第六話~全力の青山⑥~
皆さんこんにちわ! 山田でございます!
昨日に引き続き、更新となります今回は……予告の通りファイナルとなります!
メメちゃん&宇佐美ちゃんとの恋の行く末、晶の疾走する魔力の行く末はいかに!?
それでは最後の青山、全力で駆け抜けた青山、見守ってあげてください! どうぞ!
[side:青山 晶]
四月二十九日 八時三十分 青山邸二階
去年の秋の事だ。ぼくは突然思い立ち、小説を書いた。
それはもう拙い筆の、ありきたりで恥ずかしい物語。
世界を創造する力を得た普通の少年が、運命に翻弄されて闇に堕ちんとする少女を救う、王道のファンタジーだ。
ろくにプロットも整理せず、無闇に壮大な風呂敷を広げまくって迷走を極め、結局はスランプに陥ってお蔵入りとなってしまった。あれは、単なる考えなしの衝動で、いつもの現実逃避の延長でしかなかったのかも知れない。
だが、細かい事は抜きにして、ただただ楽しかった事を覚えている。
きっかけは、ネガティブな気持ちからだった。こんな現実は偽物だ、俺が生きる場所じゃない、だったら自分で創ってやれという具合の。
最初のうちは、ストレスとか劣等感とかドロドロした負のエネルギーを、とにかく筆にのせてノートにぶちまけていただけ。しかし不思議な事に、主人公に自分を重ねて物語の世界を追体験するレベルになると、それらの感情が頭の中でプラスのものに変わっていくのを感じた。
普段縁のない生産性ある行いへの歓喜やら高揚やらが押し寄せて、脳内麻薬ドバドバ大量分泌の、そりゃもうべらぼうに気持ちいいエクスタシーだ。
人はこれを自慰と呼ぶのだろう。
そもそも小説っていうのは読者がいてナンボであって、所詮そんなものは自己満足の文章の羅列に過ぎないと、一笑に伏されてしまうかもしれない。
けれど、ぼくはそれでも幸福だったのだ。
明日も生きていけるといった希望や、将来は小説家になろうかな、とかいう夢が沸き出て、これが自分の存在理由なんだとさえ思えた。海さんが言っていた、妄想がポジティブなものに変換されるという事の、もっともシンプルな例だったのではないか。そう、妄想は決して無駄なものではないのだ。
さて、なぜこんな脈略ない話から冒頭を始めたかというと……。
「ない……ないないないっ! どこいったんだぁ~!」
ぼくは自室のありとあらゆる引き出しを調べ、鞄をひっくり返し、見るも情けない半泣き顔で『あるもの』を探し回っていた。
さっき長々と述べていた、一世一代の力作を書き記してあるノートが、どこにも見当たらないのである。
ふとした事で思い出が甦り、こっそり続きでも書いてみようかな~、なんて軽い気持ちで隠し場所に手を突っ込んだら、一気に混乱の渦に突き落とされた。もしかしたら家の誰かに見つかって、面白おかしく茶化されているのかも……などという嫌な想像が頭を占めると、とても正気ではいられない。
「くっ、クハハハッ、もう終わりだ、何もかもお仕舞いだぁ……。ここで果てるも一興か。我が命、せめて一刀のもとに血の祭壇に捧げるがいい……」
探し疲れてベッドに腰を落としたぼくは、一昔前の耽美系もかくやと言わんばかりのオーラを纏って、絶望と己自身に酔いしれるナルシストと化す。
バカにでもならんとやっとられませんわ!
せっかくゴールデンウィークに突入し、できたて家族での初の温泉旅行に繰り出す日だというのに。
昨晩はメメや海さんの浴衣姿やら入浴姿やらを思い浮かべて、ひたすらニヤニヤしていたってのに……心は踊るどころかゾンビにでもなった気分だ。
まァゾンビが踊るのも珍しい話ではないか、ほらスリラーとか……ええっと、なに考えてんだぼく。
取りあえず今は切羽詰まって主人公やる余力もない。
というわけで場面転換よろしく。
※ ※ ※
[side:蒼樹 メメ]
同時刻 青山邸一階
リビングの窓から見えるスプリングエンジェル……春天使の名を与えられた冬アジサイ達は、可愛らしくも艶やかな白でお庭を彩ってくれています。
ソファに座ってそれらに見惚れ、お紅茶を飲みながら、わたしの口からは切ないため息が漏れました。
まるでお花さん達が、これから続いていくお兄さんとの輝かしい未来と、嬉し恥ずかしないちゃいちゃのロマンスを祝福しているようです、きゃっ♡
「お邪魔するわよ、妹さん」
アジサイには『冷酷』とか『無情』とか『高慢』とかマイナスイメージの花言葉ばかり目につきますが、複数の花が寄り添う姿から『家族の団結』っていう素晴らしい意味もちゃんとあるのですよ。ふふん、わたしって博識。
「ちょっと、聞いてるの?」
家族全体の繋がりはまだまだ完全とは言い切れませんけど、少なくともお兄さんとの絆は今回の一件で一層がっちりと、固く狂おしく結ばれたはず!
