デコイ」という霧の分身と入れ替わり、戦線を脱していたのであった。


「少女」が歩き出した先には、先程からグラウンドに横たわり放置されたままだった「少年」と、赤く染まった地面があった。「少女」はゆっくりとした足取りで「少年」のところへと向かう。その途中、深い声が「少女」に尋ねる。

「既に、植えつけられた後の様です……始末いたしますか?」

「始末」という単語に少しばかり怪訝な表情を浮かべる「少女」。しかし、すぐにそれを顔から取り除くと、

「いえ、少し様子を見ます……しなくて済むのならそちらの方が良いでしょう?」

そう答えて微笑み、倒れている「少年」の横に正座を崩したような形で座る。グラウンドに広がる闇から「ハァ」と溜め息の様な声が聞こえてくる。それを聞いた「少女」はクスクスと笑った後、「少年」の顔を覗き込み、

「申し訳ありません、少しばかり粗相(・・)をいたします」

そう命の尽き掛けた「少年」に言ってから……少年の唇に自らの唇を重ねた……



目の前のスクリーンが再び静かにその光を失うと、三度、暗闇の世界へと朱音は引き戻された。座ったまま、頭を抱える朱音。どうやら、珍しく思考がまとまっていないようである。

「では、一つ一つ順を追って説明してゆきましょう」

そう言うと季流葉は、ゆっくりとイスから立ち上がった。そのまま数歩歩くと、朱音の方へ向き直る。

「まず始めに、先程の映像のことから。先程私達が見た映像は、もうお分かりのように、あなたが奪われた「昨日の記憶」の一部です。奪ったのはあの「ウルヴァ」という者のようですわね。理由は……「デルバトス」という者も言っていましたように、私にその存在(・・)を知らせないためでしょう」

(記憶を奪う?そんな事が可能なのか?「イベント」を記憶する海馬に物理的に干渉することが出来れば可能かもしれないけど、それだったら外科手術でもしないと……)

朱音の優秀な脳が勝手に思考を巡らせる。そんな朱音にお構い無しで季流葉は、

「今回私が見せたものは、奪われた「オリジナル」ではなく、あなたが訪れた場所や風景から、少しだけあなたに関する「記憶」をお借りしたものです。私達の概念では記憶は「パウダー」と呼ばれる粒子状のもので出来ていて、取り出したり、逆に戻したりというのはちょっとした技術があれば簡単に出来るのですわ」

「質問なんだけど……その、技術?っていうのはどういうものなの?」

朱音は単純に知的好奇心から訊ねる。

「『魔導(アルスト)』と言うものなのですが、そうですね……あなた方の世界でも使われている「科学」の延長と考えていただいて差し支えないと思いますわ。例えば……」

 そう言うと季流葉は、手の平を前に押し出すように構え、次の瞬間、朱音に向かって「ビュン」と一陣の風を起こしてみせた(・・・・・・・)。目の前で起こされた(・・・・・)出来事に目を丸くする朱音。

「『風』……というものは気圧の変化を「因」として、大気という流体が移動した「結果」に起こる「現象(フェノメ)」です。同様に『火』は摩擦などによる発熱を「因」として、物質が燃焼した「結果」起こります」

 構えた手の平を戻すと、今度は指で円を描く。すると今度は、その先から小さな旋風を起こしてみせた。旋風は少しずつその大きさを増してゆくと、

「全ての物質に起こる「現象(フェノメ)」には「因果」があります……私達はその「因果」を、知識として「理解」するのではなく、感覚として(うつわ)に「宿す」ことで世界に働きかけ「魔導(アルスト)」を使役しているのです……そして、宿したその「因果」を……」


「……『(ザイ)』」


 言葉と共に季流葉の周りに、先程よりも遥かに大きな旋風が起こる。それは、触れるものを切り裂き、吹き飛ばし、拒絶する『風の理』……

「……そう呼んでいます」

 自ら起こしてみせた「現象」を笑顔で解説する季流葉。当然のことながら、朱音には、目の前で起こった「それ」を認識(・・)することは出来ても、理解(・・)することはできない……

 確かに、物質の状態や流れを理論や数式に頼ることなく、感覚的に捉えることが出来るのであれば、先程の様に「現象」を起こすことも可能であろう。しかし、元来「ヒト」という生き物は、眼に映るもののみを「識る」ことを幼少より「矯正」されてきた。先程キルハが見せたような「現象」は既に朱音たち「ヒト」の見識を遥かに超えた「奇蹟」とも言うべきものである。恐らく、「現象」とそれにまつわる「因果」を遥かに身近に感じることのできる環境であるキルハの世界とは根本的な概念からして違うのだった……


 風が止み、舞い上がっていた季流葉の長い髪が、ゆっくりと重力の支配下に戻ってゆく。

「……難しく考えることはありませんわ。突き詰めていけば、たどり着くのは「現象(フェノメ)」を起こすのに「道具」の変わりに自らの「(アニマ)」を……そして、「エネルギー」の変わりに、自らの体内に蓄積した「エーテル」というものを媒質にするかの違いだけですから」

(……簡単に言ってくれるけど、それは最早、御伽噺の世界の話だぞ……)

