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漆黒の青山  作者: 山田遼太郎
メインエピソード
13/22

第五話~追憶の青山③~

昨日……じゃない今日二回目の更新となります。前回は遅い時間での投稿となり、ご迷惑をお掛けしました事をお詫びいたします。


さて、メメちゃんに男の影が!? という事で続きましたが、今回はその正体が明らかになります。晶くん大慌て&大ショックの巻です。メーメちゃん! 浮気は許さないっちゃよー!


それではどうぞ。

[side:蒼樹 メメ]


 四月二十七日 二十一時四十四分 青山邸一階


「『君を泣かせる明日を黙って待つくらいなら、僕は世界の敵になる』」


 少年は叫び、少女の体を抱き締めます。迫り来る滅びの運命から、少女を傷付ける全てのものから、全身で庇おうとして。


「『ありがとう。……でも自分だけ一人ぼっちにはならないで。私も堕ちてあげるから。そしたら少なくとも孤独じゃあない』」


「『そうか、嬉しいよ。何度も行き違ったけど結局、考える事は同じなんだね。……さァ、堕ちよう闇に。これで僕らは未来永劫、二人ぼっちだ』」


「『お願い、契りを……。一緒に世界をり切りましょう』」


 そして二人はどちらともなく、口付けを交わすのです。

 これが『ちぎり』……。二つが一つになるための、生と死を超越して永遠を誓うための、闇の儀式。

 それは、物語のラストを飾るシーン。

 卓越した文章で綴られる世界に、わたしの意識はもはや直結しています。

 困難と悲哀の末に結ばれた少年少女が、満を持して身を寄せあい、お互いの想いを確かめあう。美しくも儚げな光景は、心を惹き付けてやみません。

 少年の姿が、あの『彼』のイメージと重なります。

 そして少女は、わたし自身に。

 あァ、どうしてでしょう。こんな事を考えてはいけないのに。

 わたしは、いま広げている古ぼけたノートにキスしたいという欲求を、押し殺す自信がありません。


「あ、あのー……メメちゃんさん?」


「ふえっ!?」


 唐突に割り込んできた現実の声に、間抜けな悲鳴が出てしまいます。

 いつの間にか目の前にいたお兄さんが、ソファに仰向けになったわたしを見下ろしながら、大きな咳払いを一つ。


「夜中だからって油断してそんなカッコさらすの、お兄さんどうかと思う」


 わたしはちょうどドアの方向……つまり、今お兄さんが立っている側に足を向けて寝転がっていたのです。ミニスカートのまま、両膝を折り曲げて。


「うひあぁっ!」


 即刻足を閉じて跳ね起き、持っていたノートをお尻の下に隠します。

 あちらの注意がぱんつに向いていなければ、問いただされてさらに慌てるとこでした。

 朝の掃除の際に、お兄さんの部屋で偶然見つけて勝手に持ち出してしまった、オリジナル小説ノートの事を。


「しかも、さっきから声聞こえてたけど……独り言?」


 最悪です、ダブルショック! ぱんつも見られて、小説を朗読してるのまで聞かれちゃうとか! あー、うわー!


「きききの、気のせいじゃじゃじゃ、ないですか? さっきまで、ててテレビで恋愛ドラマやってたんですけど! それですよきっと絶対そうです! あまりにもつまんないから即効切りましたけどね! あ、あは、ハハッ!」


 見苦しく混乱し、下手な嘘をつくわたし。舌は全く回ってないのに目だけはよく回ります。もー、ぐるぐる目玉です。


「れ、れんあい……そうだ! それはそうとだな、貴様!」


 お兄さんは特定のワードに過剰反応を示すと、わたしに負けない勢いで取り乱し、こちらを指差してきました。しかも唐突な工作員エージェントモード。ど、どこがまずかったのでしょう?


「今、何か悩みを抱えているのではないか? 俺には七三しちさんでわかるぞ。封じられし第八感覚エイトセンシズが先程からもうビンビンに騒いでおる故な!」


 そっ、そんなに余分な感覚をお持ちなのですか? さすが漆黒ニゲラ様、常人とは神経の造りからして違うのですね!


