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漆黒の青山  作者: 山田遼太郎
メインエピソード
21/22

第六話~全力の青山⑥~

皆さんこんにちわ! 山田でございます!


昨日に引き続き、更新となります今回は……予告の通りファイナルとなります!


メメちゃん&宇佐美ちゃんとの恋の行く末、晶の疾走する魔力リビドーの行く末はいかに!?


それでは最後の青山、全力で駆け抜けた青山、見守ってあげてください! どうぞ!

[side:青山 晶]


 四月二十九日 八時三十分 青山邸二階


 去年の秋の事だ。ぼくは突然思い立ち、小説を書いた。

 それはもう拙い筆の、ありきたりで恥ずかしい物語。

 世界を創造する力を得た普通の少年が、運命に翻弄されて闇に堕ちんとする少女を救う、王道のファンタジーだ。

 ろくにプロットも整理せず、無闇に壮大な風呂敷を広げまくって迷走を極め、結局はスランプに陥ってお蔵入りとなってしまった。あれは、単なる考えなしの衝動で、いつもの現実逃避の延長でしかなかったのかも知れない。


 だが、細かい事は抜きにして、ただただ楽しかった事を覚えている。

 きっかけは、ネガティブな気持ちからだった。こんな現実は偽物だ、俺が生きる場所じゃない、だったら自分で創ってやれという具合の。

 最初のうちは、ストレスとか劣等感とかドロドロした負のエネルギーを、とにかく筆にのせてノートにぶちまけていただけ。しかし不思議な事に、主人公に自分を重ねて物語の世界を追体験するレベルになると、それらの感情が頭の中でプラスのものに変わっていくのを感じた。

 普段縁のない生産性ある行いへの歓喜やら高揚やらが押し寄せて、脳内麻薬ドバドバ大量分泌の、そりゃもうべらぼうに気持ちいいエクスタシーだ。


 人はこれを自慰じいと呼ぶのだろう。

 そもそも小説っていうのは読者がいてナンボであって、所詮そんなものは自己満足の文章の羅列に過ぎないと、一笑に伏されてしまうかもしれない。

 けれど、ぼくはそれでも幸福だったのだ。

 明日も生きていけるといった希望や、将来は小説家になろうかな、とかいう夢が沸き出て、これが自分の存在理由なんだとさえ思えた。海さんが言っていた、妄想がポジティブなものに変換されるという事の、もっともシンプルな例だったのではないか。そう、妄想は決して無駄なものではないのだ。


 さて、なぜこんな脈略ない話から冒頭を始めたかというと……。


「ない……ないないないっ! どこいったんだぁ~!」


 ぼくは自室のありとあらゆる引き出しを調べ、鞄をひっくり返し、見るも情けない半泣き顔で『あるもの』を探し回っていた。

 さっき長々と述べていた、一世一代の力作を書き記してあるノートが、どこにも見当たらないのである。

 ふとした事で思い出が甦り、こっそり続きでも書いてみようかな~、なんて軽い気持ちで隠し場所に手を突っ込んだら、一気に混乱の渦に突き落とされた。もしかしたら家の誰かに見つかって、面白おかしく茶化されているのかも……などという嫌な想像が頭を占めると、とても正気ではいられない。


「くっ、クハハハッ、もう終わりだ、何もかもお仕舞いだぁ……。ここで果てるも一興か。我が命、せめて一刀のもとに血の祭壇に捧げるがいい……」


 探し疲れてベッドに腰を落としたぼくは、一昔前の耽美系もかくやと言わんばかりのオーラを纏って、絶望と己自身に酔いしれるナルシストと化す。

 バカにでもならんとやっとられませんわ!

 せっかくゴールデンウィークに突入し、できたて家族での初の温泉旅行に繰り出す日だというのに。

 昨晩はメメや海さんの浴衣姿やら入浴姿やらを思い浮かべて、ひたすらニヤニヤしていたってのに……心は踊るどころかゾンビにでもなった気分だ。

 まァゾンビが踊るのも珍しい話ではないか、ほらスリラーとか……ええっと、なに考えてんだぼく。

 取りあえず今は切羽詰まって主人公やる余力もない。

 というわけで場面転換よろしく。



 ※    ※    ※


[side:蒼樹 メメ]