ふおおおお、なんだか燃えてきましたよ!
今ならどっかの幼馴染みさんにも、ぜんっぜん負ける気がしません!
どっからでも来なさいです!
「失礼ね。挨拶してるのよ、こら」
横からこつんとこめかみを小突かれて、現実に引き戻されてしまいます。
無粋な事をするのはなにやつ!
と目を向けますと、そこにはにっくきライバル(勝手に認定)である恋野さんが立っており、不機嫌そうに眼鏡の位置を直しているではないですか。
私服のワンピース姿がとてもお可愛く、思わず嫉妬してしまうほどです。
肩に下げてる大きな鞄がなぜか不安を呼び起こしますが……。
「なぜここにいらっしゃるんですか? おあいにくですがお兄さんはお部屋で旅行の支度をしてますし、わたし達、もうすぐ出発いたしますので……」
「ああ、それだけど、私もご一緒させてもらう事になったから、よろしく」
「はいぃっ!? ぬわんでですか~!」
驚きを隠せなくて金魚みたく口を開閉させていましたら、キッチンから出てきたお母さんが、恋野さんに後ろから抱きついてにっこり微笑みました。
「えへへ、お母さんが誘っちゃったぁ! びっくりさせたくて、当日まで秘密にしてたのよぉ~!」
「うちの両親、昨日からお店閉めてハワイに行ってるの。二人とも結婚記念日を向こうで過ごすの夢だって言ってたし、邪魔になると思ってついていかなかった事をおばさまに話したら……そういう流れになって、ありがたく」
恋野さんは恥ずかしげにお母さんの抱擁を受け入れ、もじもじしてます。
「だってぇ健気なお話じゃないのぅ~! お母さんキュンと来ちゃった~! それに、あんな美味しいケーキ持って挨拶に来てくれるような良い子が、このゴールデンウィークに一人でお留守番なんて悲しすぎるわぁ~! あ、ハワイのご両親にも電話でOKいただいたから安心してね、うさちゃん♡」
「あ、はい……ありがとうございます。でもおばさま、うさちゃんって……」
しおらしい恋野さん、れあです。お可愛い。
じゃなくて!
この二人いつのまに仲良くなってたんです? やっぱケーキですか! 外堀を埋めたって事ですか! いえ、でもあれは確かに美味しかったですが。
「わ、わかりました。そーゆー事情があるのでしたら……あははは、恋野さん、一緒にお風呂とか楽しみですねぇ」
頑張って笑顔を作っても、口元が自然とひきつるのを止められません。対する恋野さんは、前髪をクールにかきわけて、挑発的な目付きに早変わり。
「無理して愛想よくする必要ないから。ぶっちゃけ私の事、嫌いでしょ? 私もキミ好きじゃないし、お互い様ね」
かちーん。わたしの中でゴングが鳴った瞬間でした。
そーですか、そちらがその気でしたらもう遠慮しませんよ!
「言っておきますけれど! お兄さんと混浴する権利は譲りませんからね~っ!」
「別に良いわよ? お風呂なら既にもう何度も一緒に入ったし」
「ぐっ、どーせ小学生の頃のお話でしょう? わたしは今! いま一緒に入っちゃうんです! それからそれから、い、色んなとこ、くっつけたり!」
「うわ……清純そうなのは見た目だけで中身はそーとー下心満載なのね。正直ひくんだけど。ところでキミ、彼とキスはしたのかしら? まだよね?」
ぐはあっ、突然のジャブが来ました! ハートを殴り抜けるようですぅ!
「私はあるわよ、中学生の時に事故でだけど……それでも初めては初めて。その相手はキミではない、この恋野 宇佐美。その事実だけがあればいい」
「ぐぬぬ……」
幼馴染みの圧倒的な物量作戦に、ぐぬぬの音しか出ません。
だけどわたしは、この人に勝ちたい! 悔しいけど、わたし、女なんですね……!
