~序~
肩の力を抜けるまんがTIME風のコメディーを目指して書きました。今回ははじめての投稿ということで、序章だけ。お見苦しい箇所があったらすいません。
[side:蒼樹 メメ]
四月二十二日 七時十五分 登校路
わたしのお兄さんは闇の工作員です。
一見、普通の高校生ですが、それは仮の姿。邪悪を従え、邪悪を葬る、この世でただ一人の存在だそうです。
正体がバレないようにと常に周りの目を気にして、他人との必要以上の接触を避けて生活してます。たとえば今だってほら、電信柱の陰から陰へ、いちいち身をひそめながら移動してるんですよ。しかも、塀とか植木とかポストとか、何らかの遮蔽物を背にしていないと落ち着かないみたい。
「お兄さん、どうしてそんなに警戒してるのです?」
わたしが訪ねると、お兄さんは、脂汗を浮かべて答えます。
「お前には視えないのか? そして聴こえないのか? そこらを漂う邪なる怨念の嘆きが!」
「えっ! もしかして何かいるんですか? やだ、こわい!」
「下がっていろ、相手は俺ほどの特級討魔師でも滅多にお目にかかれない、カテゴリA+。お前ごときでは直視しただけでミンチになるぞ!」
そんな簡単に挽き肉ができてしまったら、精肉業の皆さんが路頭に迷ってしまいます! わたしが自らの想像に身震いをしていましたら、一軒家の前で立ち止まったお兄さんは、「来るぞ」と身構えました。
すると、その数秒後、正面の植木ばちに咲くアジサイ目掛けて、真っ黒な蛾がひらひら舞い飛んできたではありませんか。
「奴の眷族だ! くっ、ここまで嗅ぎ付けられていたとはな!」
見えない力に押さえつけられるみたく、膝をつくお兄さん。苦しげに眉を歪めて、たいへん辛そうです。
わたしにできる事はないのでしょうか? ああ、まごついている間に、邪悪な使い魔がお兄さんの肩にとまって!
「ぐああ、きもちわる!」
悲鳴をあげて、お顔がみるみる青ざめていきます! がんばって!
「お前は逃げろ!」
お兄さんはわたしの肩に震える手を置いて、必死にそう促します。
「でも、お兄さん!」
「いいから行け! お前は学校に行って、普段通りの日常を謳歌するがいい! 俺だけで、俺だけでたくさんだ……こんな呪われたカルマを生きるのは……」
「わかりましたお兄さん……ごめんなさいっ!」
わたしは涙ながらに走り出します。決して振り向かないように。
孤独な戦いの使命を背負う彼の覚悟を、せめて無駄にしないようにする事しか、今の無力なわたしにはできないとわかったからでした。
ありがとう、お兄さん。わたしは忘れません。この世の全ての人があなたの気持ちを理解しないとしても、わたしだけは味方でいると誓います!
その日、わたしは一人で高校に向かい、お兄さんはついに追い付いてくる事はありませんでした。
お昼休みにLINEで連絡をとったところ、『なんとか奴を退けたが、危ないところだった。力を解放した反動でお腹が痛くなったから今日はもう休む』との返信がありました。
お兄さん、おいたわしや。
今はどうか、ごゆるりと傷を癒してください。わたしはいつまでも、あなたを待っていますから……。
お読みになってくださった方がいらっしゃれば、最大限の感謝を捧げたいと思います。更新はできるときに行おうと思います。