第六話~全力の青山①~
みなさんこんにちワン!
山田です!
ここからが! 漆黒の青山第一部の締め括りとなる最終章でございます! キャラ共々、全力で駆け抜けて参りたいと思いますので! なにとぞよろしくお願いいたします!
それではどうぞ!
[side:蒼樹 メメ]
四月二十七日 二十一時五十四分 青山邸前
「悪趣味な冗談はやめて下さい……っ!」
時間帯や玄関前という場所も考慮して、わたしはできるだけ声を潜めて不快感を露にしました。
当然ながらいまいち迫力は出せず、サトルくんは堪えていないどころか、「え、何が?」と鼻で笑います。
「わたし達が、つつ、付き合ってるとかいうアレですっ。お兄さんがびっくりしてしまったじゃないですかっ」
「あー、そうなの? てっきり無言の肯定かと思ったよ」
飄々(ひょうひょう)とした様子で肩をすくめ、妄言を吐いてきました。かと思えば急に肩を丸めて、ため息をついてみせます。
「じゃあ、いつになったら返事もらえるんだろう。明日かな……明日だといいな。なーんて、そんなわけないよね。あー胸が張り裂けそうだ。純粋な男の心を弄ぶなんてさ、蒼樹さん魔性の女なの?」
こちらをおちょくり、ことさらに煽り立てる演技。では一体、どこまでが本気だというのでしょうか? 虚実のボーダーラインがはっきりしません。
「ははっ、今スゲー怖い顔してるよ?」
「や、やめてください……っ」
熱をもった顔を掌で覆い、うつむく他にありません。心を見透かすようなあの瞳を向けられると、何も反論できなくなってしまうのです。翻弄されているうちに、いつの間にか引きずり込まれてしまうのではと怖くなります。
だって、人から告白なんてされたのは初めてで。
それにわたしは、お兄さんの事が……。
いいえ、まだ自分の気持ちにすら確信を持てていなくて。
こんな中途半端な状況で、わたしはどうすればいいのでしょうか?
「まァいい、どのみち明日ハッキリするさ。ゴールデンウィークまでには答えを出すってきみの方から言ったんだもんね? 楽しみだよ……じゃあね」
手を振りながら背中を向けて、門を出ていくサトルくん。
わたしは無性に心細い気持ちになり、早くお兄さんのお部屋に行きたい、お顔が見たいという衝動に捕らわれていました。
※ ※ ※
[side:青山 晶]
二十二時一分 青山邸二階
「宇佐美、宇佐美」
部屋の窓枠から身を乗り出し、隣家の窓ガラスを軽くノックする。
するとすぐ、水玉模様のカーテンの向こうから、幼馴染みの少女が顔を覗かせた。
夜中だというのになぜか外出用らしい白のワンピースを着て、薄ピンクのカーディガンを羽織っている。コンビニ袋を下げていたので買い物帰りか。
「……何の用?」
やや呆れ顔で窓を開け、首を傾げる宇佐美。
自分から話しかけたくせして、ぼくはさっそく反応に窮してしまう。
「いやあのその……ただなんとなく、会いたくなって……」
「は? 私はキミのお母さんじゃないんですけど? 正直気持ち悪いわよ」
お怒りもごもっとも。
家が隣で幼馴染みなのをいい事に、夜中に女子の部屋の窓を叩くとか、行為だけ見れば完全にストーカーだ。
「だよねっ、ホントごめん忘れてください! おやすみ……」
「ま、待ちなさい! えーと……わかったわよ、いま行ってあげるから!」
眼鏡の右側のツルを指でしきりに弄くりながら、途端に落ち着きをなくす宇佐美である。
ていうか、あれ? 懐かしいなこの癖。なんか意味があった気がするけど、なんだっけ……?
