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漆黒の青山  作者: 山田遼太郎
メインエピソード
17/22

第六話~全力の青山②~

皆さんこんにちは♪ 山田です!


さて今回は完結章の第二弾。晶くん、昨日はお楽しみでしたね(爆)一体何があったというのか、なんか異常にはっちゃけて、メメちゃんに修行と称してとんでもない事をしちゃいます。お色気要素は妄想で補完していただければと。


それではどうぞ♪


[side:蒼樹 メメ]


 四月二十八日 七時十分 メメの部屋


 コツンコツン


 ノックの音が聞こえ、ちょうど朝仕度を終えたわたしは、お化粧台の椅子を引いて立ち上がります。


「メメよ、起きておるか? 入っても……大丈夫か?」


 お兄さん? なぜにいきなり工作員エージェントモード?

 昨晩の事があるから今は正直、顔を合わせづらいけど……。


「ど、どうぞ」


 渋々承諾した次の瞬間、扉が音を立てて開き、お兄さんが勢いよく転がりながら飛び入ってきました!


「ぐぁあっ……! ハァハァッ……無事であったか我が妹よ。貴様もつくづく悪運の強い女だな……」


 右側の肩口を手で押さえ、意味ありげに片目を閉じて、息を荒げながら微笑みを向けるお兄さん。

 えーと、どういう状況なんでしょう。何か見えない敵と戦って傷付いた、という事くらいは辛うじて把握できますが……。

 さっきのアクションの拍子に右肩を床で捻ったみたいでしたけど、大丈夫なのでしょうか?


「あのお兄さん、何かあったのですかっ?」


「くっ、無限に太陽が沈み月が昇るというのであれば、説明などいくらでもできようがな……! だが悲しきかな、時は有限だ! たとえわれが全ての多元宇宙を統べる全能者であったとしても、この脆く儚い泡沫うたかたの夢に等しきうつつにあっては……カルマに身を委ねるしか術はないっ! そういう法則なのだ、理解わかるかメメよっ!」


 なんか長台詞でもったいつけられました……。


「時にメメよ、時間は平気か? 今日はクラスの男と出掛けるのであろう」


 不意に真顔になって(片目はつむったまま)、問いかけてくるものだから、ますます困惑してしまいます。


「あー……はい、お兄さんのご用事にもよると思いますが、待ち合わせは午後の一時半なので少しくらいなら宜しいかと」


「そうか、ならば我が居城へ来るがよい!」


 言うが早いが、お兄さんはわたしの手を引くと、廊下へ連れ出しました。少し歩を進めて自室の扉の前まで来たところで、


「まずいっ、身を隠せっ!」


 お父さんが階段を降りていくのを見てとった彼は、素早くノブを引いてわたしを中へ押し込みます! かなり強引だったので、少し怖いです。


「フウッ、行ったか。奴に気取られては元も子もない。それこそ全てが水泡だ……さて、メメよ」


 背中を使ってしっかり扉を閉めると、芝居がかった動作で腕を振り払い、宣言します。


「今より貴様に『闇の力』の伝承でんしょうを行うっ!」


「はいいっ!?」


「何を狼狽うろたえる? 貴様は昨日、言っていたではないか……我のような戦士になりたいと。あの言葉に嘘偽りはないか? よもや、生半可な覚悟で誓ってなどおるまいな? そうだった場合、死よりもなお恐ろしい練獄のを身をもって体感してもらう事になるが宜しいか」


 どす黒いオーラに縁取られた凶悪な笑みを張り付ける兄の姿に、心からの戦慄をいま覚えています。違う、今日のこの人は明らかにいつもと違うっ!


「ええい、答えを待ついとまも惜しい! まずはそこにある服に袖を通せ! 話はそれからだ!」


 指し示す先は、机の上。デスクトップの隣に置かれた、怪しげな紙袋。


「廊下で待つから着替えたら呼べ。早くしろよ!」


 相手の姿が消えてから、わたしは怖々と袋の中身を広げ……思わず声を上げてしまいます。


「こっ……これは!」



 ~少女お着替え中~



 一分後。合図を聞いて部屋に戻ったお兄さんは、わたしの姿をまじまじと観察した後、握り拳をわなわなと震わせて叫びます。


「パーフェクトだメメ。宇佐美から借り……いや、我が怨念によって仕立てた『呪猫じゅびょう拘束術式法衣』が、あつらえたようではないか!」


「お、お兄さん……こんなの恥ずかしすぎますっ」


 猫ちゃんの耳がついたカチューシャ、これを被るのは良しとしましょう。

 メイドさんじみたツートンカラーのエプロンドレス、これも良いです可愛いですし。

 でもこのスカートの短さは何です!? ちょっと身動みじろぎしたらぱんつ見えちゃいそうだし、両手で布を伸ばして前を隠そうとしたら、後ろの丈が足りなくなってお尻がさらされちゃう。ああ、いま誰かに背後から見られたら恥辱で死ねます。

 胸元も開きすぎです! わたしの胸は同年代と比べてもそんなにおっきくないレベルですけれど、普通に着てるだけでも、その……『北半球うえはんぶん』と谷間がほぼむき出しなんですよ。僅かでも屈んだらどうなるんですかこれ!? 怖くて想像できませんよう。


「闇の力と関係ある事なのですか……?」


「関係はある、あるのだッッ! だが説明は割愛するッッ!」


 断言されました!?


