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プロローグ

「……は?」


思わず間抜けな声が漏れる


初対面の女がいきなり俺の前に立ちはだかって訳のわからないことを言い放った


「今日からあなた、魔法使いね」


……二回言ったぞ。おい


「人違いだと思いますよ」


「あら?貴方アラン・ゴンザレスよね」


「完全に人違いじゃないですか」


誰だよゴンザレスって


流行りのドキュンネームってやつか


いや、日本人じゃないよな


「おかしいわね、この写真の人貴方にそっくりなんだけど」


渡された写真を見ると全くの別人が写っていた、40後半くらいのおっさんが


「全然違うじゃないですか……俺もう行きます」


あんなおっさんと間違われたことにショックを受けつつこの場をあとにする


……正確にはしようとした


「さっきからずっと探してるのにいないのよ、もう貴方でいいわ」


俺は全然良くない、今何時だと思ってるんだ……夜中の2時くらいだぞ


小腹が空いたからコンビニで夜食でも……なんて買いにこなけりゃよかった


俺がなにも言わないでいると女は誰かに電話をかけはじめた


俺の腕をしっかりと握って


魔法使いだっけか。よくわからんが面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ


そこら辺で木の枝でも振ってろ


「いくわよ」


「行きません」


「いくのよ」


拒否権なんてものは最初からなかった。


されるがままにどこかへ連れて行かれる


お互いなにも喋らなかった



連れてこられた場所はこの人の家みたいだ


この状況大丈夫なのか、さっきまでは暗くてよく見えなかったけどかなりの美人だ


金色の腰までのびた綺麗なストレートヘア


白い肌に整った顔立ち


決め手はでかい胸


抜けますわ、これ


……っといかんいかん、これじゃあまるで俺が変態みたいだ


ソファーに腰掛けながら視線を女の方に向けてみる


「麦茶派?それともトマトジュースかしら」


「比べるもの間違ってませんか」


変わった人だ


美女と変な出会い方をするなんて、ついてるんだかついてないんだか


俺はファンタジーな世界へ行けるとしたら中ボスの立ち位置だって決めてんだ


勇者の仲間なら裏切り者しか認めん


魔法使いなんていかにも裏切らなさそうなポジションじゃないか


俺の前に静かに置かれたココア


ゆらゆらと湯気が揺れていて甘い匂いがする


麦茶でもトマトジュースでもないけどなにも言わないでおこう


「あたし、ココアにはホイップクリーム乗ってないと許せないのよね」


そんなものどこにも乗ってませんけどね


「それでゴンザレスさんでしたっけ、その人の代わりに俺をここに連れてきた理由を教えてください」


「さっきも言ったじゃない、貴方は魔法使いになるのよ」


「ゴンザレスさんが選ばれし魔法使いだったんでしょう、俺じゃなれませんって」


「大丈夫よ、多分貴方には才能があるわ」


「お気になさらず、ゴンザレスさん探し頑張ってください」


魔法使いの才能……?


口から火が吐けるようになるなら考えなくもないけどやっぱ魔法使いはな……


「お願い、マオ・ウ様が狙われてるの」


「いかにも魔王みたいな名前してますもんね」


「話が早くて助かるわ、貴方の言う通り魔王よ。力を合わせてマオ・ウ様を救いましょう」


「俺ただの佐藤ですもん、無理ですって」


「佐藤君と魔王様って響きが似てるわね、ふふ」


ぶん殴りたい


「自己紹介が遅れたわ、私はユウ・シャよ」


「えっ」


「嘘。賢者のマリア・ベルスティネスよ。マオ・ウ様の一番の手下かしらね」


「一番の手下なんですか」


マリアさんと言うらしい


「貴方の名前は今日からサト・ウンマルで決定したわ、今」


「佐藤です」


「サト・ウンマルよ」


拒否権なんてものは最初からないとさっき学んだばかりだった


もう少しかっこいい名前なら大歓迎なんだけどな。ウンマルって……


正直刺激のない日常に飽きていたしこの人についていくのも悪くない


魔王様って言ってたし頑張れば中ボスにはなれるはずだ


第一もう話が進んでいる、聞いたことのない言葉をぶつぶつつぶやき出したし転生でもするんだろう


ああ、なんかもうどうでもよくなってきた


転生なんてしたことがないからどうすればいいのかわからず自然と体に力が入る


マリアさんがなにかをいい終わったあと目の前が真っ白になり、俺の意識はそこで途切れた……








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