ノー アイデア
巨大爬虫類を見たと日と言うべきか、真紀にとっては焼き芋を初めて食べた日と言うべきか、印象度では焼き芋に軍配があがる日から数日後。
朝から雨が降っていた。
この世界に来てから、初めての雨だ。
洞窟の入り口で、たたずむ真紀は空を見上げていた。
「雨くらい降るよね」
降り続く雨を見ながら、日課が出来ないかわりに何をしようか考えていた。
ふと洞窟の奥を見て、やることが見つかった。
今日は、洞窟探検をしてみよう。
長い間、ここに居るが、調査は後回しと決めてから、まったく足を踏み入れて居なかったからである。
ちなみに、真紀は、ある程度までなら夜目が効く。
この世界で目覚めた時に、周囲の状況がわかったのは、そのおかげである。
でも、はっきりくっきり見える訳ではないので、明かりを持っていくことにした。
それは、毎日のように森に入っていた時に見つけた、竹のような植物。
竹は油分を含む植物なので、火をつけると中々消えない。
しかも一気に燃え上がる訳ではなく、静かに燃え続けるので、夜目と合わせて真紀にはタイマツの代用になった。
そんなタイマツを背中に四本背負って、左手に火をつけたタイマツ、右手は杖の代わりにもなるホウキを持って探検を始めた。
探検の時間は、タイマツ二本分。
行きと帰りで四本。
一本は予備である。
天井には穴が何ヵ所もあるが、特に横道もなく小川に沿って歩き続けた。
小川の至近なので、振動感知が殆ど役に立たない為、周囲と足元と天井の穴と、あちこち視線を巡らせながら注意深く進む。
歩いても歩いても、生き物は小さな虫、植物は苔のような物しかいない。
そんな状況に変化が訪れたのは、二本目に火を移し、半分くらい燃えた時であった。
そこにあったのは、白骨化した人間と思われるもの。
それを見た瞬間、ファンタジー生物のスケルトンの登場かと思い、身構えてしまったがピクリとも動かない。
念のため、ホウキで突っつき、タイマツを近づけて、それでも動かない。
そこで緊張を解いた。
白骨は壁のへこみに、仰向けになって倒れていた。
身体の下に敷いてあるのはマントだった物のようだ。
着ていたであろう衣服はボロボロで土に還りかけているが、身に付けている貴金属の類いはタイマツの光に反射して鈍く光っている。
指輪は4つあり、腕輪は一つ、首飾りは一つ、それぞれに宝石のような物がついていた。
傍らには、錆びきった元は剣のような物。
持ち上げたら、残念ながらボロボロと崩れてしまった。
へこみの奥を見ようとしたが、タイマツが限界だ。
ここで三本目のタイマツに火を移し、改めて奥をを照らしてみた。
そこには、金属製と思われる箱が置かれていた。
真紀の頭の中では、墓荒らしとか、ドロボウとか悪いイメージの言葉が渦巻いていたが、この世界の情報を少しでも得たいからだと自分に言い訳し、箱と貴金属を拾い上げた。
この世界には貴金属を加工でき、武器も作れる文明があることがわかった真紀は、心の底から安堵した。
この世界には、人っぽい生き物が居るってことは、アタシは本当の意味で一人ではないってことなのね。
喜び叫びたい衝動を抑えながら、来た道を引き返した。
貴金属は、包帯でくるんで網袋に入れ、箱は、これまた包帯で巻いてから背負ったので、来るときと同じスタイル。
左手にタイマツ、右手にホウキ。
慎重に歩みを進め、最後のタイマツが燃えつきる前に、洞窟の入り口に、たどり着くことが出来た。
背負っていた箱を下ろし、開けようとしたが、鍵が掛かっているようで開かない。
そう言えばと思い。
首飾りを取り出すと、やっぱり鍵っぽい形状をしていた。
首飾りを鍵穴に差し込み、捻ってみた。
遺体の状態から、年数が経っているので、簡単には開かないだろうと考えていたが、何故か殆ど抵抗を感じずに捻ることが出来た。
その事に疑問を感じながらも、箱の中が気になって仕方がない。
帰りの道中でも、背中越しにガサガサと音を立てていたので空では無い事は確実だ。
期待に胸を膨らませて、箱を開けた。
そこには、貨幣と思われる物が数十枚。
鳥の羽根らしきものが、二本。
乾いてしまっていたが、元はインク壺だったと思われる物が一つ。
本が二冊、空のビンが四つ、何か刻印が入っている金属製の小さい板が一つ入っていた。
どれもこれも、殆ど劣化は見られず。
まるで箱の中だけが、時に忘れられていたようだ。
数ある品々の中で、真紀は真っ先に、本を手にし表紙をみて驚いた。
英語文字だ。
でも、綴りは良く判らない。
本を開き、書いてある文字を見てみる。
パラパラと捲る、どのページも英語文字だ。
もう一冊も、筆跡は違うが、同じように英語文字が書かれていて、途中から白紙になっていた。
再び最初の本の表紙を見つめる。
『DEN NSETSUN NO EIYOU』
声に出して読んでみる。
「でん んせつん ノー えいよう」
良く判らないが、とにかく栄養が無い本のようだ。
一晩置けば、何か閃くかもしれない。
首飾りは、再び包帯でくるんで、網袋に入れた。
そして本を箱に戻し、蓋をした。
そして、繭玉に包帯で縛り付けて、眠りについた。
そう言えば、英語で判らないとか知らない時って、
No ideaって言うんだっけ?
そんな事を思ってしまった真紀の頭の中では、
ノーアイデアとノー栄養が、眠りに落ちるその瞬間までワルツを踊っていたとのことでした。




