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漆黒の青山  作者: 山田遼太郎
メインエピソード
18/22

第六話~全力の青山③~

皆さんこんにちは。一日遅れの投稿となってしまいました。ごめんなさい。


さて最終章第三弾は、青山くんと宇佐美ちゃんの昨夜の密談と、家族のお話です。なんか色々ばれちゃった晶、当然のごとくお父さんの怒りが向きますが、ここであの人が動く……!?


それではどうぞ。

[side:青山 晶]


 四月二十七日 二十二時十分 晶の部屋


「なるほどね、だいたいわかったわ」


 ぼくの説明をあらかた聞き終わった宇佐美は、ベッドに座って一息つき、足を組んだ。


「で、キミ自身はどうしたいわけ?」


「うん……さっきまでは色々ショックだったけど、やっぱり兄としてサトルくんとの事を応援したいかな。ぼくと今の関係を続けて悪影響が出る前に、メメちゃんにはまっとうな人と付き合ってもらって、自然な流れでまっとうな感性に矯正されていってくれれば、とも思うし……うまく言えないけど」


 サトルくんについてはよく知らないけど、少なくともぼくよりも社会適正があるメメちゃんが選んだ人ならば、万が一にも間違いはないだろう。

 幼馴染みに悩みを吐露して、冷静に考える余裕が出てきたようだ。


「ひとまず見守る方向でいくって事?」


「まあ、そうかな……」


「甘いわね」


 宇佐美は一蹴し、足を組み替える。


「思うに、あの子のキミへの執着は既に相当なものよ。自然消滅なんて絶対ないと言い切れる。それに、私には何となくわかるんだけど……」


 続く言葉は、ぼくを愕然とさせた。


「あれ、キミのこと好きになってるはずよ。たぶんね」


「ヴぇええっ、えっ!? すっ、すすっ……嘘ぉ!?」


 頬が熱い。頭が湯気でも噴きそうだ。

 考えすぎだって言いたいけど、もし万が一、億が一でもそんな事になってたらマズイよね? 親父に殺される。


「自覚なかったの? キミはキミで、さっきまで失恋した女みたいな顔してたくせに……まあいいわ。とにかく何か行動しないとあれは直んないわね。しかも生半可なやり方じゃダメ。徹底的に嫌われるような事でもない限り」


「ちょっちょっと待って頭が追い付かない! 三分ください!」


「どうぞ」


 結論から言うと、時間を使い果たしても全く落ち着かなかったわけだが。


「……それが本当なら、やっぱどう考えても危ない、危ないよ。何よりあの子のためにならない。こんな、デタラメで振り回すような最低な男と……これ以上深く付き合っちゃダメだ。きょうだいとかそういうの抜きにしても」


 臆病者だと笑ってほしい。

 ぼくはメメちゃんの想いから逃げる道を選んだのだ。

 これは兄として妹の幸せを願っての事だと、自分に言い聞かせた。

 付け焼き刃だし荒療治だけど、取りあえず浮かんだ案を宇佐美に話してみる。女子から嫌われる行為にかけては、多少なりと自信はあった。


「ふぅん……晶くん結構ゲスい事思い付くのね。まあ、あの子にはやり過ぎなくらいがいい薬でしょ。『あれ』だけじゃ引き下がらないだろうし……」


「へ? あれって何さ?」


「な、何でもない、独り言よ! それより、そういう事なら私も協力する」


 なぜか赤面して口元をひきつらせ、ぎこちなく言う宇佐美。以前とは別のバイトで購入させられた恥ずかしい衣装と、カメラを貸してくれるという。

 こうして今回の、『セクハラで嫌われよう作戦』は決まったのだ。

 あ、ちなみに宇佐美とはやましい事は何もなかったよ?

 あの時どうして抱き付かれたのか理由はわからないけど、とにかく何もなかった事を、ぼくの名誉のために明言しておく。



 ※    ※    ※


 四月二十八日 七時三十七分 青山邸一階


 リビングにて、家族揃っての朝食風景。

 緊張の空気が充満していた。食器のかち合うカチャカチャという音すらもの悲しく響き、絶妙な居心地の悪さを演出する。


「ど、どうしたのメメさん? 晶さんも元気ないよぉ? なんかお話ししようよぉ……あ、そうだ、お母さんの高校時代の面白エピソードがあるんだけど聞くぅ? 女友達がデスメタルにハマった勢いで茶道部に入部した時の」


