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伝説の証拠品

作者: 白樺セツ

「停電起きたらいいのになー」


画面の向こうでは大きなツリーが輝いていて、テレビのリポーターがこのツリーは捨てられたゴミを再利用して作られたのだと説明している。

立派なツリーを見に、何人もの見物客が来ているようだ。


「どうでもいいし……」


そのツリーを一緒に見に行くはずだった友人がドタキャンしたんだから、私には関係ない。

ドタキャンの理由はどうでもいいが、おかげで一人暮らしの私はこたつに入って、ミカンの皮と遊ぶはめになった。


ぐきゅう、と情けない音がする。そういえば晩御飯もまだだ。

小さな冷蔵庫を開けてもそこにはなにもない。

というより、まともに食べられる物がない。目薬とチューブの生姜ぐらいしかない。

リポーターがたくさんの人々の中から、サンタの格好をした人をテレビの前に連れてくる。

たぶんなにかのバイトなのだろう。

白い付け髭のせいで顔が大幅に隠れてしまってはいるが、恐らく二十歳前後だ。


『実は僕、日本人で初めてサンタ試験に受かったんですよ。今日から僕も大忙しです!』


サンタの格好をした人が嬉しそうに言う。


『僕が小さい頃、サンタさん来なかったんですよー。

だから悔しくてサンタになったんです。

まあサンタさんたちも忙しかったみたいだし、こんな遠い島国は来にくかったっていうのもあったんでしょうね。

僕以外にももらってない人はいたみたいだし。

でも、今日から僕というサンタが日本に住みますよ! 

今日からのクリスマスはプレゼント届く人が多くなるはずですから楽しみにしていてくださいね!


それにしてもアレですよね。

最近は携帯電話もテレビも画質がいいからほんと助かりますよ~。

あ、そうだ。日本のちびっこたち! 