 同時刻 青山邸一階


 リビングの窓から見えるスプリングエンジェル……春天使の名を与えられた冬アジサイ達は、可愛らしくも艶やかな白でお庭を彩ってくれています。

 ソファに座ってそれらに見惚れ、お紅茶を飲みながら、わたしの口からは切ないため息が漏れました。

 まるでお花さん達が、これから続いていくお兄さんとの輝かしい未来と、嬉し恥ずかしないちゃいちゃのロマンスを祝福しているようです、きゃっ♡


「お邪魔するわよ、妹さん」


 アジサイには『冷酷』とか『無情』とか『高慢』とかマイナスイメージの花言葉ばかり目につきますが、複数の花が寄り添う姿から『家族の団結』っていう素晴らしい意味もちゃんとあるのですよ。ふふん、わたしって博識。


「ちょっと、聞いてるの?」


 家族全体の繋がりはまだまだ完全とは言い切れませんけど、少なくともお兄さんとの絆は今回の一件で一層がっちりと、固く狂おしく結ばれたはず!

 ふおおおお、なんだか燃えてきましたよ!

 今ならどっかの幼馴染みさんにも、ぜんっぜん負ける気がしません!

 どっからでも来なさいです!


「失礼ね。挨拶してるのよ、こら」


 横からこつんとこめかみを小突かれて、現実に引き戻されてしまいます。

 無粋な事をするのはなにやつ!

 と目を向けますと、そこにはにっくきライバル(勝手に認定)である恋野さんが立っており、不機嫌そうに眼鏡の位置を直しているではないですか。

 私服のワンピース姿がとてもお可愛く、思わず嫉妬してしまうほどです。

 肩に下げてる大きな鞄がなぜか不安を呼び起こしますが……。


「なぜここにいらっしゃるんですか? おあいにくですがお兄さんはお部屋で旅行の支度をしてますし、わたし達、もうすぐ出発いたしますので……」


「ああ、それだけど、私もご一緒させてもらう事になったから、よろしく」


「はいぃっ!? ぬわんでですか~!」


 驚きを隠せなくて金魚みたく口を開閉させていましたら、キッチンから出てきたお母さんが、恋野さんに後ろから抱きついてにっこり微笑みました。


「えへへ、お母さんが誘っちゃったぁ! びっくりさせたくて、当日まで秘密にしてたのよぉ~!」


「うちの両親、昨日からお店閉めてハワイに行ってるの。二人とも結婚記念日を向こうで過ごすの夢だって言ってたし、邪魔になると思ってついていかなかった事をおばさまに話したら……そういう流れになって、ありがたく」


 恋野さんは恥ずかしげにお母さんの抱擁を受け入れ、もじもじしてます。


「だってぇ健気なお話じゃないのぅ~! お母さんキュンと来ちゃった~! それに、あんな美味しいケーキ持って挨拶に来てくれるような良い子が、このゴールデンウィークに一人でお留守番なんて悲しすぎるわぁ~! あ、ハワイのご両親にも電話でOKいただいたから安心してね、うさちゃん♡」


「あ、はい……ありがとうございます。でもおばさま、うさちゃんって……」


 しおらしい恋野さん、れあです。お可愛い。

 じゃなくて!

 この二人いつのまに仲良くなってたんです? やっぱケーキですか! 外堀を埋めたって事ですか! いえ、でもあれは確かに美味しかったですが。


「わ、わかりました。そーゆー事情があるのでしたら……あははは、恋野さん、一緒にお風呂とか楽しみですねぇ」


 頑張って笑顔を作っても、口元が自然とひきつるのを止められません。対する恋野さんは、前髪をクールにかきわけて、挑発的な目付きに早変わり。


「無理して愛想よくする必要ないから。ぶっちゃけ私の事、嫌いでしょ? 私もキミ好きじゃないし、お互い様ね」


 かちーん。わたしの中でゴングが鳴った瞬間でした。

 そーですか、そちらがその気でしたらもう遠慮しませんよ!


「言っておきますけれど! お兄さんと混浴する権利は譲りませんからね~っ!」


「別に良いわよ? お風呂なら既にもう何度も一緒に入ったし」


「ぐっ、どーせ小学生の頃のお話でしょう? わたしは今! いま一緒に入っちゃうんです! それからそれから、い、色んなとこ、くっつけたり!」


「うわ……清純そうなのは見た目だけで中身はそーとー下心満載なのね。正直ひくんだけど。ところでキミ、彼とキスはしたのかしら? まだよね?」


 ぐはあっ、突然のジャブが来ました! ハートを殴り抜けるようですぅ!


