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漆黒の青山  作者: 山田遼太郎
メインエピソード
14/22

第五話~追憶の青山④~

また変な時間帯での投稿となってしまいました。申し訳ありません。


さて、今回はメメちゃんが晶達の入学したての頃を描くエピソードです。またも胸糞表現を含みます。前もって言いますと、いじめ描写があるので、ご覧の方によっては不快に感じるおそれがあります。


それでは、大丈夫だよという方、どうぞ。

[side:蒼樹 メメ]


 四月七日 十一時十六分 一年A組教室


 あァわたし、今日から高校生なんだなぁ。

 そんな実感が涌き始めたのは、ひたすら長く退屈なだけの入学式を終え、最初のホームルームが始まった時です。

 広い体育館で集団に混ざっているのとは違って、教室っていう小ぢんまりとした空間に知らない顔と一緒に押し込まれるのは、なんだか落ち着きません。


「はい、てなわけで今後の日程はちゃんとプリント載ってるから各自見といてー。じゃ次、とりま出席番号順で自己紹介よろー」


 担任の先生が教卓にもたれかかってだるそうに言ってから、十数秒の沈黙が流れます。

 周りの生徒がちらちら見てくるので首を傾げますが、思えば出席番号は名前順で、わたしが一発目でした。全身をガチガチに強ばらせ、起立します。


「あ、あのあのっ、わたし蒼樹 メメともうひまっ。趣味はアジサイの観察で、好きな食べ物はお米れす。引っ越してきたばかりらから街の事ぜんぜん知らなくて友達いませんけろ、よろてぃくお願いしまむ!」


 神がかった噛み率を叩き出してしまい、赤面して席につくと、まばらな拍手が気まずそうに返ってきました。あうう、猛烈なやってしまった感……。

 しかし、少なからず興味を持ってくださる方もいたようです。

 ホームルームが終了すると、後は下校時間。恥ずかしさを引きずったまま席を立とうとしたら、仲の良さげな女子グループから声をかけられました。


「ねぇねぇ、蒼樹さんだっけ? あんた可愛いねー」


 かか、可愛いですか? 普通の容姿じゃないかと。


「さっきの噛み芸おもろかったよ、オチがあったらもっとよかった」


 ウケ狙いでやったわけではないのですけれど……。


「メメって変な名前だね、漢字でどう書くん?」


「彼氏いんの? 大人しそうな顔して実は結構遊んでたりして」


「うちらこれからモックよって駄弁だべんだけど、一緒にどう?」


 集団で一斉に絡んでこられては、答えきれません!

 キャパシティオーバー、デス。オーバーヒート、シマス。ガガガ……。


「てかさ、蒼樹さんってあれだよね、青山さんちに住んでんでしょ? うちのママが挨拶しに行ったから知ってんだ」


「えー? 青山ってもしかしてあの青山!? 兄貴が話してたんだけどー、だいぶ変わった人って有名らしいよー?」


「あ、その人なら私も見た。なんか誰もいないとこで闇の力がどーのこーの喋ってたり、急に腕押さえて『くっ静まれ』って苦しみだしたり……この間は黒猫に『お前も同類か?』とか話しかけてたよ。なんか普通に怖くねー」


 話題がお兄さんの事に移ると、混乱していたわたしの頭は急に冷静を取り戻します。

 同時に、口を挟みたくてたまらない衝動が膨らみました。


「うわなにそれ、いわゆるビョーキってやつじゃない? ほらあのよくある中二病? っての」


 でもダメ、いけません。闇の組織の一員である事は誰にも秘密だと、お兄さんからさんざん念を押されたではないですか。


「中学ならまだカワイーですむけどさ、高校生になってもそんな事続けてちゃ、さすがに将来詰んでるでしょギャハハハ」


 だいたい、この人達は平和に暮らす一般人なのです! 世界の裏側で蠢く禍々しき存在に触れ、要らぬ恐怖を与えるのは酷というものです!