僕がサンタですよー。今日君んちに行きますからねー。

あ、欲しいものリストとか置いててもだめですよ。

そこはサンタの事情があるから。

ちゃんと靴下置いといてねー。もちろん洗濯したやつをだよー。

見てるかーい、全国のちびっこたちよー!』


『あの……すみません、あの、もういいんで、あの……』


リポーターの人が少々引きながら、自称サンタをテレビから退場させようとする。

すると自称サンタは危機を感じたか知らないが、いきなりカメラに顔を近づけた。

どうやら両手でカメラが逃げないように固定したらしい。


『ちょ、ちょっとあなた!』


『ちびっこたちー! サンタさんはいるからね! 俺……僕がサンタだからねええ!! 信じてねえええ!』


『こいつ、だめだ放送事故だ放送――』


ブツッと画面が消えて、すぐに違う画面が出てきた。

『しばらくお待ちください』――……。

茫然としてしまう。

こんな漫画みたいな放送事故とか初めて見た。

ふざけるにもほどがあるだろう。


「――っふ」


つい笑みがこぼれる。ちょっと面白かった。

これなら外に出かけなくてよかったとも思える。

テレビを消して、服を着替える。

コンビニに行ってなにか買ってこよう。

奮発して、今日だけはケーキを買おうかな。


「サンタさん、なぁ……」


私も昔は信じている時期があった。

クリスマスの夜に現れる、不思議なサンタの話を親から聞いたためだ。

なのに毎回来るクリスマスの日に一度だってプレゼントが来た試しがなかったので、すぐに信じなくなった。

でも、自分が悪い子かどうかとかそんなことは置いといて、サンタなんていないと言い切る裏には、少し信じたかったという気持ちも、確かにあった。


コンビニで弁当と、せっかくなので二切れ入っているケーキのパックを買った。

こたつの上にそれらを置いてうまー、とか言いながら食べていると、急にわびしくなってきた。

一人暮らしってこんなもんか。


テレビをつけると、また生放送がやっていて、またあの自称サンタが出ていた。

今度は携帯電話のテレビがどうの言って、さりげに自分の携帯電話のことも自慢している。

チャンネルを変えた。

もそもそとケーキを食べながらテレビを見ていると、だんだん眠くなってきた。

ケーキを食べたらもう寝てしまおうか。いや、太るかな……。

一人って本当誘惑多いな。楽しいねほんと。ほんと楽しい。


「サンタがいるんだったら金でもよこせや……」


掴んでいたフォークを皿の上に落とし、悪態を吐く。

眠ってしまいそうだ。

ケーキ、まだあと一切れあるのに。

せめて冷蔵庫に入れなければいけない、と、思うのに。





それはちょっとした物音だった。

ピガ、ガガガ……という電子音と、なにかが落ちたような音。

そのとき私はユニコーンと戯れながら巨大クリスマスツリーを破壊するのに夢中だったので、起きてもそれが現実だと思えなかった。

寝ぼけていたのだ。


こたつに誰か、私以外の人間が入っている。

しかもなにかを食べている。


「ケーキ……」


おぼろげに見えたそれを口に出すと、その誰かがビクリと体を震わせた。


――起きてやがったか……


声は聞こえなかったが、なにかが頭に響いた。

どこかで聞いたような声だ。


――このことは一切他言無用だ。あとお前はガキという扱いにする。サンタを信じさせなくするのは俺とかお前みたいなやつだからな。ガキのお前にはこのサンタがプレゼントをくれてやる。


吐き捨てるように言うと、それはケーキを食べきり、こたつの上になにかを置いて立ち上がった。


――ケーキは頂いた。あばよガキ。メリークリスマス。


それからまた電子音と物音がした後、私はまたクリスマスツリーを折りながら、リスと一緒に鈴をくわえて鳴らしていた。





起きるとそれは惨状としか言いようのない光景だった。

まず、テレビの周辺に置いていた物が倒されてぐちゃぐちゃだし、こたつの上に置いてあったケーキはなかった。

私は寝ながらケーキを……最後の一切れを食べたのか?


即座に貴重品をチェックする。

カードも通帳も大丈夫だ。戸締りも大丈夫だった。

だからといって、泥棒が入ったという可能性は捨てることはできない。

被害はケーキだけだが……警察に言うべきだろうか。


そういえば昨日の夢。

確かクリスマスを祝っている夢を見ていた気がするが、途中自分の部屋も出てきた気がする。

あれは現実だったのか。


とにもかくにも友人に電話してみる。

分からないときは誰かに頼るのが早い。

起きているかどうかが少し不安だったが。

しばらく待つと、意外とはっきりした声が聞こえてきた。


『なんじゃいな。切るよ』


「切るな。ねえ、私もしかしたら泥棒入られたかもなんだけど」


『よし警察に通報しろ。あとテレビ見てないなら一回見ろや』


テレビ……そういえば昨日つけっぱなしで寝たような気がするのに、今は消えている。

つけてみると、面白いことになっていた。

それはほとんどのチャンネルがそのニュースだった。

見出しは『聖夜の奇跡?』。

どうやら今日の朝、私と同じような被害を受けた人たちが他にもたくさんいたらしい。

ちょっと違うのは、私とは違って素敵なプレゼントが置いてあったということ。


携帯電話の向こうの友人が楽しそうに話す。


『あんたんとこもそうなんじゃね?』


さあ……と言葉を濁して部屋を見回すと、こたつの上に見覚えのない紙切れを見つけた。

汚い字でなにか書いてある。


――てめぇ、サンタはいるんだよ。俺がサンタだ覚えとけコノヤロー。あとチャンネル変えんな! サンタクロースより。――


……いや、そんな。まさか、ねえ?


笑いを押し殺しながら、友人との電話を切って、今度は1、1、0と番号を押した。


「あ、すみません。泥棒に入られたみたいなんですが……」


冷静に状況を話しながら、紙切れの裏にも書かれていたメッセージを読んだ。


――これがプレゼントだ。ありがたく受け取れ。あと、金はやらん。


気持ち悪いとかそんな感想は置いといて、この犯人が捕まったら言いたいことがある。

来年は一緒にケーキ食べないか。

サンタがいる証拠をくれたこと、とても嬉しかったから、お礼にさ。


大人になってから、サンタクロースはいるんだって分かりました。検索して。

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