 淡々と話す季流葉の口調に、朱音は僅かに頭痛を覚えた。

「さて、魔導(アルスト)に関しての説明はこのくらいにして、次に、改めて自己紹介と参りましょうか。私は先程お見せした映像の中でも申しておりましたように、あなた方ヒトが「悪魔」と呼称する存在です」

それを聞いて「桜井季流葉は普通のヒトではない」という事実の再確認をする朱音。一度聞いたはずの「悪魔」という単語に少しだけ畏怖の感情を浮かべる。それを見た季流葉は、少しばかり悲しげな表情に変わり、すぐに元に戻した。

「桜井季流葉というのは、あなた方ヒトの暮らす世界での仮の名です。私が本来存在する世界……「スヴァルトヘイム(魔導世界)」といいますが、そこでは……「メルテッドスノウ(雪解けの悪魔) キルハ」そう呼ばれています」

朱音は自らを「春を司る悪魔(ディアブロ)」と称していた季流葉のセリフを思い出していた。

「そして……コレが一番知りたいことでしょうか?あなたを襲ったあの二人は、主神「ベルヴェルグ」が統べる神の世界……「アスガルズ(秩序の住まう場所)」より使わされた「十二の天使(ゾディアック)」の一人と、「エインヘリャル(死せる魂)」と呼ばれる従者です」

「・・・はい?」

急に現れた「神」と「天使」という単語に、頭を殴られたような感覚に陥る朱音。先程の「(ザイ)」と「悪魔」の話でさえ、許容範囲外なのだから無理もないだろう。ほとんどのヒトが、物語や、童話、映画の中でしか耳にしないであろうその単語は、朱音にとてつもない衝撃を与えた。

「驚くのも無理もありませんわね。あなた方にヒトにとって「神」や「天使」と言えばヒトならざる姿を持ち、崇め、敬い、あなた方を護り導いてくれる神聖な存在のことでしょうし」

朱音は、自分の思考のキャパシティをはるかに超える話の大きさに、一瞬脳がブラックアウトを起こしそうになった。

「次は、彼らアスガルズの住人がなぜ、ヒトの世界への干渉を始めたか……」

先程から季流葉が使用する「ヒト」という他人行儀な表現に、嫌でも季流葉が「ヒトの姿をした別の生き物」であることを痛感させられる朱音。

「本来の神、特に今回遭遇した二人の主である「ベルヴェルグ」という神はヒトに対する敵意を持った……そうですね、あなた方からすれば「悪神」とでも申しましょうか?」

 話しながら、少し動くたびに揺れる長い髪を片手で軽く押さえる。

「……なんで神様が「ヒト」を?」

「少し長くなりますが、先程も出てきましたようにこの世には三つの世界が存在しています。一つは神々と天使の住む「アスガルズ」。そして二つ目は私達、悪魔や精霊が住む「スヴァルトヘイム」。そして三つ目が、あなたがた「ヒト」が住む「ミズガルズ(宿命の世界)」です。三つの世界は「マナ」を統べる大樹「ユグドラシル」の中に寄り添いながらも、各世界を隔てる「ビフレスト(虹の橋)」とその番人によって、互いの干渉を拒むように存在していました。しかし、ここ千年程でユグドラシルは急速に衰え、あと数十年程で三世界のマナは枯渇を迎えようとしています」

朱音はまたしても頭痛を覚える。長生きしてもせいぜい百年がいい所の朱音たちヒトにとって、千年という歳月、そして「マナ」とやらはまったく実感の沸かない別次元の話しだった。

「マナは、私たち三世界に生きる全てのモノ達にとっての「命の源」。それが枯渇するということは、三世界全ての生命の死……つまり滅亡を意味します。三百年前、私達スヴァルトヘイムの悪魔とアスガルズの神は、それまでの不干渉を一旦止め、協力することを決めました。そして、何とかユグドラシルの衰えの原因を究明しようと試みましたが……三百年に及ぶ今でも、それは分かっておりません」

そこまで言ったところで、俯き苦しそうな表情を浮かべる季流葉。当然ながら、季流葉達にとってもマナの枯渇は、自分達が暮らす世界の滅亡を意味する。それに、三百年経っても解明できなかった謎が、残された期間内に解き明かされることはあるのだろうか?焦りは、マナの存在すら知らぬ朱音たちヒトよりも遥かに大きいはずだった……

「そんな時でした……ベルヴェルグが突然、ある「計画」を打ち出したのです……」


『我々に残された時間は少ない。ユグドラシルの衰えを止められぬ今、我らのとるべき道は一つ!』


「その道とは『ラグナロク』……ゆるやかに世界の滅びを迎えるしかない私たちに残された最善にして最悪の手段(・・・・・・・・・・)でした」

そう言って再び顔を俯ける季流葉。その顔は先程よりも一層暗く感じられる。言葉が持つ、得体の知れない力に僅かに体を震わせる朱音。

「その……『ラグナロク』っていうのは一体どんな方法なんだ?」

「『ラグナロク』、それは秩序を捻じ曲げ「(タイズ)」を一時的に緩めることで、三世界間に存在するビフレスト(虹の橋)を開放し、ヒトの住むミズガルズへと侵入し、そして……」

