決意、そして最強とは
繭玉の中で目覚めた真紀は、蜘蛛君から聞いた話を反芻していた。
要は、アタシがアタシと思っているのは記憶だけで、
魂は蜘蛛君、身体の作りは、アタシを基準に蜘蛛君が融合されて、
材料は艶やかな黒い岩肌に含まれる何かから出来ているってことね。
どうりで、作り立てほやほや、近所の子供のように、
シミ、シワ一つない、もっちり肌に、なっていると思った。
アタシがアタシと表現出来る記憶は、
蜘蛛君いわく。
混ざっているらしいから、純粋なアタシは、この世界には一切ないのね。
ふぅ、それにしても
元の世界のアタシは、
アタシが、こんなことになっているだなんて知らないのだろうな。
友達も、近所の人も、会社の人も、誰も……
自分がここに居ることを、誰も知らないだなんて、
なんて寂しいことなんだろう。
蜘蛛君は、アタシに存在を印象付けることによって、
孤独と言う寂しさから解放されていたんだ。
うらやましい奴め。
そうだ、アタシも寂しさから抜け出してやる。
蜘蛛君は、自由にすればいいと、言っていたし。
よし、決めた。
この地に居るかわからないけど、
必ず誰かに会って、アタシと言う存在を印象付けてやる。
生きた証って奴ね。
出会う生き物は、出来れば、人間っぽいといいな。
よし、そうと決めれば、長旅にでる準備をしなければ。
今のアタシは、何が出来るのだろう。
出来ないものはなんだろう。
でも、出来ないだなんて言って逃げるわけにはいかない。
だって、もしかしたら、ゴール(知的生命体)がないかもしれないのだから。
そう考え、繭玉から抜け出した。
まずは体力測定だね。
新しい身体が、どれだけ力を出せるか知っておかないとね。
でも、基準がわからないことが多いから、なんとなくとしか分からなそうだけど。
更に、この世界の標準がわからないから、強いのか弱いのか分からないのが怖いね。
例えば、アタシがあの大きな岩を砕くことが出来たとして、アタシは凄いと思うけど、この世界では誰でも出来ることなら、自信を持っては、いけないってことね。
まぁ、考えても仕方がないことだね。
まずは、お約束のラジオ体操から。
そして柔軟……おっ、柔らかい。
これなら……Y字バランス成功!更にI字バランスも楽々。
エビぞりから、そのままブリッジして、逆立ち。
凄い!体操の選手みたい。
次はジャンプだね。
洞窟の天井は低いから、外に出て。
垂直跳びからやろう。
どうせなら、アタシ最強!とか、凄いことになるといいな。
妄想するなら、最強の自分をイメージしなきゃだよね。
肉体派で最強って言うと、気だっけ?
気を使って、敵をバッタバッタと薙ぎ倒すあの漫画をイメージしよう。
その時、腰につけていた網に入れた黒い岩ころが一つ、
音もなく砂になって網からこぼれていったが、
真紀は気がつかないまま跳んだ。
「いち、にの、さん! ……えぇ?」
全身のバネを効かして、力強く地面を蹴った瞬間、空が近づく。
不思議な感覚、こんなこと経験したことない。
思わず下を見ると。
「ちょ、ちょっ、ちょっオー!」
意味のない、不思議な叫びをしているので、変わりに説明すると、
真紀は木よりも高い場所、高さにして二十メートル程のところで滞空している。
気を使う戦士達をイメージしたならば、高さ不足であるが、
普通に考えれば、恐ろしい程の跳躍力である。
上昇速度も無くなり頂点に達した後は、自由落下、なんとか真紀は着地に成功したが、そのまま尻餅をついた。
驚きから我にかえった真紀は、子供のように喜び、色々と試すのであった。




