第四話~幸福の青山③~
EROGE回なのか、デート回なのか、それが問題な第三弾です。
宇佐美ちゃん乱入で何やら雲行きが怪しくなって参りました。
なんやかんやあって、晶とメメは、ついに目的地へとたどり着くのです。
[side:蒼樹 メメ]
四月二十七日 十二時 うさみみメイドカフェ『心ぴょんぴょんハウス』店内
なっ、何を言っているのかわからないと思いますが……。
可愛らしいうさぎメイドさんまみれの良いお店だと思っていたら、奥から現れたのは恋野さんだった。
予想外です。ここで働いてるなんて!
こんな風に言うのは失礼ですけど、ヒラヒラドレスや長耳の髪飾りはこの人のイメージからあまりにかけ離れていて、違和感を抱かざるを得ません。
「あ、えっと恋野さん、こんにちは。お可愛いですね、その服。耳とかも」
「馬鹿にしに来たの? 帰れとは言わないけれど、本名はやめて」
ほめたのに睨まれました。やっぱりこの人、なんだか好きになれません。せっかく勇気出して、二十分以上も続いた気まずい沈黙を破ったのにぃ! さっきまで黙々とオムライス食べてたわたしとお兄さんは、接客精神の欠片も感じない鉄仮面うさぎのせいで、全く気が休まらなかったんですからね!
何が心ぴょんぴょんハウスですか! ちっともぴょんぴょんしませんよ。
「それにしても宇佐美、あれだな、奇遇だよな。今日もてっきりケーキの仕込みしてるかと思ったよ、家業の方の」
「洋菓子店はあくまで親の仕事の手伝いだもの。私は私で何かとお金が入用なのよ……ってわけだから、ここは腐れ縁のよしみで一つお願い」
お兄さんと幼馴染みならではの親密な会話をしていた恋野さんは、意味深にも手を前に差し出します。その意図がわからない様子で首を傾げる彼に、
「嬢……じゃない、『うさぎさん頭なでなでサービス』、五分につき二百円よ。恥かかされたんだから、私のお給料アップのために協力して頂戴」
とんでもない催促をし始めました!?
「確かに嬢って言っただろ今……。ほんとにマトモじゃないなこの店。まァせっかくだからやるけども」
えっ、やんのぉ!? どうして乗り気なんですかお兄さん!
「じゃ、いくぞ」
「さっさとやりなさい」
瞼を閉じて、お兄さんの足元にかがみこむ恋野さん。少し大きめの掌が髪に触れた瞬間、小さな肩が一瞬、びくんと跳ね上がりました。
ぎこちなくされど優しく、掌が頭の上を往復していきます。くすぐったいのを我慢してか、彼女は薄い唇をきゅっと結んでいましたが、
「んっ……はっ、ぅあ……っ!」
こらえきれず、ついに甘い吐息を漏らします。必死に表情を取り繕おうとしているのが傍から見ても明白ですが、努力虚しく頬は紅潮していました。
ふーん……なんでしょう? なんなんでしょうね、これ。
すごく面白くありません。
椅子がガタッと鳴ってくれるように、わざと大袈裟な動きをつけて、わたしは勢いよく立ち上がります。
「お兄さん、交代しましょう交代! わっ、わたしも撫でてみたいなぁ~」
「何よキミ、しゃしゃり出ないでもらえるかしら。仕事の邪魔なんだけど」
わたしと恋野さんは、笑顔の中に黒い感情を滲ませて、睨み合いました。互いの額から不可視のプラズマが放たれ、間にいるお兄さんがしびれます。
「ちょっ! ふ、二人ともなに喧嘩してんの!? よせっ、気を高めるんじゃない!」
お兄さんは慌ててお会計をすますと、私の手を引いて、お店のドアを押し開けます。
「じゃあ宇佐美、もう行くよ! ありがとーっ!」
「まったく、五月蝿いきょうだいね。……またお越しくださいぴょん」
憎まれ口の直後に、照れるみたいにぽそりと付け足す恋野さん。
か、完全に調子にのってます。ぴょんが一体どうしたというんですか? 営業ぶりっ子なんか見せたって、可愛くもなんともないんですからねーだ!
