Kiss
後悔はしていない。
あの時間は私にとって大切で。
無くてはならない時間だった。
だから、この関係が間違いだったなんて。
私は絶対、思わない。
日本に来て早一ヶ月、だいぶこっちの生活にも慣れた。
日本での大学生活も、一人暮らしの生活も、はじめは慣れないことばかりで大変だったけれど、なんとか形になったものだと思う。
「リア、準備は?」
ここ最近、彼は私に付き合っていろんなところを案内してくれている。
彼のおかげでやっと一人で地下鉄に乗れるようになったところだ。
「今、最終チェック終わったところよ。」
私は全身鏡の前に立ち、部屋のドアから顔を覗かせる彼を鏡越しに見た。
私よりもはるかに大きい背丈に、黒い髪。
私は鏡に映る彼にそっと触れた。
「似てないよね、私たち。」
そっとつぶやくと、彼は一瞬目を丸くしてうつむく。
そのあとに続く沈黙、私はずっと鏡の中の彼を見つめていた。
「似てなくて、よかったと思ってる。」
ゆっくりと顔を上げた彼は表情がいつもより硬かった。
私は彼に捕らえられた視線に小さく息を呑む。
「神様に感謝、かな?」
首を傾げて微笑む彼に、私はひどく安心した。
ゆっくりとこちらに近づいてくる彼。
心臓の音がやけに大きく聞こえてなんだか少し恥ずかしく思った。
「神様、信じてるの?」
真後ろまで来た彼に、首だけで振り返る。
するとひんやりとした長い指が、私の頬を捉えた。
近距離で彼と目が合う。
頭の中が真っ白になるのがわかった。
「信じてない。」
耳元で聞こえた聞きやすい低温の声。私はぎゅっと目を瞑った。
短い夢への招待状。
そして私たちは、
始まりのキスをした。
Kiss with sweet start with you.