 一瞬、不安と言う名の冷たい風が暗闇の世界を包み込んだ……


「……大虐殺を行うというものです」


「ちょっと待ってくれ!大虐殺?なんでヒトを殺す必要があるんだ!」

「大虐殺」という単語にヒトとして当然の反応を見せる朱音。怒鳴るようなその声に、季流葉は、

「ベルヴェルグは、ユグドラシルの衰えを、ヒトによるマナの大量消費が原因であると考えているのです。ミズガルズではいつの時代も「争い」が繰り返されてきました。人種差別、経済格差に宗教……常に争う種は耐えません。そして「争い」が起こるたびにミズガルズ中に巻き起こる怒り、悲しみ、憎しみ等の負の感情。世界のバランスを保たんとするユグドラシルはその負の感情による世界の「綻び」を、防ぎ、相殺しようとします。そのために、大量のマナが消費されてきました」

悲しそうに言い放った。言葉が出ない朱音。言われてしまえばその通りだ、ヒトという生き物は、その存在が現れてから常に争いを繰り返してきた。それは、歴史の教科書を持ち出して、適当なページを開けば現れる「戦争」の二文字からも明らかだろう……朱音は、今朝見たニュースと、それに対する「無関心」な自分を思い出しながら、

(こうして別の種族からヒトという生き物の評価を伝えられると、何て「ヒト」って醜く見えてくるんだろう……)

顔を下げ、一瞬、自分もヒトであることを恥じた……そんな朱音の様子を気に掛けながらも、季流葉は続ける。

「つまりヘルヴェルグは、「ヒト」を、三世界の「癌」であると考え、それを排除する行動に出ようというのです。「ヒト」が絶滅すれば負の感情は無くなり、マナの大量消費は抑えられる……それによってユグドラシル自体の存命を行おう考えているのです」

「崩壊」、「虐殺」、「マナ」、「ヒト」等の言葉達が朱音の頭を駆け巡る。ある程度整理がついたところで朱音は聞く。

「……アスガルズの神が僕達の世界……ミズガルズに攻め込もうとしているのは分かったよ。その目的も。それなら君達「悪魔」……いやスヴァルトヘイムの目的(・・)はなんなんだ?」

季流葉は少し考えた後、

「私達はミズガルズに危害を加える気はありません。私達の目的は……「現状維持」です……いえ、「でした」と言った方がよろしいかも知れませんね。確かにユグドラシルを生き永らえさせることは最優先事項ではありますが、マナの枯渇が近づいている今この時に「ラグナロク」を起こすことはリスクが大きすぎる、というのがスヴァルトヘイムの上層「エアルズ」達の意見でした」

 そう、毅然とした態度で言った。

(あれ?ちょっと待てよ?)

そこまで聞いて初めて、朱音は一番聞かなくてはいけない疑問へたどり着いた。

「それなら桜井さんはなぜこちらの世界へ?デルバトスとかいう奴らが「ラグナロク」を起こすために僕らの世界に干渉するのは分かるけど、スヴァルトヘイムの目的が現状維持なら、そこから出る必要は無いはずだ?」

 話に黙って耳を傾けるキルハ。朱音は続ける。

「さらに言えば、デルバトスとかいう奴は君のことを罠にはめようとしていたみたいだし……つまり、デルバトスは干渉(・・)というのとは別の目的でミズガルズへ来ていた。そして、悪魔である君とあの天使は、今は何らかの理由(・・・・・・)で敵対関係にある、ということになるんじゃないかな?」

 そこまで言うと朱音はキルハの答えを待った。

「ついこの間、といってもあなた方には数十年というのは長い年月でしょうか?「ラグナロク」に対する意見の食い違いを起こしたスヴァルトヘイムとアスガルズは決別、とまでは行きませんがそれまでの三百年に及ぶ相互の協力関係を取りやめました。各自ユグドラシルの衰えを究明するための研究は続けてきましたが、業を煮やしたヘルヴェルグは、ついに「ラグナロク」の実行を決心しました。「ラグナロク」の実行にはいくつかの段階を踏まなければなりません。その中で最も重要なのが、ビフレスト(虹の橋)の開放です」

キルハの「解説」を一つ一つ理解しながら、朱音は静かに次の言葉を待つ。

「ビフレスト(虹の橋)の開放には、まず(タイズ)を緩める必要があります。具体的に言えば記憶の「忘却」。アスガルズに暮らすヒトの記憶を「アガペー(神の寵愛)」というものにより奪い取ることで生まれる「カオス」を利用しようしているのです。忘却によるカオスは三世界の秩序を、ユグドラシル自身も気づかないくらいゆっくりと捻じ曲げていきます。それにより三世界間に存在する(タイズ)が緩むと今度は、その番人を召喚し契約を行うのです。契約とは三世界のビフレスト(虹の橋)を繋げるための儀式で、最大で七日間ビフレスト(虹の橋)を開放することが可能になります。ちなみにビフレスト(虹の橋)は、神や天使、そして私達悪魔の様に体内にエーテルを宿すもの達は、大昔に創られた「制約(リミテーション)」と呼ばれるシステムにより普段は通ることができません。つまりゲートが開けば神々や天使達は、エーテルの制約を受けずに開いたゲートからミズガルズへと侵攻することが出来るようになるのです」

