Evidence
私があの時欲しがったもの。
それはあなたに愛されたという証。
まるでこんな未来が訪れることを、はじめから知っていたかのように。
私はあなたを欲しがった。
思い出なんかじゃなく、形に残るものとしての証を。
鏡に映るのは口元が少しだけ引きつって見える私。
手に握っている小さな機械は数時間前に勇気を振り絞ってお店で購入したものだった。
ピアス、ファッションの一部として流行したものだが、痛さを恐れて手をつけたことが無かった。
でも街や学校で見かける子の耳についているピアスを見ると、とても羨ましく思ったのだ。
そして今日、ついに決意してこの状況。
私は自分に小さくため息をついた。
「開けてやろうか?」
シキ、いつから見られていたのだろう。
部屋のドアのところにもたれかかりこっちを見つめている猫の姿。私はうつむいて小さく縦に首を振った。
少しひりひりする右耳に手を当て、鏡をのぞく。
そこにはしっかりと通ったトパーズのピアスがあった。
念願のピアス、私は鏡越しに彼へ微笑んだ。
彼は小さく微笑んでもう一つのピアスに手をかけて動きを止めた。
すこし考えた様子でそれを見続ける彼に、私はどうしたの、と小さく声をかける。
「もう一つのさ、俺にちょうだい?」
何を言っているのだろうと、私は彼の言葉が理解できずに瞳を見続けた。
するとおもしろいイタズラを考えついた子供のように、彼は満面の笑みで私にそれを握らせた。
「ここ、開けて。」
彼が指すのは彼の左の耳たぶ。
私は何度か彼の耳と自分の手の中のモノとを見比べてから大きな声をだした。
早く、と急かされるように私はそれを彼の耳に当て、目をつぶって一気に手を握った。
先ほど聞いた大きな音を立てて耳から外れる機械。
そこには私と同じ、トパーズのピアスがきらきらと光っていた。
「俺がリアのものだっていう証だから。」
そうつぶやいて部屋を出て行った大きな背中を、私は唖然と見送った。
俺がお前のもの、彼の最後の言葉が頭の中で反芻している。
「じゃあ、私もあなたのものね。」
そう言って私はそっと右のピアスを指でやさしく触れた。
It is proof that remains in the ear loved by you.