Voice
耳に馴染む低音のあなたの声。しばらく聞いていない。
あの頃はあんなにも頻繁に聞いていたのにね。
いつの間にか聴こえなくなった心地よいその音を、私は今でも追い求めているの。
できることならもう一度、耳元で私の名前を囁いて。
「リア。」
そう、もう一度私の名前を。
私の通っているキャンパスは家から電車で30分かかる、近いといえば近いし、遠いといえば遠い、微妙な位置にある大学だ。
でも授業の中身に関して言えば、日本の大学の中では上位に入るのではないかというくらい満足なものだった。
NYから帰国後、英文科に所属した私。
日本人の友達もちゃんとできた。ただ、英文科に所属しているので、必然的に外人の友達も多いわけで。
今日はたまたまスウェーデンと中国からの留学生の友達と3人でキャンパス内を歩いていた。
“リア。”
突然聞こえてきた絶対にありえない声に、私はふと足を止めた。
ぼうっとして歩いていたから、ということもあってか、あの愛しい大きな黒猫の声が聞こえたような気がしたのだ。
How did you do?
隣で首をかしげる二人を見て、私は何も無かったかのようにしてIt is nothing.と答えた。
まさか幻聴が聞こえるとは、相当重症だと自分に小さくため息をついた。
「リア。」
二度目に聞こえた小さな声に、私は一瞬ドキっとして思わず周りを見渡した。
私が聞き間違えるはずなんて無い。
毎日聞いている、聞きやすい柔らかな愛しい声。
すると2回の渡り廊下の窓から見覚えのある黒い髪の男がこちらに小さく手を上げた。
なんで?
私はぽかんと口を開けたまま閉めることを忘れ、ただ棒のようにその場に立ち尽くした。
まさか、絶対いるはず無いのに、と。
でも自分の口を指差してにこりと微笑んだ彼に、ふと我に返る。
「Your boyfriend?」
声を合わせて私に問いかける両隣にたつ友人。
私は2人に満面の笑みを浮かべ、言った。
「Yes. He is a person of the only that I sincerely love.」
Making of me hearing your voice