合流のち状況把握
空を飛んで付近に着地する、なんて驚かせる演出は必要無いので、残り五百メートルは走った。
ある程度近付いた所で声を掛けながら手を振ると、アタシの接近に気が付いていたアランさん達が手を振り返してきた。
アタシが足止めをした後は、オークに追いつかれることなく、ここまで来ることが出来たそうだ。
それを聞いて、役に立てた事を嬉しく感じたが。
アタシが、日が登っても現れないから生存を諦めていたらしい。
「俺達を逃がすために犠牲になんかなるなよ」
と怒られた。
アタシとしては勝算があっての行動だったが、心配する気持ちが感じられたので、言い訳はしないで素直に怒られておくことにした。
これぞ大人の対応である。
アタシは無事に合流を果たすことが出来たが、帰還への歩みは止まらない。
行きとは違い、砦兵達が先頭を歩き、後方を囲む様に冒険者逹が歩いている。
昨夜から徹夜で歩き通しなのであろう。みんな疲れた表情を浮かべている。
合流するまでに、空中偵察した周辺の状況を伝えると、あからさまにホッとした表情を見せた。
が、野営地のあった場所の状況を伝えると、厳しい表情に変わった。
アランさんは、ケニーさん達三人に声を掛けてから、アタシを連れて『漆黒の鉄槌』パーティのダンさんに今の状況を報告しにきた。
ダンさんは
「無事だったか」
と一言言ってから話しを促してきた。
アランさんとアタシは歩きながら報告した。
ダンさんは、野営地周辺の状況に眉を潜めたが、現段階では砦に戻る事が最優先であると判断したのか、守護騎士団隊長に報告しておくと話しを打ち切った。
ここで騒いだとしても、冒険者逹に無用な不安を抱かせるだけである。
ダンさんは、ニヤリと表情を変えて
「ところであの白いのはなんだ?暫く目がチカチカしたぞ」
と大きな声で聞いてきた。
他の冒険者達が注目する雰囲気を感じた。
どうやら、アタシに武勇伝でも話させて、士気を回復させようと言う狙いがありそうだ。
聞かれても「ないしょです」と言うつもりだったのに、どうしようかしら。
空気が読めてしまう日本人の性が怨めしい。
諦めてある程度の情報を開示した。
「あれは光魔法ですよ。真っ暗な部屋で、光の魔道具に明かりを灯した時に直接魔道具を見たら、目が眩みませんか?あれを盛大にやっただけです。全部のオークに効いた訳ではなかったので、大騒ぎして注目を集めて、北方向に誘導したあと、飛んで引き離してきたのよ」
と、あまり問題の無い内容で話した。
ダンさんは大きくうなずいて、
「それは凄いな。白い光を放ち、風のように飛び、駆け抜ける。
白い風とはよく名付けたものだ。
この『漆黒の鉄槌』が守ると宣言したのに、守られるとは恐れ入った。
『白い風』が周囲の安全を確認した。これから守備兵に休憩を打診してくる。もう少し我慢していてくれ。『白い風』はもう一度周囲の偵察を頼まれてくれないか」
アタシは「頼まれました」と言って、垂直ジャンプした。
歩きのスピードなら風魔法で浮きながら移動できるから問題無い。
ダンさんは、アタシの武勇伝がイマイチに感じたのか、過剰に誉めて補ったようだ。
周囲には、肉食動物の姿さえない。
ほとんどのゴブリンは引きこもっているのだろうか。東の森近辺でしか見られない。
北を見ると、まばらにオークの姿が見えるが、こちらに向かってこようとしているオークはいない。
足元の討伐隊をみる。
砦兵達は騎士を含めて三十人居たはずだが、オークの野営地襲撃時に五人が亡くなり三名が腕を骨折するなど重傷。
いずれもオークの攻撃を剣で受け止めようとしてしまったからだ。
砦兵達の訓練風景を見て違和感があったのはこの事だったみたいだ。
冒険者逹は、ゴブリンやコボルトの攻撃ならともかく、オークの攻撃を受け止めるような事はしない。
腕力が違いすぎるからだ。
実は砦兵達は、まともにオークと戦った事は無いらしい。今回の遠征を利用して経験させる事が主旨だったようで、積極的に戦わず冒険者逹を全面に出す形をとっていたと言うことらしい。
部隊長さん、戦わない理由があったのね。
何処の世界も管理職はウンヌンと思ってしまってごめんなさい。
上空偵察は、もう暫く続く。