(忘却、楔、カオス、それにビフレスト(虹の橋)……)

 初めて聞く単語達を冷静に整理し、順を追って「ラグナロク」に対する理解を深めていく朱音。その上で、自らも記憶を奪われた経験を踏まえキルハに疑問をぶつける。

「奴らが記憶を奪ってその、楔?それを緩めてゲートを開こうとしているっていうのは分かるけど、カオスが生まれるっていうのはどういうこと?記憶を奪うだけでそんなに干渉が起こせるものなの?」

それを聞くとキルハは、朱音の理解の早さに少し感嘆した後、

「少し説明が足りませんでしたわね。正確には記憶が奪われるのは「アガペー(神の寵愛)」を受けた本人ではなく、その周り(・・)に(・)存在(・・)する(・・)ヒト(・・)(たち)です。例えば、「アガペー(神の寵愛)」を受けた一人のヒトがいたとしましょう。受けた直後は特に変化はありませんが、肉体は徐々にヒトならざるものへと変化し、親しい者達全てにその存在を徐々(・・)に忘れられていきます。気づけばそのヒトを知るものは誰もおらず、本人は別のモノへと存在を書き換えられる……そのヒトはきっと、悩み、苦しみ、絶望の淵に立たされるでしょう。なぜなら、自分の親しい者がみんなそのヒトのことを覚えていない(・・・・・・)というのは、彼らの中ではそのヒトは死んでいるのも同然(・・・・・・・・・)だからです」

少しの沈黙の後、キルハは続ける。

「いえ、それはただ死ぬよりも辛い、「生ける死者」になるということ。つまり、変化した肉体が残り、存在だけが失われてゆく緩やかな(・・・・・)……生ける死者達はその存在を、ヒトの生ける世界からは許されてはいません……その存在自体が「カオス」を生み出すのです」

(それって……まさか?)

「賢いあなたのことですからもうお分かりでしょうね?それは……「エインヘリャル(死せる魂)」。先程も申しました、「堕ちたヒト」のことです」

(エインヘリャル(死せる魂)……)

デルバトスという「天使」は、ウルヴァという「エインヘリャル」に言っていた。

『植えつけておきなさい!』と。

(僕を貫いた化け物、あれが元はヒトだって?それに植え付ける……まさか僕も?)

再び動揺を見せ、頭を抱える朱音。膝は震えだし、呼吸は荒く、その体は今にもその場に倒れそうだ。

(僕も、あんな化け物になってしまうのか?)

季流葉はそんな朱音に近づき、肩に手を掛けると、

「神谷君、落ち着いてください。「絶望」するのは、最後まで私の話を聞いていただいてからでも遅くはないと思いますわ」

そう言って、再び朱音から離れ話し出した。

「アスガルズの住人達は「エインヘリャル(死せる魂)」を、カオスを起こすべく増やし続けています。また、あなたも目にしたように「エインヘリャル(死せる魂)」はヒトならざる力を持ち、その力は時に、主たる天使や私たち悪魔を超えることもあります。彼らが数を増せば、アスガルズにとっては大きな戦力となるのは間違いないでしょう……」

 そう言われて、朱音は再びウルヴァのことを思い出した。

(あんなのが・・・・・・他にも?)

「何度も言いますが、私達スヴァルトヘイムが望むのは現状維持。アスガルズがエインヘリャル(死せる魂)を増やすことにも、「ラグナロク」にも干渉する気はありませんでした……ですが、最近になってスヴァルトヘイムで発見された一冊の古い書物が争いの火種となったのです」

 そこまで言うと、キルハの表情に真剣さが僅かに増した。

「それは……今では誰も読める者のいない、数千年前に存在したということしか分からない古代文字で書かれたもので、発見後すぐに研究が始められました。そして解読が進むにつれて、ある重大な事実が記されていることが発覚したのです」

 キルハは少し自分の立っていた場所の周りをゆっくりと歩き周り、朱音に背を向ける位置に来たところでその足を止めた。

「それは、スヴァルトヘイム、アスガルズ、ミズガルズ以外の第四の世界……「幻獣(ファンダー)」と呼ばれる者達が暮らしていたとされる「ヴァナヘイム(荒ぶる獣たちの世界)」の存在でした」

 ゆっくりと振り返りながら言うキルハ。

「まだ解読途中ですが、その書物によると今から四千年ほど前、幻獣(ファンダー)達はユグドラシルに頼らずにマナを生成する永久機関「ノア」を抱えた巨大な箱船に乗ってユグドラシルを後にしたということでした」

(ノア……あの聖書の?)

