アタシの中の
「真紀、真紀、目を覚まして欲しいです」
いつの間にか眠っていたアタシは、聞いたことのあるような、ないような、聞きなれない声に呼び起こされた。
周囲を見渡しても、そこは、霞がかかっているようで、明るくても物がはっきり見えない場所であった。
「真紀、目が覚めたですね」
真紀はキョロキョロと周りを見るが、声はするけど、姿はみえず。
そんな真紀を見て、声の主は、自分を見てもらいたいのか、誘導する。
「真紀の真ん前にいるよ、もっと下、もっと下」
真紀は真ん前をみるが当然なにもいない、誘導する声に合わせて、下をみると。
そこには、小さな虫、いや蜘蛛がいた。
喋る蜘蛛に驚くが、ここは異世界、なんでもありと、考え直した。
「アタシを起こしたのは蜘蛛君かい?」
「真紀が混乱の極みにあったですので、
僕が再び出てこれたです。」
「いいですか、真紀、落ち着いて良く聞くですよ」
真紀は、この蜘蛛は何を言っているんだと、思いながらも真剣な口調で話す姿につられて話を聞いた。
話を聞き終え。
艶やかな黒い岩肌の場所から、洞窟の壁際に移動した理由。
蜘蛛君の魂の記憶と、アタシの記憶とが混ざっている状態であること。
アタシは厳密にはアタシでないらしい。
それはそれでショッキングな話だが
アタシの考えるとおり動ける身体なのだから文句を言うような内容ではない。
問題は、蜘蛛の本能としての記憶であったが。
生まれもった魂の記憶だから、反射的に行動してしまうらしい。
でも、真紀の意思で留められるとのこと。
あの時は、バッタを見た瞬間に美味しそうと思った自分に混乱し。
恥ずかしい体制になったことで、更に混乱し、あのようになってしまった訳である。
一通り話を聞き終えて、安心した真紀は、これからどうしたら良いのか、蜘蛛君に聞いた。
蜘蛛君は、一言。
「自由にすれば良いのです」
なぜなら、蜘蛛君は、すでにアタシの一部であって、今も自問自答しているようなものだと言う。
僕とアタシとは一心同体。
真紀の記憶から、蜘蛛は気持ちの良い生き物ではないと、知っているけど。
頑張って生きていってね。
生き物は生きていくことこそが望み。
そう、語りきった蜘蛛君の様子がおかしい。
「そろそろ時間の様です、真紀の身体が、目覚めるです、
きっと、もう会うことは出来ないと思うです、
でも、真紀に、自分と言う存在があったと伝えられて良かったです。」
「僕は、意味のある生を過ごせて幸せです」
「真紀、さよならです」
何?この急展開と思いながらも
蜘蛛君の感情的で一方的な語りに、口をはさめずにいた真紀であった。




