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初めての会話

翌日、日の出と共に草原に向かい食いちぎられた背負い袋を見つけた。


全部で三つ分しかなく、食べ物の類いは何も残っていなかった。


強いて言えば、塩、胡椒の調味料が残っていたが。


袋は裂けており、中身は踏まれたのか土と混ざりあっているので回収は不可能だった。



もともと服であったであろう血を吸った布切れは残されていたが、不思議なことに、バラバラに引き裂かれていた防具がない。



中身の無い背負い袋を調べると、殆どのポケットは無事で、そこから刻印のあるプレート三枚と銀貨が五枚、銅貨が二十枚、あと砥石と思われるツルツルの石を見つけることが出来た。


その後も念入りに探したが、ナイフ等の武器はまったく見つからなかった。


防具も武器も無いのはおかしいが、コボルトとかゴブリンが持っていったとも考えられる。



背負い袋に貨幣と砥石とプレートを入れ、軽く手を合わせてから森に戻り先に進んだ。



それから二日経った昼過ぎ、森を抜けた先に人工物である壁が見え始めた。


草原を急ぎ歩けば、半日程度でたどり着けそうだ。


この世界で会う始めての知的生命体だ。


日本語は通じそうだし、友好的ならば問題ないけど、異種排他的であったら、逮捕→牢屋→拷問なんてコンボになったら、堪ったものではない。


誰かに会いたいと、はやる気持ちを押さえて慎重に行動しようと考えた。


二日前に会ったパーティも、きっとここから出発したのだろうから、しばらく様子を見ることにしようと、森をゆっくり進む。



何度目かの振動感知をした時に、戦いの振動を感知した。


草原側の森の切れ目まで移動し、様子を伺う。



かなりの数のゴブリンと鎧を着こんだ人間と思われるパーティが戦っている。


オーク達と戦っていたパーティの時は、夕暮れで顔形がまったく識別出来なかったが、今は昼過ぎ見間違える事はない。



お約束通りだが、北欧系の彫りの深い顔立ちをした剣士五人が魔術師二人を守るように配置して、ゴブリンを近寄らせないように奮闘中だ。


魔術師も時折、火の玉を打ち出し、ゴブリンを焼いていく。


戦術・技量共に人間達の方が優勢であるので、倒れるのはゴブリンだけであるが数が多い。


勢いに押されるように、徐々に後退しながらも戦線を維持している。



救援に飛び込むべきか、他人(ひと)の狩りを邪魔しないように、引っ込むべきか悩んでいた。


オークとは違い、ゴブリンはさほど強くない。


気持ちは、救援に行きたいと思っているが、集団とは戦ったことがない為、戦いの素人が、のこのこ現れても邪魔にしかならないとも思っているので動けずにいたのだが、ここで状況が変わった。



一人の剣士がゴブリンの攻撃を受けそこなって、剣を落としてしまった。


その剣士は、右腕を押さえながら後退し、残り四人が配置を変えてゴブリンの猛攻を抑えに掛かるが、明らかに倒すペースが落ちた。


ゴブリンの攻撃を受けることも多くなり、かなりやばそうだ。


そんな状況を見て、救援に向かうと決心し、身を潜めていた森から飛び出し、大声で叫びながらゴブリンの集団に突撃した。


突然現れて叫ぶアタシに両者共に一瞬硬直していたが、先に復活した剣士達が、まだ理解が追い付いていないゴブリン達に攻撃をしかけた。


アタシは、ゴブリンの集団の後方を全力でホウキを振りまわしながら駆け抜けた。



穂先に触れたゴブリン達は何が起きたか分からないように立ち尽くしていたが、真紀が立ち止まり振り返った瞬間にバラバラになった。



突然現れた真紀に仲間がバラバラにされて、更に混乱して動きを止めているさなか、再び突撃した。


二回の突撃で倒したゴブリンは七頭程だが、何かが駆け抜けるとバラバラにされると言う状況を恐れたのか、後方にいたゴブリンから次々に逃げ出していった。


前方にいたゴブリンは、気付かずに戦っていたようだが、数のプレッシャーが無くなった剣士と魔術師達が奮闘し、撃退することが出来た。



戦闘終了後、真紀は狩りに横槍を入れてしまったことを謝り立ち去った方が良いかと、身の振り方を悩み、立ち尽くしていたが、相手から声がかかった。


「危ないところでした、援護ありがとう」


と言いながら手を振っている。


文字だけではなく、言葉も日本語だったことに安堵しつつ


「いえいえ、困った時にはお互い様ですから」


と、言いながら真紀も手を振り返す。


独り言以外に言葉を発するのは久し振りすぎて、感動のあまり涙が出てきた。



この世界にきて初めての会話は『いえいえ』であった。




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