第六話~全力の青山④~
皆さんこんばんわ、あれ……? こんにちわでしたっけ(ざっと48時間くらい体感時間が開いているため)
さて今回は最終章第四弾ですねえ、へへ。メメさんがまたキャラ崩壊する、大詰め一歩手前の話ですねえ、へへ。私もこのようにキャラがブレにブレてございますよお、うへへ。驚愕の……じゃなくて、皆さん予想通りの展開が待ち受けるカミングアウト展開でありますよ。
……テンションがおかしいです。
それではどうぞ。
[side:蒼樹 メメ]
四月二十八日 七時五十分 校舎屋上
「ごめんなさい……やっぱりわたし、あなたの気持ちにお応えできません」
曇り空の下、湿り気を孕む屋上の風が吹き付けて、わたしの髪を舞い上げます。
「そっか……」
落下防止用フェンスにもたれかかる格好のサトルくんは、答えを聞いて一瞬だけ目を丸くした後、
「ふっ! そうかそうか、ははっ、あはははははっっ!」
さも愉快そうに天を仰いで哄笑を張り上げます。
これまでのイメージとかけ離れた彼の行動にわたしは戸惑い、立ち尽くすばかりでした。
※ ※ ※
朝食後、リビングから部屋に戻ったわたしは、ケータイに届いていたメールを見たのです。
『急ぐ必要が出てきた。予定が前倒しになって悪いけど、すぐ来てほしい』
本来ならば十三時半に約束していた、告白の返事。
なぜ今すぐでなければダメになったのか、理由はわかりません。ですが、わたしとしてはこの問題、早めに解決できるに越した事はなかったのです。
急いで支度し、家を出ました。もちろん、玄関前にいた青山のお父さんに一声かけてから。
近所の公園前で待っていたサトルくんの傍らには、オートバイがありました。詳しくはないですけれど『やまは』と読めるロゴマークが車体に書いてありましたので、
『あの楽器とかで有名な?』
と彼に聞いたらなぜかヘラリと笑われてしまいました。
『というか、まだ十五歳ですよね? 普通二輪って十六歳からでは?』
何となくムッと来たのでさらに突っ込むと、返ってきたのは意外な答え。
『一留してんだ。見えないって言われるけど、これでもオレ不良なんでね』
驚いていると、後ろに乗るよう促されます。
もちろん即座に断りましたが……(免許取得後)一年以上だから二人乗りも大丈夫との説得を受け、結局は頷く事に。
はじめて受ける強い風と、背後に流れ去ってゆく景色。見る角度や視点が違えば、世界ってこんなふうにも変わるんだと、不思議な感動を覚えたものでした。早めに歩いても十五分はかかる学校への道のりが、体感時間にして五分? いえ三分というところでしょうか。
それから一緒に屋上まで向かい、冒頭へと戻るのです。
※ ※ ※
「あの、サトルくん……大丈夫、ですか?」
「え? ああ、傷付いたかどうかって事?」
お腹を抱えてひとしきり笑った後、サトルくんは目尻に浮かんだ涙を指先で拭い、こちらに向き直ります。
「平気平気……てか、全然? むしろ予想通りだったんでウケちゃってさ」
「ごめんなさい、あの……」
罪悪感からか、妙に落ち着きません。他人からの好意を受ける事、それを断る事、両方とも不慣れなわたしには何を言うべきかわかりませんでした。
「いいんだよ気にしなくて。きみの事だから散々待たせて申し訳ないとか思ってんだろうけどさ。でもほんと、もういいんだ。だって」
サトルくんはふいに表情を消し、指を打ち鳴らします。
「これからよっぽど悪い事するんだからねえ……オレの方が」
高く響いたその音が合図だったかのように、階段へと続く扉が勢いよく開き、数人の男女がぞろぞろと集まってきて。
とても理解が追い付かなくて翻弄されるうち、見るからに柄の悪い二人の男性に、左右から腕を掴まれてしまいます。
「やっ! な……何をっ!? やめてくだ……」
言い終わる前に、さらに近づいてきた三人目によって、背後から口を塞がれました。
「紹介するよ、みーんなオレのわるーいトモダチ」
サトルくんがゆっくりとわたしの前に進み出て、ポケットから何か取り出します。彼が手首をひと振りすると、鈍くぎらつく刃が柄から現れました。
折り畳み式のナイフ。なぜ? 何のためにそんなものを!?
激しい混乱が、思考をかき乱してゆきます。
テレビの砂嵐やラジオのノイズにも似た、得体の知れない心のざわつき。
「最初はごくごく単純な気持ちだったよ。ちょっと面白い子だと思ってさ、ちょっかいかけたくなっただけなんだ。付き合ったりなんかするのもどっちかってっと有りかなみたいな。ハハ、でもワルイね、事情が変わったんだ」
意味のわからない事を言い、先程までとはまるで性質の違う、歪んだ笑みを作るサトルくん。
動きの自由を奪われ、背筋を伝う大量の汗と不気味な悪寒に苛まれつつ、眼球だけで辺りを見回すわたし。
ニヤニヤと締まりのない顔をした男女の中に、お兄さんをバカにしてわたしをいびってきた女子グループも混ざっている事を知り、愕然としました。
恐ろしく緩慢に、けれど確実に、真っ黒な確信が脳を侵食していきます。
理解したくないのに、今さら遅いのに。
どうして騙してたんですか?
