1話
帰ったら何を勉強しようかな、とそんなことを考えていると人とぶつかってしまった。
「おいっ。お前どこ見て歩いてるんだよ」
ものすごい剣幕で怒られた。ものすごい綺麗な人に。
男の人、だけど。男の僕が見とれてしまうくらい綺麗だった。
「ご、ごめんなさい!」
急いで謝ると、その人は眉間にしわを寄せた。
「お前、ちょっと来い」
そう言って腕をつかまれた。
抵抗は、出来なかった。睨まれて、言葉すら出なかった。蛇に睨まれた蛙ってこういうことを言うのかも。
自分が危険な状態にあるのに、こんなに呑気なことを考えられるのはこの人が綺麗だからっていうのも、もちろん理由の一つだけど、それだけじゃない気がするんだ。でも、それが何なのかは、僕にはまだわからない。
きっと、これから行く場所でわかるんだと思う。
そう思うと少しだけワクワクした。
顔に出ていたのだろうか。
「なんで笑ってるんだよ?」
と怪訝そうな顔をされた。
「何でもないです」
そう言っておいた。
それから綺麗な人は誰かに電話をかけているみたいだった。
「あの、一つ質問、いいですか?」
僕はずっと気になっていることを聞いてみることにした。
「僕、何の役にも立たないと思うんですけど。僕の存在意義なんてごみ以下ですよ。ごみは人の役に立ちますけど、僕は何の役に立たない。むしろ綺麗なひt・・・ごめんなさい。お兄さんは僕を連れて行ったことを後悔すると思います」
すると、深いため息をつかれた。
「お前さぁ、そうやって言って逃げようとしてんの?それに、お前に役に立ってもらおうとか、これっぽちも考えてないから。安心しろ」
上手く言いくるめられてしまった。
納得しないけど、この人を敵に回すのは危ない。
「そうですか。わかりました」
また、嘘をついてしまった。