心ぴょんぴょんハウスを出てからというもの、心が醜くなってしまったような感じです。なぜこんな気持ちにならなければいけないのでしょう?
お兄さんの後をトボトボついていくと、その背中が立ち止まります。
「ここだ……着いたぞ。古巣の同人ショップ『ムッシュ村』」
それは電気街の片隅で、大きなビルに挟まれてひっそりと存在する、少し寂れた雰囲気のお店でした。こんなところに求めていた『えろげ』が……?
「メメよ、貴様はここで待っておれ。決してついてくるでないぞ。死にたくなければな」
お兄さんの周囲の空気がピリピリと震え、まるで、風が泣いてるみたい。ふおおおお、闇の力を蓄えてらっしゃるのですね。わたしにはわかります。
「運命神よ、俺を祝福しろ! 脈打つ魔力の黒剣をこの腕に抱かせたまえ! 歓喜せよ、俺の中の極限進化有機異形因子!」
出ました呪文の詠唱です! 本気出す時のやつです。彼は全身から気合いをみなぎらせ、店の入口に突っ込んでいきます。
それから、かれこれ十五分くらい経ちました。
さて、待っていろと命じられはしたものの、わたし……気になります。この中にはきっと、何も知らぬ一般市民には縁遠い暗黒の修羅場が広がっているのでしょうね。もし直視すれば無事ではすまぬと、死ぬより苦しい地獄が待っていると、お兄さんは仰りました。けれど、好奇心を抑えられません。
恋野さんに会い、対抗心が芽生えたせいもあるでしょう。
メメは、メメは……お兄さん、あなたにもっと近づきたい。あなたと同じ景色を見てみたいのです。たとえこの身がどうなろうとも。
お許しください。
わたしは覚悟を決めますと、鶴の恩返しの主人公になったみたいな心持ちで、そっと店内を覗き込みました。
目の前に広がった光景は、
「なに……これ……」
わたしを愕然とさせるには十分なほど、衝撃的なものでした。熱く火照った顔を両手で覆って後退り、震えてしまいます。
視界いっぱいに焼き付いたのは、可愛いイラストで描かれた女の子のあられもない姿。
彼女らは扇情的なポーズをとったり、モザイク状の物体と戯れたり、謎の液体に汚されたりしていて。
小学生みたいな幼い風貌から大人まで、外見や年齢も様々。
壁のテレビモニターに流れるアニメなんかでは、一部にモザイクのかかった殿方が、やけに音程の高い声で喋る女性とくんずほぐれつ……。
お兄さんの大切な『えろげ』のケースにあった絵と雰囲気が酷似していますが、あれは男性が女の子に踏まれたり縛られたりしている場面ばかりだったので、どういう趣かいまいちピンと来なかったのです。けれど店内の映像はあまりに具体的すぎて、原始的かつ生理的な恐怖心を煽りました。
「見た事、ある……! わたし、あれに近い行為をどこかで……あ、あれは、せ、せ、せっく……!」
甦るのは、幼い日の記憶。
友達から借りて初めて読んだ、刺激的と有名だった少女漫画雑誌の思い出です。あの時は確か、突如乱入したお母さんに止められて、怒られました。
『小さいうちから、えっちなものを見ちゃいけません!』
母の言葉を思い浮かべたわたしの脳に、稲妻が走ります。
ようやく理解できたからです。
あァそんなまさか、えろげって、えろげって……
「えろげって、えっちなものだったのぉぉぉぉ~~っっ!?」
いかがでしたでしょうか。
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次回、EROGEの禁忌に触れてしまったメメの起こした行動とは……
ご期待ください!