どこから嘘だったんですか?
わたしの心中の訴えを読み取ってか、
「やっぱビックリ? 悲しい? 泣きたい? 怒りの方が勝ってる? まァどっちでも良いや。これから順番に色々されるわけだけど、準備はいい?」
サトルくんが首を捻って言いました。
「俺らはとっくに『総立ち』でスタンバってるよー、サトルくーん」
「お前らの具合の方は聞いてない」
男子同士で交わされる意味のわからない会話すら、別の世界の出来事みたいに遠く聞こえていました。
気付けばサトルくんの手が、わたしの制服のリボンタイを緩めています。
「事情がどうのこうのってオレさっき言ったよね。女の子達にきみを散々弄らせていた時点では、お近づきになる口実作りだったんだけど……こっからの流れに関しちゃきみは何も悪くない。強いて言うなら青山 晶がいけないんだよ。彼がオレの姉貴に卑怯な事して苛めたって聞いた時から話は変わった。そういう事さ」
説明されてもさっぱりですよ、千葉 サトルくん。
双子の姉がいるって話は前に少しだけ聞きましたけど、ここでまさかお兄さんの名を持ち出してくるなんて、夢にも思いませんし。
彼がつらつらと並べ立てている間にも、上着が脱がされ、シャツのボタンが外されて……わたしは曇り空の下であられもない格好にされていきます。
もうどうでもいいと捨て鉢な感情が首をもたげた時、
「身内を苦しめられて……なおかつ、そんな時に自分がその場にいないって事の辛い気持ち、きみのお兄さんにも伝わるといいな。でもまァ、無理な話か? オレらみたく血が繋がってるでもなし。ましてやいつも自分だけの世界にいて、妄想漬けになって、脳ミソ溶けてる中二病のオタクなんかじゃ」
おにいさんをばとうするこえがきこえて
わたしのめのまえはまっくらになりました。
※ ※ ※
[side:蒼樹 メメに似た何か]
凍りかけていた心臓が、『ぞわり』と波打つ。
さ迷いかけていた意識が、真っ赤な血の色に染め上げられる。
「今ごろとられたエロゲの代わりにきみでもオカズにしてんじゃないの? それか、自分のキャラ設定やら必殺技の名前やらに頭を悩ませてるかな?」
やめろ、それ以上言うな。
「幸せな生き物だよね、自分の事以外考えなくていいんだから羨まし……」
「だ ま れ」
わたしは爆発した。
かつて覚えた懐かしい感覚が、神経を鋭敏にする。
体の芯から沸き上がるのは、自分でも信じられない力。
上半身を反り、背後にいた男の鼻柱に後頭部を叩き込む。
左半身を捻り、左隣にいた男の目に拳の裏側をねじ込む。
下半身を沈め、右隣にいた男の下腹部に爪先を突き込む。
生じた隙をついて、狂ったように暴れまくって拘束を振りほどいたわたしは、男達が一瞬の痛みから回復する前に思いきり足下を蹴る。
前進の先に待つのは、敵の頭目。
鳩尾を狙って体当たりを仕掛けると、サトルの手がナイフを取り落とす。それを拾い上げてから、自分の背中をフェンスに押し付けた。
「おいおい昔なんかやってた? 今の動き完全に化け物でしょ!」
サトルは口元を緩めてこそいるが、瞳からは余裕の色が消し飛んでいる。
「あの人を侮辱するな……」
震える声を絞り出しながらわたしは願う。もっと勇気を、もっと殺意を。
「闇の力をください
闇の力をください
闇の力をください
闇の力をください」
実際に唱えたのか、心の中で念じたのか、もうそれすらはっきりしない。
「蒼樹さん、きみ頭がどうかし」
「うるさい! あの人は、あの人ならきっと……」
そうだ、あの人は、わたしと同じ闇を持つ。
だからきっと、正しかったと認めてくれる。
昔、父の皮を被った男と戦い、母を救ったわたしを。
そして今、ナイフを構え、敵に向かって走り出したわたしを。
「わたしを肯定してくれるんだぁっっ!」
いかがでしたでしょうか……
ご意見とご感想、是が非でも体を秋にして秋を制する者だけが出すとこだしてたわわになっても秋のせいにして焼き芋暖め合いながら(意味不明)お待ちしております。
今回も今回でメメが盛大にキャラ崩壊してバーサーカーになってましたが、普通の女の子が複数人の男相手にあれだけ立ち回れているのは、私の小説に登場するヒロインは基本的に戦闘民族だからなのです。ですから特別な訓練を受けております。女性のかたは、くれぐれもメメのマネをしないようご注意願います。
というわけで次回が大詰めとなります。ここまでお読みになってくださった皆さん、どうか最後までお付き合いください。お願い致します。
それでは、ご期待ください。




