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漆黒の青山  作者: 山田遼太郎
メインエピソード
20/22

第六話~全力の青山⑤~

みなさんこんにちは! 空元気でもまだまだ無茶する山田です!


さて今回はセミファイナル! 前回勃発した事件が、一気に決着します! 学校の屋上って絵になるし、色んな展開起こすにはもってこいのスポットですね! 恋愛、バトル、なんでも行けますよね! うちの高校にはなかったですけど!


それではどうぞ! 

[side:青山 晶]


 四月二十八日 七時五十五分 校舎屋上への階段


 走る。跳ぶ。

 二段飛ばしで階段を駆け上がってゆく。

 足の筋肉は乳酸漬けで、他人のものかというほど重い。喉の粘膜は乾きを越えた灼熱感を帯び、自分が体のどこで息をしているのかすらわからない。

 それでも、急がなければならなかった。

 ようやく登りきり、扉の前まで到着すると、向こう側から声が聞こえた。


「    をください。闇の    さい。  力を」


 確かにメメのものだが、不明瞭にくぐもっていて、地を這うように低い。

 まるで別の何かが乗り移ったような、不気味な響き。


「闇の力をください……お兄さん」


 助けを求めている、ぼくにはそう聞こえる。

 腕を使うのも煩わしくて、扉を蹴り開けた。

 迎えるのは強い風と、曇り空。

 スローモーションに流れる視界の中で、そこに集まっていた男女の何名かがこちらに目を向けるが、気にする余裕はない。いま見据えるべきは前だ。

 メメが走っている。手にするのは刃。

 サトルが目を見開いて硬直していた。

 今にも膝を折りそうなほど震える足に拳を打って、命令する。動け、と。

 全ての思考をかなぐり捨てて、飛び込んだ。

 そして、ぼくは叫ぶ。



 ※    ※    ※


[side:蒼樹 メメ]




「メメっっ!」


 鋭い声が目の前で弾けると同時、衝撃と痛みが走り、我に返ります。

 サトルくんとの間に割って入ったお兄さんが右腕を振り払い、わたしの手を弾いたのです。

 足元に落ちて跳ね返るナイフの金属音で、先程までの自分自身の行動を思い出し、戦慄に支配されました。


「ダメだよ……メメちゃん、それはダメだ」


 お兄さんは肩で息をしながら、わたしの顔をまっすぐ覗き込んできます。


「自分が正しくて相手が間違ってるって思うなら、手を汚すべきじゃない。闇の力なんかいらないんだよ!」


 望んでいたのとは正反対の、否定の言葉。

 ですが、それはどんな肯定よりも優しく響いて、心を包み込むのでした。


「あんな奴のために、ずっと残るようなものを背負う事なんかないんだ!」


 ああ、ようやく気づいた。

 五年前あのときのわたしは間違っていたのです。

 父を傷付けたのは、愚かな選択でした。他のやり方もあったはずなのに、思考を放棄して安直な手段に逃げただけ。

 現に、守ろうとした母の心にも傷跡を残した。娘にそんな決断をさせた事を、優しいあの人は今でも悔やんでいる。

 そして、わたし自身も、後悔していた。だからそれを、母を救ったなどという誇りでごまかして、必死に正当化しようとした。状況がどうであれ相手が誰であれ、刃を取る行為には必ず伴う罪の意識から、逃げ続けたのです。


 そして今、同じ後悔をまた一つ増やすところだった。

 自らの弱さ、情けなさに、涙が溢れ落ちてきます。お兄さんはそんなわたしを抱き寄せて、何度も繰り返し頭を撫でてくれました。


「メメちゃん、ぼくもそうだったんだよ。『彼』のお姉さんに仕返しをして罰を与えたつもりでいたけど、ずっとどこかに嫌なものが残り続けた。……そもそも、こんな事になったのはぼくの責任だ。だから、後はぼくが……」