「あー、こら何いってんの! 一番の被害者が目の前にいるんだよ! ……ていうかメメちゃんも大変だね、そんな変な人と一緒に暮らしてるなんて。私だったら耐えらんな……」


 ばん!


 と大きな音を鳴らして机を叩き、わたしは立ち上がります。


「闇の力は……ありますよ?」


 笑い声や騒ぎ声が飽和していた教室に、沈黙が落ちました。


「ちょっ……どしたの? メメちゃ」


「誰もが見て見ぬフリをしているだけで、この世界は真っ黒なもので満ち満ちているんです。わたしは、皆さんが普段、当たり前のように享受している『平和』や『常識』といった、いわゆる『まともな価値観』の中だけで許される概念の方が信用できません。『愛情』や『信頼』などという、定義が曖昧で外見だけを取り繕った綺麗事も同じ。この世に存在していいのは、良いとか悪いとかいう基準が介在しない、純粋な『真実』だけなのです。つまりわたしが言いたいのは、あなた達の偏屈な物差しだけで世界を知った気に」


 一気にまくし立ててから、ハッと我に返って口を閉じます。

 わたし今、皆さんの前で、一体どんな表情をしていたんでしょう? 自分でもよくわかりません。

 言葉をなくしていると、唖然と立ち尽くす女子グループの脇から、小柄な少年が一人出てきます。


「まあまあ、みんなそのへんにしときなよ。人の家族の事はあんまり明け透けに言うもんじゃないって事さ。わかったろ?」


 グループとわたしの間に割って入った彼は、女の子みたいに綺麗な顔をこちらに向けて、薄い笑みを浮かべました。


「誰しも色んな考え方があるって事でいいんじゃない? それに……闇のなんとかってのも、もしかしたらホントにあるかも知れないじゃん?」




 四月九日 七時五十分 同所


 教室に入った途端、わたしを出迎える生徒達の視線は、どこか冷ややかな感情を含んでいました。

 表情も、それまでの楽しげなものから明らかに一変します。

 一言も発さずに自分の席まで足を運ぶと、机には一面の落書きが。

 ブス、死ね、援交ビッ〇、中二病のキチ〇イ女……。

 うわー、こんなの漫画でしか見た事ないです。まだやる人いたんですね。

 落ち着き払って周囲を見回しますが、生徒達はみんなそっぽを向いて目を合わそうとしません。空間の一部に不可視の穴が開いていて、わたし一人がそれに落ちて身動きできずにいるような錯覚に陥りました。

 誰がやったと問いただしても答えは期待できそうになく、このままでは授業にも支障をきたすので、わたしは渋々ロッカーから雑巾を取り出します。


「手伝うよ」


 話しかけてきたのは、入学式の直後に出会った男の子……サトルくんでした。


「おかまいなく」


 短い言葉で断りましたが、彼はわたしに先んじて、勝手に机の拭き掃除を始めます。

 そこに、出席簿を持った担任の先生がやって来たので、わたしはなかなか落ちないマジックの汚れに苦戦しながら、


「あの、先生」


 呼びかけますが、先生はうっとうしげに眉をひそめます。


「ダメじゃん蒼樹さん、ガッコの備品に落書きしちゃあ。綺麗にしとくんですよ」


「でもあの、これは誰かに」


「言い訳しない」


 切り捨てられて、二の句が継げなくなりました。後で聞いた話ですし、直接関係あるかどうか定かではありませんが、お兄さんを侮辱した女子グループのうち一人は、PTAの会長を親御さんに持っていたそうです。これも学園漫画でよくある設定の一つだなと、わたしは無味乾燥な感想を抱きました。




