紙袋をかぶって 6
今日は幼稚園のお別れ会。みいちゃんと美子ちゃんが漫才を披露
する事になった。早速二人が壇上に。鳴り響く拍手。司会が紹介を
する。タイトルは【ブス】! 張り切ってどうぞ! 鳴り響く拍
手!
「はい、どうも!」
「どうも」
「今日は漫才と言うことでね、面白いことをしゃべらなければなり
ません」
「おいおい、別にええやん。面白くなくても」
「え? だって漫才ですよ。面白いことをしゃべるから漫才って言
うんです。おかしなコトを言わないでくださいよ」
「だって、キミ、顔がオモロイ。それだけでええがな」
「え? あなたがそういうことを言いますか? あなたこそどしゃ
降りのお天気のような顔して」
「え? それはどういう意味やの?」
「はい、これ以上崩れようがない、ってことです」
「ほう。うまいこと言うな。じゃ、キミは一円玉のような顔とでも
言っておくわ」
「あれ? そんな分かりきったこと言いますか? これ以上崩しよ
うがないって言うんでしょ? わたしが言ったのとおんなじじゃな
いですか」
「ちがうがな」
「え? ちがうんですか?」
「うん」
「じゃ、どういう意味です?」
「うん、安っぽい顔、ってことやねん」
「はあ、なるほど。って感心してる場合じゃないですよ。ひどいじ
ゃないですか、安っぽい顔だなんて」
「イヤ、これは失礼。確かにひどかったかな? それじゃ、あやま
っとくわ。ゴメンなさい、一円玉さん」
「そっちにあやまりますか!」
「まあ、ええがな。気にせんとき。しかしキミ、美人とブスはどっ
ちがトクやと思う?」
「何ですか、いきなり。でもまあ、そうですね、美人がやっぱりト
クでしょうね」
「どして?」
「それはやっぱり、チヤホヤされますしね。第一、人気者になりま
すもん。それに、ほら、買い物したって、美人はおまけとかしても
らえそうでしょ?」
「ほう。そうかいな」
「それはそうでしょう?」
「じゃ、キミも美人かいな」
「え?」
「だってキミ、チヤホヤされてるやん。ほれ、掃除当番代わってち
ょーだい、とか、宿題やっといてちょーだいとか、コーヒー牛乳買
ってきてちょーだいとか」
「それ、使い走り、通称パシリじゃないですか。チヤホヤとはちが
います」
「そうか? あ、人気者、これは間違いないわ。ほれ、キミが歩く
と人が集まってくるわ」
「ああ、あれは、この顔が物珍しくて、集まってくるんです。この
前なんか、何のお面かぶってんの? って子供に聞かれました」
「あいたた! それじゃ、おまけ、これこそ間違いないわ。だって
キミ、買い物すると必ずまけてもらうもんな」
「はあ」
「店員さんの顔をじっと見てなぁ。すると相手がブルブル震え出し
てな。もう勘弁してくださいって、まけてくれるもんな」
「そうそう、いつもただでこーんなにいっぱいって、コラ! 何を
言わせるんですか」
「ええなぁ。キミはおまけの達人で」
「ちがうでしょ!そんなことしません。第一それって脅迫じゃない
ですか」
「ちがうの?」
「まったくちがいます」
「ふうん。ま、ええがな。ま、正直、うちらはブスやもんな。美人
さんのことはわからへんわ」
「まあまあ、そうですね、大きい声じゃ言えませんが、確かに美人
さんじゃないですね」
「いいや。もうキッパリ言わせてもらいますわ。うちらはブスです。
それもとびっきりの。せやな。世界選手権でもやろうものなら、日
本代表の四名枠には入りまっせ」
「へえ、枠は四名ですか。少ないですね。で、わたしたちが日本代
表に?」
「あたりまえや。キミなんか選考会出なくても当確や。その点うち
はギリギリか、補欠や。まあ、うんとこ頑張ってやっと滑り込みセ
ーフってとこやな」
「はあ」
「キミは期待できるわ。本選でもメダルは確実ですわ」
「え? そこまで言いますか? まあ、ブスには違いありませんが、
そこまでひどくはないでしょう?」
「何言うとるねん。メダル確実やで。ひどいことあるかい。何にし
てもそこまでいったら本望やないかい」
「はあ。そうですか。まあ、そうかもしれないですね」
「キミがうらやましいわ。金メダルおめでとう」
「ありがとうって、ねえ、わたしが金ですか?」
「当然や。うちはせいぜい六位入賞が精一杯や。ああキミがうらや
ましい。キミはブスの天才やもんな」
「嬉しいような、悲しいような。ほめられてるのかバカにされてる
のか分かりませんね」
「もちろんほめてるんやで」
「そうですか? しかし、どうせのメダルだったら美人さんのほう
がいいですね。ミスインターナショナルなんて素敵じゃないですか」
「せやな。やっぱりうちらも女やからな。しかし美人さんもトクば
かりやないで」
「え? どうしてですか?」
「だって、考えてもみんかいな。美人は寿命が短いんやで」
「ああ、よく聞きますね」
「せやろ? だからうち心配やねん」
「え? なにがですか?」
「だから美人薄命っていうやん」
「でも、あなたはブスだから大丈夫ですって」
「ちがうねん。知り合いがみんな居なくなるまで長生きやと、淋し
いなぁと思って」
「そっちですか! まあ、大丈夫ですよ。わたしが居るじゃないで
すか」
「おお、せやった。キミがおったわ。それじゃ淋しくないなぁ」
「はい」
「ブス同士仲良く生きていこうなぁ」
「はい。長生きしましょうね」
「ブスバンザイ!」
「ブス最高!」
「よっしゃ。仲良く生きて、そのあとで、キミが来るのをあの世で
待ったるわ」
「え?」
「だって、どう見たって、キミの方が長生きやろ?なんたってゴー
ルドメダリストやから。うちはやっとこ六位入賞。レベルがちがい
ます。あ、もしかしたらキミクラスのブスは死なないのとちがう
か?」
「もう、わたしは不死身ですか。炎の不死鳥じゃないんですから」
「いいや。キミ、炎の不死鳥かもしれへんわ」
「え?そんなに神々しく光ってますか?」
「ちがうわ。炎の不死鳥も水につかったらキミとおんなしってこと
や」
「はあ」
「きっとブスッ、ブスッ、っていいよるやろ? な?」
「もう、いいかげんにしなさい!」
「どうもありがとうございました!」
鳴り響く拍手! みんなの笑顔!
こうして二人の漫才は終わった。鳴り響く拍手の中、二人は手と
手を強く握り合った。そして笑った!
笑顔の二人。その二人はどこから見てもブスには見えなかった。
きっと天界では神様もうなずいているに違いない。
ブスってのは? うん、そういうことなんだね…
みいちゃんも、紙袋をかぶるのは、もう卒業かな?
誰にでも明日は来る。要はものの考えよう。
一緒に笑おう!
みいちゃんも、美子ちゃんも、貴方の中にきっと居ます。人間は心が大切よ、と簡単言いいますが、そこまでには長い道のりが要ります。誰もが気持ちが大切だとは分ってはいても、カラコンを入れたり、ツケマをしたり、見栄えの事のみに熱中します。おしゃれは大切ですが、一度考えてみてください。ブスって何? 美人って何? って。そのうち、きっと貴方にも分る時が…?
さて、短編での【紙袋をかぶって】はこれにて終了。いつか中編の【ブス】も掲載したいと思ってます! ありがとうございました!