「青山 晶っ! なんでお前が出てくる?」


 憎悪のたぎる眼差しでサトルくんが叫びます。

 対するお兄さんは、わたしを離す事なく振り向き、彼を睨み据えました。


「なぜ、だと? 答えよう、この現実こそが全てだ! 俺が今ここに怒りをもって立っている事そのものが、貴様の敗北の証! 黙して受け入れろ!」


「意味わかんないから! なんだそのイラつく喋り方?」


「何だ何だと問うばかり。それは童のごとしだな。……ならば逆に問うぞ! 聞こえる耳を持っていながら、なぜ魂の片割れの声を聞こうとしない?」


 指をさされ、サトルくんの顔面はいよいよ憤怒の赤に染まっていきます。


「もういいよわかった、会話する気がないんだな? ……おいお前ら、なに突っ立ってんだ、行けよ!」


 彼が呼び掛けると、唖然としていた不良達は思い出したように声を上げ、押し寄せてきました。お兄さんの腕の中、わたしは思わず瞼を閉じますが、


手前てんめぇらああああっっ!」


 突然響き渡った怒号が空気を揺らします。

 屋上は水を打ったように静まり返り、動きを止めた集団は、扉の前の一点に視線を注ぎました。

 そこに仁王立ちしていたのは、ポニーテールの髪を踊らせる女の子。

 わたしには見覚えがありました。サトルくんからケータイの画像を見せてもらった事があるからです。双子の姉で、名前は確か聡子さとこさん。


「そいつらに手を出そうってんなら、全員もれなく殺してやっからなっ!」


 聡子さんは、目に映る全ての者を射殺すと言わんばかりに、剣呑な眼光で周囲を威嚇いかくします。なぜだか、異論を唱える人は誰もいません。


あね? な、なんでここに」


 サトルくんは激しい動揺を示し、弱々しい足取りで歩み寄っていきます。


「ていうか、なんで止めるのさ? オレ、姉貴のために……」


 言い終わらぬうちに、聡子さんの平手が風を切り、彼の頬を張りました。


「だったらなおさらだバカ野郎、これ以上うちの顔に泥塗るんじゃねえ! 許可もなく『チーム』の連中そそのかして、好き勝手してくれやがって!」


 聞いているかいないのか……サトルくんは眉の形をくしゃりと歪め、泣く寸前といった表情を浮かべたかと思うと、力なくへたりこんでしまいます。


「お前らも撤収だ! さっさと帰れオラ! ゴーホーム!」


 聡子さんが犬を追い払う仕草をすると、狼狽えていた不良集団は、まさしく叱られたペットみたいにこうべを垂れ、その場を去っていきます。関係性はよくわかりませんが、本来の統率者はどうやら彼女のようでした。


「姉貴……! オレ全然わかんないよ。どうなってんのさ……」


「貴様の魂の片割れが……姉が、俺に全てを伝えたからだ! この場で行われるはずだった事と、我が妹がこれまで受け続けてきた仕打ちの事をな!」


 お兄さんは、うなだれて肩を震わせるサトルくんにそう言い放ってから、聡子さんに向かってフッと笑いかけます。


「大義であったぞ、我が端女はしため・聡子。よくぞ教えてくれたな」


「はぁ? こないだの脅しがなけりゃ誰がオメーなんぞ助けるかってんだ! いいか、念のため言っとくが、今回の件にはうちは一切関与してねえからなこら! 頼むから会長さんに変な事を告げ口したりするんじゃねーぞ!」


 相手は早口で吐き捨てるなり、弟の腕を乱暴に引っ張って、階段の方まで引きずっていきました。すれ違う瞬間、サトルくんの口が僅かに動きます。


「こんな偽者のきょうだいなんかに、なんで負けなきゃ……」


 その言葉を吹き飛ばすような勢いで、お兄さんは即座にこう返しました。


「ぼくらはちゃんと、きょうだいだよ! なりたてでもね!」


 千葉きょうだいが屋上から消えて、事態が終わったのだという安堵が込み上げると同時、緊張の糸が切れてゆくのを感じます。それはお兄さんにしても同じだったらしく、わたし達は寄り添いあう状態のまま、へたんと座り込んでしまいました。互いの身震いや心臓の拍動が、直に伝わるほどの密着。