「私はあるわよ、中学生の時に事故でだけど……それでも初めては初めて。その相手はキミではない、この恋野 宇佐美。その事実だけがあればいい」


「ぐぬぬ……」


 幼馴染みの圧倒的な物量作戦に、ぐぬぬのしか出ません。

 だけどわたしは、この人に勝ちたい! 悔しいけど、わたし、女なんですね……!


「二人とも仲よしさんね~。お母さんうれしっ」


「「どこがっ!?」」


 はからずもツッコミがユニゾンしてしまいます。

 てゆーかお母さん、娘が押されてるんだからちょっとは援護するなりしてくださいよ。なぜニコニコしてテルンディス!


「はぁ、なんか疲れたわ。それはそうと妹さん、さっきからお尻にノートをいてるのはなに? 新しい勉強法だって言うなら止めないけれど」


 呆れ顔の恋野さんから指摘を受けて、わたしは慌ててソファから腰を上げます。今まで何気なく座っていたところに、『それ』は置いてありました。

 正確には間にクッションを挟んでいたため、気づかなかったのですけど。


「あ、これ……!」


 そうです、これはお兄さんの書いた物語が載っているもの。サトルくんが訪問してきた時にとっさに隠しておいて、そのまま忘れ去っていたのです。

 えーと、どうしましょう、これ。

 とにかく、勝手に小説を読んじゃった事を謝り、お返ししなくては……。


 パパッ、パパン!


 考え込んでいましたら、クラクションの音が外から鳴り響いてきます。青山のお父さんが、車庫から車を出したのでしょう。もう出発する時間です。わたしは昨夜から準備していた荷物入りの鞄を仕方なく抱え、戸締りなどをしっかりと確認し終えてから、お母さんや恋野さんと一緒に家を出ました。




 青山邸の門前にて、わたし達がそれぞれの鞄を車の荷台に押し込んでいましたら、お兄さんが遅れて玄関から出てきます。なんだか少し沈んだお顔。


「おせーぞ晶。早く乗れ」


「ごめ~ん、親父……はぁ~」


 深いため息をついて門を閉めている彼に向かって、わたしは駆け寄って行きます。

 例のノートを背中に隠し、後ろの恋野さんにチラリと視線を送るのも忘れません。

 ちゃーんと見てますね、よしよし。


 覚悟しててくださいよ、恋野さん。

 ここからが、わたしのですっ!



 ※    ※    ※


[side:青山 晶]




「お兄さん、聞いてください!」


 メメが妙に緊張した声でぼくを呼び、正面に立つ。


「昨日、仰ってましたよね……ぼくには何の力もないって。でも違います! わたしにとってのあなたはやっぱり、本物の暗黒創造神なんですよっ!」


「えーっと、どうしたのメメちゃん急に?」


 唐突な展開に戸惑ううちに、目の前にずいと押し付けられたものがある。それは、出発の時間ギリギリまで粘っても、ついに見つからず諦めたもの。


「だって、素敵な世界を創る力を……お持ちになってるじゃないですかっ」


「まさかメメちゃ……そ、そそ、それ読んだのぉっ!?」


 視界を遮るノートの影が消えた瞬間、



 ぼくの唇はふさがれた。

 やわらかく湿っていて、

 ほのかに甘く香る何かに。



「あの女ああああっっ!?」


「あきらああああっっ!?」


「きゃああ~さすがお母さんの娘~っっ!!」


 何やら向こうの方が騒然としているけれど、ぼくはそれどころじゃない。

 激流のごとき感情の暴走を抑えきれず脳がドロドロに溶解し、猛り狂う炎のごとき羞恥に耐えきれず顔面が爆裂四散した……ように錯覚してしまう。


 唇をそっと離したメメは、とことことニ~三歩後退してから立ち止まる。



 それから、

 桜色に染まりゆく頬を緩めて、

 悪戯っぽく、はにかんだ。



ちぎり、交わしちゃいましたっ♡」

ありがとうございました!


 今まで漆黒の青山をちらっとでも読んでくださった方、最後まで読んでくださった方、たいへん有り難いご意見やご感想をくださった方、評価を下さったりレビューを書いてくださったり読了ツイを何度も投下して下さったり……もう言い出したら終わらないくらい感謝しております!


ありがとうございました! 本当になろうに投稿しようと思えて良かったです!


山田の次回作にご期待ください……!


となるところですが、実は青山、もうちょっとだけ続きます。書ききれていない物語(本編後のイチャイチャ温泉回とか色々)や、さるお方からいただいたプロットを元にした家族の物語など……不定期という形になりますが、感謝エピソードとして更新していきたいと思います!


ご期待ください!


今後ともよろしくお願い致します!

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