考えている間にも、彼女はこちらに手を伸ばしてきていた。小さな掌を握ったぼくは、さらに反対の手で細い腰元を支えるようにする。
窓枠を乗り越える際に片足が上がってワンピースの裾がめくれてしまい、マシュマロで出来てるみたいな眩しい太ももがむき出しになってどぎまぎしたが、本人が気付いていないようなので取りあえずガン見させていただく。
んん、予想外に短いスカートだよな。
もっとこう、角度を変えたら、他のものまで見えそうな……。
ぼくの体は童貞の性に操られ、自然と斜め後ろに傾いてゆく。
そしてバランスを崩し、足が滑った。
「うわぁ!」「きゃあ!」
二つの悲鳴が重なりあう。ぼくは宇佐美を引っ張り込む格好で、背中から派手に倒れこんでしまったのだ。
床に打ち付けられた衝撃に苦しむ間もなく、目の前が真っ暗になる。どこか湿ったふうな暖かさを持つ何かが、口元に押し付けられた。むせかえるような甘い香りの中に僅かな酸味がまじったような……何だろうこれは。って冷静に分析してる場合じゃない。息苦しさから逃れんと、もがく、もがく。
「ひぅっ! 晶くん、やめっ……動かなっ……!」
幼馴染みの声が耳に届く。長い付き合いの中で聞いた事もない、艶っぽい声。
覆い被さっていた布を払いのけると、とんでもない光景が視界に飛び込んできた。頬っぺたを熟れすぎたトマトみたいに真っ赤に染めて、瞳いっぱいに大粒の涙をためた宇佐美が、ぼくの顔に馬乗りになっているではないか。
えー! なんでこんな体勢になっちゃってんのおおおお!
じゃあさっき口元に乗っかってたのは、ぱんつというか……その向こう側の何かじゃないか!?
「うっわあああああああっっ!」
「ちょっ、待っ……!」
混乱のあまり静止の声も聞かず、勢いよく身を跳ね起こす。
すると今度は上にいた宇佐美の方が床に転がり、ぼくが彼女を押し倒すような形になってしまう。もうどうしたらいいんだよ。
「はぁ、はぁ……これ、何のつもり? 闇の組織の挨拶か何かなのかしら」
数回の息継ぎの末に平静を取り戻したらしい宇佐美は、汗の玉の浮いた熱っぽい顔で笑う。けど目は全然笑ってない。怒ってらっしゃるううううっ。
「ごめん。その、わざとじゃ……」
ぼくは申し訳なさに耐えきれず、すぐさま起き上がろうとした。
けれど宇佐美は次の瞬間、部屋の扉がある方向にちらと視線を移したかと思うと、ぼくの背中に腕を回して体を強く寄せ付けてきた。
「いい。もう少しだけ、このままで……」
あらゆる感情を殺した声色で、彼女が呟く。
一体何が起きているのか、ぼくには全くわからなかった。
※ ※ ※
二十二時七分 晶の部屋の前
わたしはただ絶句し、廊下に立ち尽くしていました。
半開きになっていた扉の向こう側では、お兄さんと恋野さんが、身を寄せ合っています。
部屋に行けば、お兄さんにお会いできれば、何らかの答えが出るかもしれない。そんな希望的観測を抱いていた先ほどまでのわたしは、愚かでした。
そうです、甘い考えだったのです。
わたしがお兄さんをどう思おうと、わたしがサトルくんとどういう結果になろうと、そもそも関係ないのです。青山 晶の人生には何ら影響はない。
彼の近くで同じ世界を見たいなんて願った事自体、とんでもない思い上がりだったのかもしれません。
お兄さんにはもう、ずーっと昔から、あんなにそばで支えてくれる女性がいたんじゃないですか。
それなのに、わたしは、お兄さんとサトルくんの間で揺れ動く自分を想像して、悲劇のヒロインを気取っていたなんて。
恥ずかしい。
こんなに自意識過剰なわたし自身が、ひどく、ひどく恥ずかしい。
わたしは必死に嗚咽をこらえ、二人に決して気づかれぬよう、自分の部屋に向かって歩き出しました。
いかがでしたでしょうか。
ご意見ご感想、真っ白に燃え尽きたあともお待ちしております。
なんかこの話だけ見ると、普通のどろどろ少女漫画か、ただのえっちなラブコメみたいですね!
でも次回は中二病が出ますよ(ひざひざ……申し訳ない)! 宇佐美の相談を受けて何かが吹っ切れた晶が、メメちゃんに色々ヤバい事を!?
ご期待ください!