「二人とも仲よしさんね~。お母さんうれしっ」
「「どこがっ!?」」
はからずもツッコミがユニゾンしてしまいます。
てゆーかお母さん、娘が押されてるんだからちょっとは援護するなりしてくださいよ。なぜニコニコして見テルンディス!
「はぁ、なんか疲れたわ。それはそうと妹さん、さっきからお尻にノートを敷いてるのはなに? 新しい勉強法だって言うなら止めないけれど」
呆れ顔の恋野さんから指摘を受けて、わたしは慌ててソファから腰を上げます。今まで何気なく座っていたところに、『それ』は置いてありました。
正確には間にクッションを挟んでいたため、気づかなかったのですけど。
「あ、これ……!」
そうです、これはお兄さんの書いた物語が載っているもの。サトルくんが訪問してきた時にとっさに隠しておいて、そのまま忘れ去っていたのです。
えーと、どうしましょう、これ。
とにかく、勝手に小説を読んじゃった事を謝り、お返ししなくては……。
パパッ、パパン!
考え込んでいましたら、クラクションの音が外から鳴り響いてきます。青山のお父さんが、車庫から車を出したのでしょう。もう出発する時間です。わたしは昨夜から準備していた荷物入りの鞄を仕方なく抱え、戸締りなどをしっかりと確認し終えてから、お母さんや恋野さんと一緒に家を出ました。
青山邸の門前にて、わたし達がそれぞれの鞄を車の荷台に押し込んでいましたら、お兄さんが遅れて玄関から出てきます。なんだか少し沈んだお顔。
「おせーぞ晶。早く乗れ」
「ごめ~ん、親父……はぁ~」
深いため息をついて門を閉めている彼に向かって、わたしは駆け寄って行きます。
例のノートを背中に隠し、後ろの恋野さんにチラリと視線を送るのも忘れません。
ちゃーんと見てますね、よしよし。
覚悟しててくださいよ、恋野さん。
ここからが、わたしの宣戦布告ですっ!
※ ※ ※
[side:青山 晶]
「お兄さん、聞いてください!」
メメが妙に緊張した声でぼくを呼び、正面に立つ。
「昨日、仰ってましたよね……ぼくには何の力もないって。でも違います! わたしにとってのあなたはやっぱり、本物の暗黒創造神なんですよっ!」
「えーっと、どうしたのメメちゃん急に?」
唐突な展開に戸惑ううちに、目の前にずいと押し付けられたものがある。それは、出発の時間ギリギリまで粘っても、ついに見つからず諦めたもの。
「だって、素敵な世界を創る力を……お持ちになってるじゃないですかっ」
「まさかメメちゃ……そ、そそ、それ読んだのぉっ!?」
視界を遮るノートの影が消えた瞬間、
ぼくの唇はふさがれた。
やわらかく湿っていて、
仄かに甘く香る何かに。
「あの女ああああっっ!?」
「あきらああああっっ!?」
「きゃああ~さすがお母さんの娘~っっ!!」
何やら向こうの方が騒然としているけれど、ぼくはそれどころじゃない。
激流のごとき感情の暴走を抑えきれず脳がドロドロに溶解し、猛り狂う炎のごとき羞恥に耐えきれず顔面が爆裂四散した……ように錯覚してしまう。
唇をそっと離したメメは、とことことニ~三歩後退してから立ち止まる。
それから、
桜色に染まりゆく頬を緩めて、
悪戯っぽく、はにかんだ。
「契り、交わしちゃいましたっ♡」
ありがとうございました!
今まで漆黒の青山をちらっとでも読んでくださった方、最後まで読んでくださった方、たいへん有り難いご意見やご感想をくださった方、評価を下さったりレビューを書いてくださったり読了ツイを何度も投下して下さったり……もう言い出したら終わらないくらい感謝しております!
ありがとうございました! 本当になろうに投稿しようと思えて良かったです!
山田の次回作にご期待ください……!
となるところですが、実は青山、もうちょっとだけ続きます。書ききれていない物語(本編後のイチャイチャ温泉回とか色々)や、さるお方からいただいたプロットを元にした家族の物語など……不定期という形になりますが、感謝エピソードとして更新していきたいと思います!
ご期待ください!
今後ともよろしくお願い致します!