 海さんだけが場を取り持とうと積極的に喋ってた。

 一方、親父はいつもの厳めしい表情でトーストをかじってる。

 なんか時々、凄むような視線を感じるのは気のせいだと思いたい。

 それよか、目玉焼きに是非ともかけたいお好み焼きソースが、微妙に届かない位置にあるのが気になる。何度かチラチラ見ていると、


「はい……」


 メメちゃんがぎこちなく腕を伸ばして、ソースを取ってくれた。伏せがちにした小さな顔は、耳たぶまで紅潮している。


「あ、ありがと……」


 気まずさに耐えながら受けとると、指先同士が触れあってしまい、どちらともなく大袈裟なくらい驚き、声を上げて手を引っ込める。


「ごっ、ごちそうしゃまですた~っ!」


 既に食べ終わっていたらしいメメちゃんが慌てて席を立ち、流し台に持っていった食器を軽く洗ってから、すぐさまリビングを出ていく。


「ぼぼ、ぼくもごちそうさま!」


 結局なにもかけてない目玉焼きを押し込んで、ぼくも後に続こうとした。けれど、ゆらりと立ち上がった影が瞬時に回り込んできて、行く手を阻む。


「待て晶、話があるからちょっとツラ貸せ」


 親父である。全身から放つ禍々しい気迫のせいか、体格が1.5割り増しくらい大きく見えていた。こっえぇー。

 言い忘れたが、彼は学生時代、関東でもちょっとした伝説を残すレベルの『やんちゃなグループ』でヘッドを張っていた経験がある。荒っぽい口調が混ざる時は、当時の本能が疼いている証拠。つまりは怒っている、かなり。

 こうなっては逆らえず、大人しく廊下に出た。




「メメさんの様子が明らかに変だったが、メシの前に二階から聞こえた悲鳴と何か関係があるのか?」


 ずいずいと詰め寄られ、ぼくの背中に壁がぶつかる。親父の壁ドン、嬉しくねー!


「散々言い聞かしたはずだぞ。お前もそれなりに覚悟して手を出したんだろうなァ。言い訳があれば聞くだけ聞くから言ってみろ」


 握り拳を顎にひたひた当てるのヤメテー!

 ええ、確かにすごいひっどいセクハラしてました。バレたら即死もんですはい。ていうかこれって正直に言わざるを得ない状況じゃねーか!?


「何もないのか遺言は。だったら毛穴を食いしばれ……」


「剛さん」


 海さんがリビングから静かに顔を出す。驚いた事には、常時身に纏う和やかな雰囲気も、見るものを癒す微笑みもそこにはない。氷の無表情だった。


「そういう教育ってねぇ、さすがにもう古いって思うのねぇ」


「う……海さん」


「もう年頃で高校生の二人の間に起きた事なら、二人が解決しようとするんじゃないかなぁ。もしもの時のためにも、親には腰を据えて見守る覚悟も必要なんじゃないかしら……なぁんて私が口出しするの、でしゃばりかなぁ」


 ふわふわまったりとした喋り方だけ普段通りなのも、余計に怖い。

 親父は氷水を被ったみたいに青ざめて、しゅんと肩を落としてしまう。ここまで弱々しいこの人の姿を見るのは、何年ぶりか。


「代わりに晶さん、お母さんからもちょっとだけ、お話いいかしら?」


 断れようはずもない。相手はぼくの中で最強の人間を一瞬にして抑制せしめた存在なのだ。

 押し黙る親父を置いて、ぼくは海さんと共にリビングまで戻っていった。




「ふふっ、晶さん、カタくなっちゃだめぇ」


 無理ですって。全身余すところなくガチでガチガチです、はい。

 向き合う形でソファに座る海さんは、すっかり元のほがらか笑顔を作っているが、先の印象が拭えないのであやしいものにすら思える。


「メメさんの事だけどねぇ」


「ひゃいっ」


「あの子ってどっか危なっかしいとこあるでしょう? いずれちゃんと話すつもりだけど……むかし色んな事があってから、その……現実と向き合う事に嫌気がさしちゃったみたいでね。それで、辛い事があったり寂しかったりすると、自分が好きな想像の世界に逃げ込む癖がついたの。そのせいかなぁ、見てるこっちが辛くなるくらい殻に閉じこもって、誰ともかかわりを持とうともしなくなって、いつも独りぼっちでいるところしか見なくなった……」


 ぼくはここで、言い様のない既視感を覚え始めていた。どこかで聞いた事があるような、ごくごく身近な話のような。

 海さんは引き続き、せつせつと語る。


「でもね、最近はそれが変わったんだよ。いつも通りに風変わりな事をしたり、話したりする時も、なんだか今までとは違うキラキラした目をするの。仲間ができたみたいに、ううん、恋でもしてるみたいにね。えっと……逃避でしかなかった事があの子にとってようやく別の、ポジティブなものになってくれたっていうか……お母さんバカだからうまく言えないんだけどさ?」


 へへ、と愛らしく舌を出す仕草の後で、ぼくの目をまっすぐに見つめる。


「お兄さんのおかげだって事くらい、ちゃーんと知ってるよ?」


 心がぐらぐらと揺れた。

 早まったのだろうか、ぼくは。

 本当は自分が臆病になっただけなのに、無理矢理に突き放すような事をして。

 あの子の幸せがどーたらこーたら言いながら、ぼくはとんでもない間違いを。


 ぶるるるる


 その時、ポケットが振動する。失礼しますと声をかけ、ケータイを取り出す。

 一通のメールが届いていた。

 差出人の名は、


 千葉ちば 聡子さとこ

いかがでしたでしょうか。


ご意見ご感想、トイレを済ませて神様にお祈りをして部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備をオーケーしながらお待ちしております。


皆さん覚えておいででしょうか。あの苛めっこ、聡子ちゃんからのまさかの意味深メールです。その内容は……!? そして次回は、例の彼に会いに家を出た、メメさんの視点からのスタートでございます。


ご期待くださいませ! そして残り話数も三話と迫って参りましたが、なにとぞお付き合いくださいますよう、お願いいたします。それでは。

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