 お兄さんの吐息の熱がわたしのおでこを撫でているから、少しくすぐったい感じ。

 わたしの息はお兄さんの胸に当たっているのだろうかと考えると、なぜだか異常に気持ちが昂ってきて、何を言えばいいかわからなくなってきます。

 口が思うように動いてくれません。

 今すぐ伝えたいのに。


 救ってくれて、ありがとうって。

 わたしをわたしに戻してくれて、ありがとうって。

 あなたの事が大好きですって、伝えたくてたまらないのに。



 ※    ※    ※


[side:青山 晶]




 二人きりになってしばらく経ち、ぼくはどうにか落ち着きを取り戻してきた。

 抱き合っている体勢を意識し出すとむず痒いけど、腕をほどく気にはなれない。放してしまえばそれきり、彼女がとても遠いところに行ってしまって会えなくなるような、漠然とした不安が先程までの心を占めていたからだ。

 なーんて恥ずかしい詩的な言い訳をしてみたけど、もちろん下心も多分に混ざっている。幸いにして嫌がる素振りもないし、できるなら時間の許す限り、このふわふわでやわらかであったかい感触を思うさま味わっていたい。


「メメちゃん、ホントにごめん。えーと、一連のセクハラの件だけど」


 取りあえず、会えたら真っ先に伝えるつもりだった事を口に出してみる。


「あれはその、気兼ねなくデートに行ってもらうためのエールみたいなもので、あの時点じゃサトルくんがああいう人だなんて思わなかったから……」


 ついテンパって見苦しい言い訳をこいてるぼくに、メメは怒るどころか、


「もういいんですよ、そんなの」


 微笑みで許してくれました! ああん天使やん、この子……!


「それよりお兄さん! これっ……!」


 ここで、彼女がハッと何かに気付き、ぼくの右手を引っ掴む。

 見ると、中指の先っぽに微少な切り傷が走り、少量の血が滲んでいる。痛みというよりもかゆみに近い感覚があるだけなので、無自覚だった。


「わたしのせいですよね? さっきナイフを弾いた時のやつですよねっ?」


 大きな瞳がたちまち涙を滲ませるものだから、こっちまで焦ってしまう。


「こんなん全然だいじょぶだって! 舐めときゃ治るから!」


「それって、わたしでも効果ありますか?」


 言うが早いが、花弁のような唇を開け、ためらいもなくぼくの中指を口に含んだ。しっとり湿った細い舌が絡み付き、ちゅぷちゅぷと水音を立てる。


「いっ、いいよ! ぼくの血とか飲んでも体に悪いと思うし!」


 混乱で訳のわからん事を口走って首を振ると、唇が糸を引いて離れた。危ない、危ない。これ以上されたら確実に変な気分になっていたに違いない。


「ごめんなさいお兄さん、ごめんなさい。わたしはとんでもないこと……」


 メメはせきを切ったように泣き出し、謝り続ける。恐らくはぼく以上に取り乱していたのだろう、思わず突飛な行動に出てしまうくらいには。


「もう謝らないで。すまない事の数なら、こっちの方がずっと多いよ……」


 この子の泣き顔を、再び笑顔にしたい。

 いくら強くたって空想の中でしか生きられない、嘘の自分の力ではない。

 弱くても目の前の現実に確実な影響を与えていける、本当の自分の力で。

 そう願った瞬間、ぼくは、気付けば語りだしていた。


「実を言うとぼくもサトルくんと変わらない。だって、ずっときみを騙してたんだから。本当に全部謝らなくちゃいけないのは、ぼくなんだよ」


 今から話すのは、青山 晶という男の自分史。

 妹に聞かせる言葉であり、他ならないぼく自身に向けての言葉でもある。


「蒼樹メメの兄は闇の工作員エージェントでもなければ、暗黒創造神・漆黒ニゲラの生まれ変わりでもない。特別な力は何にもなくて……」


 メメは、ただ静かに、耳を傾けていてくれた。

いかがでしたでしょうか!


ご意見ご感想、今回ばかりは普通に正座してお待ちしております!


次回はファイナル! どうか最後までお付き合いくださいませ!


ご期待ください!

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