「さァ、準備が整ったなら始めるぞ……『殺永廻さつえいかい』をな」


 お兄さんがウエストポーチから取り出したのは、何とも高級そうなデジタル一眼レフカメラ。

 それからわたしは様々なポーズを要求されて、散々フラッシュを浴びる羽目になったのです。


 手始めに


 ベッドに仰向けになって内股気味に膝を寄せ、手首は頭の上で曲げ、招き猫の真似。


「よーし素晴らしい! 今度はピースだ!」


「え、こうですか?」


「馬鹿者! ピースといったら両手だろうが! あと口はだらしなく開けて目は宙を見る感じで!」


 次


 どこからか取り出した首輪と、手足に巻いたチェーンによって拘束されながら、悲壮感たっぷりに涙ぐんだ表情(目薬で作りました)で。


「うーん何か足りんなあ、台詞で雰囲気を出せ! 『とんだ変態ご主人様にゃん、くっ、殺せ!』って感じで!」


 いっそホントに殺してくださいにゃん!


 つ、次……


「そこのニンジンを胸で挟んでもらおうか!」


「も、もう無理です……! これ以上は許してください……っ!」


「お、自主的にアレンジを加えるとは殊勝な心がけではないか!」


「そうじゃなくて本気で嫌なんです! やめてって言ってるんですよっ!」


 必死に声を張り上げて怒鳴り散らすと、さすがに伝わったのか、お兄さんはカメラを持つ手を降ろします。


「なぜだ!? これは貴様がえっちになって、闇の力を得るための修行なのだぞ? わざわざ協力してやってるのになぜ拒む」


 心の底から理解できない、というふうな機械的な眼差しで見下ろしてくる相手に、違和感を禁じ得ません。

 抱いていた幻想が壊れていきます。わたしの憧れるお兄さんは、もっとカッコよくて……多少えっちなところはあっても、強くて優しい万能のヒーローだったはずなんです。こんなふうに欲望を押し付けて、無意味に人を傷付けたりする人なんかじゃない。


「こんなのおかしいっ! 一体何があったんですか? 教えてください! お兄さんらしくないじゃないですかぁっ!」


 先程の目薬のせいではありません。わたしの瞳からこぼれ落ちたのは本物の涙でした。信頼を置いていた目の前の存在が、突然に赤の他人以下まで変わり果ててしまった事が信じられない。悲しさと悔しさで語尾が震えます。


「クッ、クククク、フハハハハーッ!」


 すると、お兄さんはさも愉快そうに肩を揺らし、嘲笑いました。


「浅はかであるぞ! 昨日までの我はとっくに死んで腐っておるわ! ……月明かりに追い立てられし哀れな『兎』を供物に捧げた夜からな! 脈打つ魔力リビドーの黒剣をもって柔い腹を引き裂いて臓物を突き、血の洗礼を施したのだ! 我はわらべの純真を捨て、今ここに鬼と成った!」


 仰々しい単語の羅列を、頭の中で反芻してみます。

 兎、脈打つ黒い剣、腹を裂いて臓物を、血……え!?

 なんて事でしょう。考え込む必要などなかった。

 要するに、お兄さんと恋野さんは昨晩、一緒に過ごしていたのです……。

 稲妻みたいに脳髄を駆け巡った刹那の理解によって、わたしの思考は真っ白になり、意識は想像の世界へと旅立っていきました。



 ♡イメージ映像です♡


「さァうさぎよ、このニンジンを俺の手から食ってもらおうか」


「いやよ、ばかにしないでぴょん。人間のほどこしなんてうけないわ」


「強情だな……フッ、だが俺には七三で理解わかる、貴様の目はこれを欲しているぞ」


「そんなっ、うそ……! カラダが勝手に……あぁっ」


「ほれ、おとなしくひざまずくがよい。ちっちっち(舌を打ち鳴らす音)」


「くやしいっ、こんなの、いやなのに……! くやしいけど食べちゃう!」


「クハハハッ! なんて意地汚い口だ! もっと欲しいと言ってみろっ!」


 ♡以上♡



 現実に引き戻されたわたしの喉をついたのは、


「お兄さんの馬鹿えっち変態! 最低です! このスケベ! 二度と話しかけないでください! 見損ないました! もう……だいきらいですっっ!」


 思い付く限りの罵詈雑言でした。

 止めどない涙と共に、初めてぶちまけた抜き身の感情。

 それを真っ向から受けるお兄さんは、どこか肩の荷が下りたかのような、ひどく晴れやかな目をしていて。


「……そうだ、俺など置いていけ。そして貴様は貴様自身の日常を謳歌するが良い」


 こちらにゆっくりと近づき、手を伸ばしてきます。


「ひぃっ……!」


 ぎゅっと身を縮こまらせるわたしの髪を、お兄さんの指先がそっと撫で下ろしました。


「寝癖つけたままデート? ちゃんと直してから行きなよね」


 暗黒創造神・漆黒ニゲラではなく、等身大の青山 晶としての口調で言い残し、彼は部屋から出ていきます。

 いつまでも場を動けないでいるわたしの耳に、底抜けに穏やかで優しい声の響きが残って、さよならを告げているようでした。

 夢見る時間は、終わったのだと。

いかがでしたでしょうか♡


中学生の頃、〇ソカの顔芸を通学中に真似していて、通りがかったおじさんに白い目で見られた事のある作者が、ご意見ご感想お待ちしております◇ ガマンガマン……♡


さて、今回は晶くんがまさかの〇〇卒業な内容でしたが、まー先にバラしとくと、んなわきゃないのでご安心を。次回は晶くんの行動の真相と、家族の話を少し。メメちゃんはお兄さんとギクシャクしたまま、デートに向かってしまいます……


それでは次回もご期待ください!

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