 四月十一日 十七時四十分 同所


 放課後になると、わたしは水をたっぷりくんだバケツを持って、無人の教室に戻りました。クラスで飼っているグッピーの水槽を掃除するためです。

 魚と水を容器に移し、ガラスを磨いていましたら、突然背後からの声。


「ごっめーん! 手が滑ったぁ!」


 頭から水を浴びせられ、わたしは全身グショグショになりました。振り向けば、くだんの女子グループが愉快そうに口角を吊り上げています。


「いや手伝おうと思ったんだよ一人じゃ大変そうだからさぁ、ホント悪気なかったんだってぇ。怒んないよね?」


 気にするな、と心の中で自分に言い聞かせました。これしきの事が何だ、もうとっくに『慣れっこ』じゃあないか。

 この何倍も苦痛を伴う暴力を、日常的に受け続けていたはずだろう、と。

 ふと窓に目をやると、灰色の空を背景に、無数の雨粒がガラスに張り付いています。

 ちょうどいい。今日は傘も忘れた事だし、このまま歩いて帰るとしよう。濡れねずみの言い訳になる。


「そうですか、これは申し訳ありません皆さんのお手を煩わせてしまって。でもわたし一人で十分ですから結構ですよ。それよりも早くお帰りになった方が宜しいかと。雨……きっと今に、もっと大降りになると思いますので」


「は? あんた神様? ナニ知った風なコト言っ……」



「い  

  い  

   か 

    ら

     帰

      れ」



「ひっ!」


 一体どんな恐ろしいモノを見たと言うのでしょうね。群の中核らしき女子は目元をひきつらせ、もつれる足取りでもって逃げるみたいに教室を出ていきます。他のメンバー達も後を追った事で、再び教室は無人に戻りました。

 嗚呼ああ、静寂が心地よい。

 今はこの孤独の空間だけが、無条件でわたしを受け入れ、癒してくれる。

 けれどそろそろ帰らなければ、家族に心配をかけてしまう。

 お兄さんにも、早く会いたい。


「遅かったか、今回もひどくやられたもんだね」


 いつの間にか前方にいたサトルくんが、引き戸に肩を預ける格好で微笑んでいます。二の腕には男子制服の詰襟つめえりがかかっていて、


「はい」


 というかけ声と共にそれを放り投げてきました。片手で受け取ったはいいものの、いかなる意味があるのかと悩んでいましたら、


「羽織って帰りなよ、これ以上冷えたりしたら丈夫な赤ちゃん生めないよ」


「お返しします。今のところ出産の予定はございませんので」


 わざと無機質な声色を操って応じ、詰襟を投げ返します。すると、サトルくんはなぜかくつくつと笑い出しました。すげなく当たられて気分を害しこそすれ、嬉しそうにするなんて奇妙です。一体何が彼の琴線に触れたのか。


「ジョークを言ったつもりはないですよ?」


「いや、そりゃ笑いもするよ。どんぴしゃな反応だったもんでね。ああ、確信した、きみ本当にオレと似てるよ」


 さらにおかしな事を言い出す彼に対して、わたしは思わず苛立ちをおもてに出してしまいます。


「何が言いたいっ!?」


「え、いいの? じゃあ言うけどさ……きみ、オレと付き合いなよ」


「はあ?」


 このやり取りを最後にわたし達はしばらく無言となり、後は窓を叩く四月のどしゃ降りの音だけが、薄暗い教室に響き続けるのでした。

いかがでしたでしょうか。ご意見ご感想、電車内で挙動不審な動作をとって他の乗客に変な目で見られながらお待ちしております。誤った表現があったりした場合も、遠慮なく指摘いただければと思います。


さて、次回はさらに遡り、メメちゃんの人格形成に重要な意味を持つお話です。


なんかコメディのくせに笑いのないシーンばかり続いて、自分でも破綻してねえかこれとつくづく思いますが、五話が終わって(一応全体の一区切りである)六話に入れば、中二もギャグも胸熱もお色気もマックスで盛り込む所存ですので、どうかお付き合いください! お願いいたします!


それでは次回もご期待ください! 五話の最終エピとなります!


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