ハダカはつらいよ
おしりから糸が出たことにより、パニックになっていたけど。
じたばたしていても、何も起こらないこの状況に、少しずつ冷静になってきた。
あんなに大声で叫んでしまったのに、誘拐犯と思われる存在の気配もない。
普通なら様子を見に来るよね?
それとも、誘拐して、服を脱がして、ここに放置して、誘拐犯は立ち去った?
なんのために?
放置しているってことは、アタシ自身には関係ない。
身代金目的?
自分で言うのもなんだけど、毎月ピンチな貧乏女子だし、
両親はアタシが成人する前に交通事故で無くなっているから遺産なんて今更だし。
兄弟姉妹も恋人もいない。
完全無欠な天涯孤独アラフォー女子を誘拐したところで、身代金を一円たりとも払ってくれる人などいない!
って、ちょっと寂しくなってしまったけど、
身代金目的でもない。
そうすると、この状況で考えられるのは、
いや、やっぱりありえない。
でも、状況からコレ以外に考えられるない。
でも、信じたくない。
信じたくないけど、このおしりからでた糸が物語っているのよね。
一時期、ネットでハマって、色んなサイトを漁ったもの。
そう言えば、幼い頃テレビを見ていたアタシはあまりの事に怖くなって、母親に聞いたものよね。
そしたら、母親もこれはフィクションだから真紀には、絶対に起こらないから、
怖がらなくていいのよって言ってくれていたのよね。
当時はフィクションだったけど、あれから三十年以上経っているのだから
実現していてもおかしくないのよね。
しかもアタシは、きっと失敗作。
成功したならこんなところで放置されるはずないもの。
テレビでも似たような話があったもの。
主人公どころか、ちょっと鍛えた人にさえ負けてしまう程の力しかなく、
失敗作の烙印を押され山に捨てられて、一般人に紛れ込もうとしたけど、
つい奮った力を指摘され化け物扱いにされて追い出されて。
人を助けたことはあっても、襲ったことはないのに、勝手に人の敵と決めつけ、
話を聞いて駆けつけた主人公にも追いかけられて
何を言っても信じてもらえず、絶望の果てに、主人公に倒されてしまうんだ。
そして後日、化け物に助けてもらったことがある人達が現れ、なんであんな良い化け物を倒す必要があるんだと主人公を責めて、
主人公の精神成長の切っ掛けになったんだ。
たしか、それから主人公は、弱きを助け、強きをくじく、真の正義のヒーローとなっていったのだよね。
そう、きっと。今のアタシは、
狂気の科学者によって改造された
(失敗)怪人 蜘蛛女 なんだ。
うん、間違いない、これが一番しっくり来るもの。
こうなってしまったことは、仕方ない、仕方ないと思おう。
けど、ムカつく!
「人体改造なんて、特撮の中だけでやってくれ!」
またまた、叫んでしまった。
興奮を抑え、自分の置かれている状況をかえりみる。
失敗怪人として捨てられたのなら、
今は、ここには誰も居ないはず。
誰にも見られる心配がなければ、ハダカでも問題はないのだが。
やっぱり踏み出せない。
隠すものが欲しい。
でも、ここには石ころと糸しかない。
そうだ糸!
たくさん糸を出して編めば、服が作れるかもしれない。
よし、思ったら吉日。
早速、糸を出すぞ。
糸、糸、糸、でも、こんな細い糸だと、編むのがたいへんだなぁ。
出来れば、太い糸、いや、太くても編み棒が無いから、やっぱりたいへんだよね。
糸の拡大解釈だ、
「幅広の糸よ出ろ!」
おしりがムズムズした瞬間、コンビニとかスーパーにあるレジから打ち出されてくるレシートの様に出てきた。
幅は五センチ、長さは十五メートル程。
全身を覆うには足りないが、最低限の部分を隠すには十分な長さだ。
十五メートルもあって苦労はしたが、なんとか巻き終えることが出来た。
生地は包帯(糸)でも、その見た目は、スクール水着。
でもこれで、ハダカ女から、包帯スクール水着女に
クラスチェンジすることができたのであった。