 突如現れた、自らも良く知る単語に少しばかり驚く朱音。

「スヴァルトヘイムの悪魔達は歓喜しました。書物にはノアを創り出す方法らしき文も記されており、もしもノアを作り出すことが出来ればユグドラシルに頼らずともマナを生成できます。何より世界の滅亡を恐れる必要もなくなる、と……」

(確かにそれが本当なら、ノアを作り出すことができればアスガルズもヒトも、何よりユグドラシルも……)

「すぐに私達はアスガルズに使いを送りました。再び協力関係を結び書物の解読を一日でも早め、共にノアを創り出そう、と……」

 そこまで話すとキルハの表情に影が落ちる。それは誰が見ても一瞬で判別可能なほど悲しみと落胆に満ちた表情だった。

「返答は日が二回昇った後にありました。送った使いは丁寧にも、べルヴェルグの愛馬「スレイプニル」の背に乗って帰ってきました……亡骸となって」

「!」

朱音は絶句した。

(そんな、それじゃあアスガルズはやっぱりヒトを……)

「亡骸を送り届けた後、スレイプニルはこう言いました」


『ヘルヴェルグ様からの返答だ、

「我々は残された時間で大儀たる「ラグナロク」に向け前進するのみ。そんな実在するかも分からぬ「おもちゃ作り」などにかまけている暇は無い!」

とのことだ……』


「そう言うとスレイプニルは去っていきました。どうやら主神ヘルヴェルグは一度進路を取った舵を切る気は無いようだ、というのがエアルズの結論でした。仲間を亡き者にされた怒りもありますし、何よりアスガルズの協力が得られないのは正直大きな痛手ではありましたが、スヴァルトヘイムはそれを目の前の小事として研究と解読の続行を続けました。ノアを作り出すという大儀をその胸に夢見て……」

 暗い表情を保ったまま、憧れとも形容できる表情を顔に浮かべ、話し続けるキルハ。

「そんなある時、事件は起こりました。書物を解読していた研究所が何者かに襲われ、書物の半分が奪われたのです。襲撃者はおそらく……ヘルヴェルグに仕える十二の天使(ゾディアック)の一人「デルバトス」……単独でスヴァルトヘイムに進入し任務を遂行したその能力の高さと、研究所に残されていた、侵入者が放ったらしき黒い霧の痕跡(・・・・・・)、そして先程の「映像」が何よりの証拠です。ヘルヴェルグの狙いはおそらく……『ラグナロク』を起こした上でのマナの独占なのでしょう。それは、私達の使いを殺し、あくまで「ラグナロク」を起こす気構えであること、そして書物を奪ったことからも想像に難しくありません。エアルズは遂に重い腰を上げ、これをアスガルズによる明らかな敵対行動であるとして、私達「四季(クアトリメ)」に書物の奪還と……「敵の殲滅」を命じました……」

 少しずつ暗い表情が無くなり、一転して闘志に満ちた力強い顔つきになる。

「そして、残されたエーテルを頼りに追ってきた先がミズガルズ……そしてこの藍空市だったというわけですわ……」


「……なるほど」

 数秒の後、話の大筋を理解した朱音が言う。

「その、ノアの製造法とマナを巡ってアスガルズとスヴァルトヘイムは対立した。そして、その書物を取り返すべくあのデルバトスって奴を追って、桜井さんは藍空にやって来たと……でも、その「制約(リミテーション)」があるのに、君にビフレスト(虹の橋)の行き来が出来るのはどうして?」

「単独での行動であれば、一時的にエーテルを抑えることで、隙間を通ることは出来ます。それに干渉を禁じてきたとは言え、最小限、例えば調査などでは今までも行き来はしてきましたし……」

 キルハは表情を笑顔に戻して答えた。

「さらに言うと……実は私には半分ヒトの血が流れている(・・・・・・・・・・・・)のですわ」

「えっ?」

 さらりと言われた、驚愕の事実に驚く朱音。

「私の母がヒトだったのです……と言っても、母のことは断片的にしか覚えていませんが」

 少しだけ笑顔の中に翳りを見せる。

「ですから、他の純粋な悪魔よりも、エーテルの制約を受けにくいのです。「四季(クアトリメ)」の中で私が、最初にこちらへ使わされたのもそのためですわ」

 そう、悪魔とヒトのハーフである少女は言った。そんな彼女に朱音は、

「そっか……少し安心したよ」

 自らも笑顔を作りつつ言った。それを聞いて意外そうな顔をするキルハ。

「正直、最初はこんなに普通の女の子なのに「悪魔!?」なんて思ってしまったんだ。けど、それを聞いたら何か安心した。『なんだ、半分とはいえ「ヒト」なんじゃないか』って感じでさ」

 そこまで言うと、ハハハと声を出して朱音は笑った。そんなアカネを見ながら、キルハは、

(「半分とはいえ」……そんな考え方もあるのですね)

 少しだけ昔の悲しい思い(・・・・・・)を回想したのち、

「神谷君……ありがとうございます」

これまで以上の笑顔で朱音に言った。言われた朱音が今度は意外そうな顔をする。何に対しての礼なのか、そして何よりキルハの見せる笑顔がキレイすぎて……心臓の鼓動が高鳴って止まらなかった……

 突然黙ってしまった朱音の様子を不思議に思いながらも、「何か質問は」と言った表情を朱音に向ける季流葉。朱音は沈黙でそれに答える。

「さて、これで三世界のこと、そして私の目的などについても、理解していただけましたわね?それでは最後になりますが神谷君自身のことについてお話いたしましょう……お察しの通り、神谷君はあのウルヴァというエインヘリャルによって「アガペー(神の寵愛)」を植えつけられました」

