第四話~幸福の青山①~
デート回、第一弾です。
色々な反省をふまえて文字数を調節いたしました。
兄と妹が一緒にエロゲ買いに行きます。
[side:蒼樹 メメ]
四月二十七日 九時三十九分 青山邸二階
事件はその日、お兄さんのお部屋で起きました。
今日は土曜日で学校もお休み! とはいえ特に予定もなし。
手持ち無沙汰だったわたしは、一階で遅めの朝食をとっているお兄さんのため、お部屋を掃除してあげようと思い至ったのです。
「ふんふ~ん、ぱたぱたぱた~です~♪」
手始めに『はたき』を使って、戸棚のほこりを落としていましたら、ある一点に目がとまります。
てっぺんのところに、DVDケースみたいなものが積み重なっていました。
邪魔なのでのけようと手を伸ばしても、その戸棚はわたしよりもはるかに背が高いので、届きそうで届きません。やるせないです。
「うー、うーん!」
何度かジャンプしてようやく触れた指先が、ケースの一つを弾き飛ばしてしまいます。
床に落ちた衝撃で中身のDVDが飛び出し、わたしは慌てて拾い上げようとしますが、勢い余ってスッ転んじゃいました。顔面からいっちゃいました。
「うぅぅ~、いったぁ~……」
涙目になって顔を起こすと、目の前には信じられない光景が!
DVDが、無惨にもひび割れてるじゃないですか!
落下による損傷はなかったのに、倒れ込んだ拍子に、わたしが頭突きをかましてしまったのです。
表面に印刷された可愛らしい女の子の絵が、心なしかもの悲しげな瞳でこちらを見ているような気が……。もう焦りMAXです。うろたえちゃいます。
「ふおおおお、どおしましょお……はっ!」
気配を感じて振り向くと、お兄さんが立っていました。漫画でしたらゴゴゴゴゴ、という地響きめいた効果音が似合う、はりつめた空気が漂います。
「お、にい、さん……! こ、これはですねその……」
「ウワアアアーッッ! 去年の夏コミ! 初発で来て、地獄の蒸しブロ猛暑のなか五時間並んで! 一時間完売のとこ、数多の勇者の屍を踏み越えて! やっとの思いで手に握りしめた、壁サー『ぬこぬこにーにー』の会場限定販売エロゲ『私の兄貴が童貞なんてナニソレキモーイ』がああああっっ!」
早口の説明口調でわめきたて、号泣しつつ、膝からくずおれるお兄さん。
よくわかりませんけれど、とにかくすごい大事なものだった事だけはひしひしと伝わってきて、胸が締め付けられます。そんな代物を、わたしはっ!
「ごめんなさい、ほんとにごめんなさいいいいっ」
罪悪感で、もらい涙がぽろぽろです。お兄さんがまともに話せる状態へと回復するまでの三十分間、わたしはずっと寄り添って謝りまくってました。
「どうお詫びしてよいか、たいへんな罪を、わたし、わたし……」
「いやもういいよ謝らないで、メメちゃんは何も悪くないんだから。落としちゃ危ないものを落ちそうなとこに隠しちゃった俺がいけないんだからさ」
怒りとか悲しみを超越した、悟ったような微笑みを貼り付けるお兄さん。
彼は今、デスクトップでネット検索をかけていました。
「かくなるうえは体でお返しします……」
「いやちょっと何いってんの落ち着いて。それにさ、いま調べたけどこれ、電気街の同人ショップにわずかな個数が流れてるかもって。あくまで噂で、確定情報じゃないけどね。なにせ完全なる限定生産、限定販売だったから」
再び様々な思い出が駆け巡ったらしく、消え入りそうな遠い目をします。
「望み薄だけど行ってくるよ。さらなる絶望が待ち受けてるだけかもしれないけど……このまま黙って家にいるだけじゃ色んな意味で壊れそうだしね。こわれる、こわれ……うっ、頭が……俺の、俺の『わた兄ぃ』……うううう」
壊れる、というワードを自分の口から出すだけで、血を吐くような青ざめた顔つきになってますよ!? お兄さんは闇の工作員ですが、誰よりも繊細な心を持つ事をわたしは知っています。そうでなければ魔力は操れません。
あまりに痛々しい見るにたえない様子は、わたしに決意を抱かせました。
「お兄さん! あの、わたしもお供させてください!」
すっくと立ち上がり、涙を拭って宣言します。
「はいい!? メメさんん!?」
「『えろげ』ってなんなのかわかりませんが、お兄さんの大切なものを壊してしまったのですから、せめて一緒に探すくらいの事はさせてください!」
「いやいやあの、それはまずいよ女の子が男性向けのものを男と買いにいくとか……あっ、いや……ちなみにエロゲというのはな、『EROGE』……極限進化有機異形因子の略だ……。これを定期的に接種しなければ、魔力が飽和して我は大変な事になる。だから決していかがわしいものとかじゃないんだよ、信じて。あと、来なくてもいいから!」
お兄さんは慌てふためいて後退りますが、わたしは前に出ます。
それほどに重要なものだったとは! これはますます引き下がれません。
「本気です。行かせてくれないとわたし申し訳なくて死んじゃいます……」
わたしが涙ながらに懇願しましたら、しばらく何かと葛藤するかのように唸っていたお兄さんは、大量の汗を流しながらコクリと頷いてくれました。
「ああもう、わかったよ……ただし本当についてくるだけでいいからね……。くれぐれも店内には入っちゃダメだぞ、絶体ダメだぞ。死ぬからな、俺が」
「はいっ! ありがとうございますお兄さん! だいすき!」
全身で感謝の意を表して抱きつくと、彼はなぜか真っ赤になって固まってしまいます。そんな表情もたいへんお可愛くって、思わずときめきました。
かくして、えろげを求めるわたし達の禁断の旅が幕を開けたのです……!
いかがでしたでしょうか。ご意見ご感想を全裸待機しております。
まだデートには出なかったわけですが、次回は電気街から生中継でお送りいたします。ご期待ください。