不思議生物
猿達から食べられる物の知識を盗みとった日から四日目に、周囲を囲う山の裾にたどり着いた。
ここまでたどり着く間に、ゾウやら鹿やら虎やら牛やら馬やらワニやら蛇やら、色々な生き物を見かけた。
その中で、訳の解らない生き物も見た。
スライムである。
ファンタジー生物の中でも、知名度は一番かもしれない。
スライムと聞いて、アメーバ状の、不定形生物を想像してしまうかもしれないが。
この世界のスライムは、水まんじゅうみたいな形であった。
初めて見つけた時は、半透明のグミが落ちているとしか思えなかった。
しかし良く見ると体表を波立たせて、ゆっくり移動する事がわかった。
周囲に数体いたのだが、みんな同じ方向に移動している。
移動方向を目で追うと、どうやらイノシシの死骸がある。
すでに何体か取り付いて、食べているようだ。
皮や肉はもちろん骨も、強力な消化液で溶かしている。
スライムは、この森の掃除屋のようである。
水まんじゅうとかグミとか言ったが、サイズは十五センチ程はあるので、注意を怠らなければ踏んづけてしまうことはないと考えられるが、どれだけ危ない生き物なのかわからないので実験してみた。
小枝を拾って投げつけた。
当たったけど無視された。
石を投げた、やっぱり無視。
潰す積もりで石を投げた、一瞬潰れたけど、すぐに戻った上、やっぱり無視された。
二メートル近い木の枝で刺したら貫通して、地面に刺さった。
だが縫い付けられることもなく、木の枝なんかなかったかのように、移動していった。
次に木の枝の先に薫製肉を付けて刺したら、さすがに反応した。
反応したが、消化液を出し始めるまで一分。
かなり鈍いようだ。
最後に、お約束の効果があるかどうか確かめた。
殆どのファンタジー小説では定番の処理方法。
先程の枝の先に、おしりから出した糸を大量に巻き付けて、そこに火をつけた。
糸はすぐに燃えつきてしまうので、素早くスライムに押し付けた。
結果から言おう。
一瞬で白い塊になった。
訳が解らない、本当に生き物なのか?
火が消えた枝でつついたら、粉々になった。
試しに竹で作った水筒から水をかけたが、やっぱり戻らない。
身を守る手段かと思ったが、ただ単に物凄く火に弱い生き物のようだ。
実験結果から、物理的な攻撃には非常に強いが、火に弱くて、移動は遅いし飛んだり跳ねたりもしない。
でも無害とみせかけて、消化液は骨をも溶かすほど強力だから、油断は出来ないね。
その後、一メートルくらいのスライムを見掛けたので、同じように火を押し付けたら、一瞬で白い塊になった。
しかし塊の大きさは、変わらなかった。
やっぱり訳の解らない生き物である。
ここまで変な生き物は、元の世界でも聞いたことがない。
白い塊を、ビンに詰めてしっかり栓をして、背負い袋にしまった。
そんな不思議生き物の生息域を抜けて、今は山登り中。
岩山ほどではないが、そこそこの急斜面を登っていった。
しだいに開ける視界、思っていたよりも高く五百メートル程もあった。
真紀は、頂上にたどり着き、新しい世界を見渡した。