 朱音の顔色が少しばかり青味を増す。

「ですが、神谷君のエインヘリャル化……「フォールダウン」というのですが、それは今、私が押さえ込んでいます」

「?」

驚く朱音にニコッと笑いかけるキルハ。

「一体どうやって?」

「先程の映像の最後で、あなたに口づけをしていましたよね?」

「あ〜、そういえば…………って、え〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 朱音の顔から青味の類が一切消え、赤味に支配されてゆく……


その瞬間……それまでの緊張感漂う空気(シリアス)はどこかへ飛ばされた。

朱音は再び足元へと目を向ける。先程と違うのは、「絶望」に包まれていたはずの表情が、今は「羞恥」という名の感情に支配されていたことだろう。ついさっきまで忘れていた「少女」との出来事に朱音は、思考を一瞬、別の次元へと放り投げた。

世の中で一体、何人の人間が「自分のキスシーン」を見ことがあるだろうか?そして、それを見た人間の中で何人が、朱音と同じ心境に達せずにいられただろう?普段は大抵のことに対して冷静なはずの朱音が、今はその心を乱され放題であった。人より多い知識を持っている朱音も、男女間の色恋事に関してはそこらを歩く高校生と変わりが無い。(本人は、そんな自分の態度が都子やヨシノをヤキモキさせていることなど、全く気づいていないのだが……)

数秒間、顔を下に向けたまま微動だにしない朱音。その頭の中では、

(落ち着け、落ち着くんだ神谷朱音……天網恢恢疎にして漏らさず、サインコサインタンジェント、あれはただの皮膚接触……そうだ!ただ単に場所が唇と言うだけであって握手と変わらないじゃないか?ああでも、柔らかそう……じゃなくて!)

意味の分からないセリフが勢いよく羅列されていく……そんな朱音を見てキルハは、

「あの、神谷君?もしかしてその……」

遠慮がちに聞く。それに続けて

「口づけは……お嫌いでしたか?」

と、いきなり確信をつく質問を投げかけた。先程までの思考が吹き飛び、口が何か言葉を発しようとするが、形にならない。そんな朱音の様子を目にした季流葉は、

「そうですか……ヒトにとって口づけが「愛し合うもの同士の神聖な行為」だというのは本当だったのですね。そんなことも考えずに私ったら……申し訳ございません。あなたを助けるためとはいえ、断りもなく唇を奪ってしまい……お嫌でしたわよね?私との口づけなど……」

そう言って落ち込んだ表情を朱音に向ける。どうやらキルハは、朱音の反応を自らに対する「拒否」と受け取ったようだ。季流葉の落ち込みようを目にしながら、その理由を必死に考えるが、朱音の脳は数学の問題の様には答えを導き出してはくれない。落ち込むキルハの様子を目にして、沸騰していた頭が急速に冷やされていき、頭の中に冷静な朱音が戻って……

「それにあなたの唇は、あなたの愛する方だけのものですのに」

来なかった……「愛する方」という言葉に過敏な反応をした朱音は、

「いいい、い、いないよ!愛する人なんて!ただ、突然思い出したからちょっと驚いたっていうか、その……」

と必死に弁解するのだが、何に対して弁解しているのかは朱音自身にも分からなかった。季流葉は俯いたままだ。それ以上掛ける言葉の見つからない朱音は、季流葉と同様に黙り込んだ。

沈黙が流れる……時間にして数秒間に過ぎなかったそれは、朱音に取って何時間にも感じられるほど長いものだった。

「神谷君は……」

沈黙が破られる。

「神谷君は……お嫌ではありませんでしたか?」

「えっ?」

質問に対して頭が回らない朱音。

「ですから……神谷君は私に口づけをされてお嫌ではありませんでしたか?」

質問の意味を理解して、今日何度目か分からない頭の沸騰を迎えた朱音は、

「さ、桜井さんにキ、キスされて嫌な奴なんて多分いないよ!それはその……僕自身も例外ではないわけで……えっと……」

動揺をまったく隠せないまま言う。特に後半は蚊の鳴くような情けない声で……それを聞いた季流葉は顔を上げると、

「……良かった」

と、ホッとした表情で言い笑顔に戻る。それを目にした朱音は、再び「ドクンっ」と心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

(何だよこれ?何でこんなに緊張してるんだよ?)