「えー……あくまでも予想だがな……もしかしてそのー、お、同じクラスの男子絡みとかそういう感じでは……とか、思ったり……ど、どうなのだメメ!」


 わたしは驚きを隠せません。秘密にしていたつもりだったのに、一瞬にして見抜かれたというのでしょうか。いいえ、本当はもうずっと前からこちらの心を読み取っていて、あえて気付かぬフリをしていたに違いないのです。


「そ、その通りです。さすがお兄さん、何でもお見通しなんですね」


 正直言いますと、かなり言いにくい事なのですが、この期に及んではもう逃れる術などありません。息をのみ、覚悟を決めて、口を動かし始めます。


「……わたし実は、その『彼』と……」


 りーん

 りーん


 呼鈴インターホンの音が鳴り、わたしの言葉を遮りました。

 お兄さんは肩透かしを食らってガッカリした様子で壁際に向かい、外と繋がるマイクをオンにします。

 返ってきた声に、わたし達はなぜかほぼ同じタイミングで、硬直した顔を見合わせました。そして一緒に廊下に出ると、玄関のドアを開け放ちます。


「こんばんは。夜分遅くにお邪魔してワルイねメメちゃん」


 夜の闇に半ば溶け込むようにして向こう側に立っていたのは、一人の男の子。

 ペルシャ猫を連想させる癖毛と中性的な顔立ちが目を引く、美少年と呼んで差し支えない彼の名は、


「……サトル、くん」


「えっ、えっ? 同じクラスのってまさか……」


 彼とわたしの顔を交互に見回しながら、お兄さんは驚きの声を上げます。


「君、昼間、店で会った……!?」


「エロゲのお兄さんもこんばんは。メメちゃんから聞かされてたんだけど、同棲ってマジなんだ? 連れ子同士の男と女が一つ屋根の下とか、それこそエロゲっぽいってか、スペシャルな話だよね~」


 お兄さんとサトルくんは、既にどこかで知り合ってたみたいです。


「あのぅ、その……今日はどのようなご用向きで……?」


 と表情筋をこわばらせながら問いかけた直後、サトルくんはわたしに向かってなぜか急接近するなり、美しい顔をずいと差し向けてほくそ笑みます。


「明日のプランさ、ちょい変更したい事あって、相談でもと思ってね。いやホントすぐ済むから」


 彼はやや強引にわたしの肩を抱き寄せたかと思えば、元より大きな瞳をさらに見開いて立ち尽くしているお兄さんを、真っ直ぐ見据えて言いました。


「そうそう……オレ、妹さんとお付き合いさせてもらってます。改めましてどうぞよろしく、お兄さん」


 ※    ※    ※


[side:青山 晶]


 二十一時五十六分 青山邸二階


 何やら親密そうな会話を始めた二人を置いて、ぼくはそそくさと自室に引っ込んだ。空気を読めと叱られたわけではなく、あくまで自主的に。

 とにかくいたたまれなくて、逃げざるをえない雰囲気だったのだ。

 ていうか、ふーん……やっぱスゲーなメメちゃんて。

 美少女とかいう理由以上に、人を惹き付ける魅力っていうんですか? やっぱ持ってんだろうなァ色々と。

 親の再婚ってだけで色々と気苦労も耐えないだろうに、親父からもすぐ気に入られたし。

 学校でもうまくやってるみたいで、友達どころかイケメンの彼氏まで作れちゃってんだもんな。

 ホントにすごいよ、うんスゴイ。

 未だにクラスに居場所がないようなぼくとはコミュ力が……いや、人間力からして違うんだろう、きっと。

 ぼくの妄想を信じてくれて、無邪気な憧れをくれて、嘘をつき通す勇気をくれた。嬉しかった、幸福だった。

 けれど、悲しいかな、生きてる世界がまるで違う。

 中二病風に言うならば、光と影、陰と陽、純白と漆黒の違い。

 隣り合わせでも、どんなに近い関係を築けたとしても、混ざり合う事なんて有り得ない。理解わかり合える日など、永久に訪れはしない。


 そうやって自分に言い聞かせるたびに、虚無感が募ってゆく。

 やっとわかった。

 ぼくの方だったんだ、メメちゃんに憧れていたのは。

 そのせいで、今はこんなにも心が痛い。

 知らないうちに彼女を奪っていた相手の事が、こんなにも恨めしい。


 やめよう。

 今日は色んな事が一気にありすぎた。

 だから、とりあえず寝ようと努力してみる。ベッドに身を投げ、無理矢理にでも瞼を閉ざす。


 無性に宇佐美に会いたくなった。

 今のぼくを好きなだけ、ぼろくそに叱り飛ばしてほしい。

 そんな事を考えてしまう自分が、どうしよもなく情けなくって、気づけば涙がこぼれ出ていた。



いかがでしたでしょうか。

ご意見ご意見をくださる方が増えてきて、感謝の極みでございます。心からの感謝を!


さて、次回は少しだけ過去に遡り、今まで描かれなかったメメちゃんの学校生活……その有り様が描かれます。ラストへの流れの一つであり、結構重大な事実が判明します。


ご期待下さい!


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