弾けんばかりに鳴り響く心臓の鼓動が、季流葉に聞こえやしないかと不安になる朱音。

「しかし、あなたの意思を確認せずに口づけをしてしまったのも事実です。神谷君、私の

ことを許していただけますか?」

朱音の心臓事情など全く気づかないで季流葉が言う。

「許すだなんてそんな!むしろこっちがお礼、じゃなくてその……」

鼓動が鳴り止まないまま、朱音は答える。それにしても、十七歳の天才高校生にしては何とも情けない姿である。今の朱音を都子や双子の妹達が見たら別人と勘違いするかも知れない。

「そ、それよりも!」

話題を無理やり切り替えようと、無理やり声を張り上げる朱音。

「ちょっと脱線、いや僕が勝手にしたんだけど、僕の体のこと……僕はこの先どうなるのかを教えてもらえないかな?」

 それを聞いて本来の目的を思い出すと、季流葉は、

「今は、私のエーテルをあなたに送り込み発動したで「ディレイ」という魔導(アルスト)でフォールダウンは抑えられています……しかし、気休め程度のものなので、このまま行けば神谷君は、確実にフォールダウンを迎え「エインヘリャル」となるでしょう」

 憐憫という表現が似合う表情で朱音にいう。

「僕に残された時間は……どのくらいあるの?」

「はっきりとは言えませんが恐らく……今日を含めてあと六日(・・・・)と言ったところでしょうか」

(六日!?そんなに短いのか!?)

 自らの、短すぎるモラトリアムに驚愕する朱音。

「何か……」

 無意識にこぶしを握りしめる。

「何か、フォールダウンを避ける方法は無いのか?」

 少しの沈黙の後キルハは、

「……もしかしたらという程度ですが二つ。と言っても、双方共にかなりの難題が伴いますが」

「構わない!教えてくれ!」

 難題という言葉を意にせず、すがるように聞く朱音。その口調は、普段の彼らしからぬ荒いものへと変わっている。キルハは、そうですかと呟いた後、

「一つ目は、スヴァルトヘイムへ行き体内に植えつけられたアガペー(神の寵愛)を特殊な禁呪により取り除くこと」

「じゃあ、スヴァルトヘイムに行けば……」

「いえ、これはほぼ不可能でしょう。」

「!」

 キルハは冷静に言い放ち、朱音は冷静さを失う。言い放った瞬間のキルハの目は「余計な希望を持たせるのは無用」という意志に満ちていた。

「まずは時間の問題。ミズガルズからスヴァルトヘイムへ行くには「ビフレスト(虹の橋)」を通らなければなりません。神谷君はヒトなので「制約(リミテーション)」には捉われませんが、通ったとしてもヒトの足で残り時間内にスヴァルトヘイムへたどり着くのは難しいでしょう……」

 キルハは朱音をしっかりと見据えながら言う。

「さらに、もし辿り着けたとしても禁呪をヒトに行った例は、今まで存在しません。もしかしたら神谷君の肉体は禁呪に絶えることが出来ないかも知れない。それに他世界との干渉を潔癖なまでに嫌う「エアルズ」が、ヒトを救うという行為を許すとは思えません」

(そんな、それじゃあ八方塞がりじゃないか)

「それなら、二つ目の方法は?」

「こちらは……そうですね、難しいことは難しいですが前者よりは可能性はあります」

キルハが厳しい表情を崩さず言う。

「それは…………デルバトスを倒すことです」

それを聞いて、一瞬歓喜を宿す朱音の瞳。

(それなら、桜井さんがあいつを倒してくれれば)

しかしキルハは引き続き厳しい表情を保ったまま、

「……正確にはデルバトスを神谷君の手で倒すということになりますが」

 と、続けた。一瞬、キョトンとしてしまった朱音。

「アガペー(神の寵愛)は本来、一種の契約のようなものです。契約は植えつけられた時点で、本人の意思に関係なく強制的に判をおされます。ですが、契約なら破棄してしまえば白紙に戻る(・・・・・・・・・・・・・・・・・)……神谷君の肉体もヒトのものに戻りますし、周りのヒトの記憶も戻ります。ですが、問題はその方法。契約を破棄するにはその契約者たるデルバトスを、神谷君自身の手で倒さなくてはなりません」

(僕が、あの天使を?)

「方法は無いでもありませんわ。私の目的は元々、デルバトスを倒し奪われた書物を取り返すこと。私と神谷君が協力すれば可能性はグンと上がると思います。それに、デルバトスを倒す、といっても最後に神谷君の手で止めをさせばいいのですし」

「でも、それだと桜井さんには何の得も無いじゃないか?」

 そう言いながら朱音はグラウンドでのキルハとウルヴァの攻防を思い出していた。ウルヴァを赤子同然に撃退したキルハが、例え強大な力を持つ天使相手とはいえ、引けを取るとは思えない。

「得……ならありますわ。デルバトス自身の力も恐らく相当なものですが、ウルヴァという「エインヘリャル」もああ見えてかなり手ごわいです。もし、前回のように片腕ではない、万全の彼とデルバトス、二人を私一人で相手をするとなると、少々厳しいものがあります」

 そう言って、言葉通り厳しい表情を作るキルハの顔。

「ですから……もし、神谷君に協力して頂けるのなら、ウルヴァを神谷君にお任せして私はデルバトスに専念し、ある程度決着が付いたところで神谷君にデルバトスの止めを刺してもらえれば、私一人よりも遥かに楽に決着が付きますわ」

(なるほど、確かにそれなら僕にも……)

「でも……僕は戦う術なんて持っていない普通のヒトだよ?」

 朱音は当然の疑問を口にした。

「再びデルバトスと相見えるのは、恐らくフォールダウンが完了する直前。あなたにその意思と覚悟さえあれば……残された時間で私があなたに戦う術を与えます」

それを聞いて、朱音は黙りこむ。

「もちろん、断る権利もあります。私は神谷君に無理やり戦って欲しいわけではありませんから……」

 朱音の迷いを見抜いたように季流葉が言う。残された時間を前に、焦りと不安を感じる朱音。頭の中では、家族や都子、ユウキなど親しいヒト達の顔が次々と浮かんでは消えていった。

(あんな得体の知れない奴らと戦うのは怖い。もしかしたら今度は本当に……)

一瞬、大量の血を流して地面に横たわる自分の姿が思い浮かぶ。

(でも、エインヘリャルになったら、みんなとは……そんなの!)

二人の間に流れる、沈黙という名の空気が痛いくらいに、その静かさを主張する。

「……ホントに……」

朱音が口を開く。その顔に、僅かに火を灯しながら。

「……ホントに、戦えるようになるのかな?」

「それは神谷君次第……ですが私も尽力いたしますわ」

そう言ってキルハはいつもの百合の花の様な笑顔で、朱音に微笑みかけた。その笑顔はとてもアカネが知る「悪魔」のものだとは思えない優しさと暖かさに満ち満ちていた。朱音の表情に、今度はしっかりと「決意」という名の炎が燃え上がる。その表情を見て、朱音の心情を察した季流葉は、再び笑顔を作った。

「出来るかは分からない。でも、やらなくちゃいけないんだ……桜井さ……」

そこまで言ったところで突然季流葉は朱音の唇に人差し指を当てた。唇に当たる感触の柔らかさに驚き、目をパチパチさせる朱音。

「キルハ……と呼んでください。私も「アカネ君」と呼びますから。一時とは言えパートナーとなるのですから、名前ぐらいは呼ばせていただいてもよろしいでしょう?」

キルハはそう言うと指を放し、「では、もう一度」と呟いた。

「あぁ……お願いするよ……キルハ!」

「はい、こちらこそお願いいたしますわ。アカネ君」

そう言ってキルハから差し出された手を、朱音は強く握り返した。握った手は柔らかく、雪のように白く、何より血の通ったその手のひらは、春の日差しの様な暖かさだった。

こうして、悪魔とヒトの奇妙なパートナーシップが結ばれた。一人は自らの存在をかけて、一人は自らの存在する世界の大儀を目指して、共に目標へと邁進する。いつの間にか広がっていた暗闇は消え、辺りには夕暮れの匂いが立ち込める。茜色の日が差し込むグラウンドで、二人は微笑み合いながら、しばらく手を握り合っていた……

 

               幕間(カーテン) 


 下校時間を過ぎ、教室で友人達とくだらない笑い話をしていた有坂雄貴は、友人達と共に校舎を後にすることにした。途中、そのまま帰宅する友人達とは別に一人駅の方面へ向かい歩き出す。その道中、独り言のように漏らした。

「ちっくしょー、アカネの奴。ベルベットの新譜出たから今度こそ聞かせてやろうと思ったのによー……」

そう言って、肩にかけられた鞄の中を覗き込む。中には数冊の教科書と整髪剤、それにCDが三枚入っていた。CDの一枚に目をやると、ジャケットには白を基調としたモダンアートの様な柄と「Velvet」というロゴが描かれていた。ベルベットというのは彼が以前から敬愛しているイギリスのロックバンドで、最近では日本の企業のCMとのタイアップもしている人気アーティストだった。雄貴は、朱音に「絶対ハマるから聞けよ」といって何度もベルベットのCDを押し付け、趣味の共有を試みるのだが、ことごとく失敗に終わっていた。

ちなみに朱音の返答はというと、

『自分の趣味を押し付けるのはよくないぞ。僕はどっちかっていうと、音楽を聴くより本を読んでいる方が好きなんだ』

との非常に連れないものだった……そんなわけで、今日も朱音にフラレてしまった雄貴は、一人駅前のCDショップへとその足を進めていた。

(それにしても、今日のアカネは何か変だったよな)

歩きながら、正面からこちらへ歩いてくる女子高生が雄貴の視界に入る。

(あの、メモリー1テラバイトで、常に頭の回転数は台風並みな男があんなにぼーっとしてるなんて……)

 女子高生が可愛いかったのか、少しばかり顔を緩ませる。

(もしかして都子と何かあったんじゃ?)

 突如吹いてきた風に目を塞ぐ。

(いや、その可能性は無いか。話してた時は別に普通だったしな。そういえば、アカネって都子と俺のこと……)

 目を開けた瞬間、雄貴の中で何かが……「割れた」……


「あっ……あれ?」

 立ち止まり辺りをキョロキョロする雄貴。目の前では、吹いてきた風に抵抗したのか、片手でスカートの前を押さえる女子高生の姿が目に入った。

「……目つぶらなきゃよかった」

 雄貴はそう呟いて、再びCDショップへの道を歩き出した。


 雄貴の心のアルバムから、親友との何にも変えがたい記憶の一つが、風に吹かれた木の葉の様にその姿を消した。

思い出という名のフィルムで埋め尽くされたアルバムには、ぽっかりと穴が開き、別の写真がそこに入ることは無かった……



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