Prisoner
目を閉じれば思い出すの。
私を見つめるあの優しい瞳を。
目が合うとそらすことができなくて。
あなたに見られると上手に嘘をつくことさえできなかった。
あの瞳から私たちのすべてが始まった。
あの瞳から私はあなたの、虜になった。
NY発、日本行きの飛行に乗り込んだのはついさっき。
私はしばらく窓から無限に広がる青と、太陽に照らされてきらきらと輝く白を目で追っていた。
日本に行くのは何年ぶりだろうか。
幼い頃両親が離婚し、私は父の元で育てられた。きっと4才くらいの頃からあっちで暮らしていたことになる。
ふと隣の席を見ると、ふんわりとした小さな白人のおばあさんが座っていた。
おばあさんはこの便が離陸してからずっと手元の手帳のようなものを見入っている。もうかれこれ1時間以上だろうか。
私は思い出したように手元の黒いバックの中から一枚の封筒を取り出す。
出発前に父が私に渡した物だった。
無言で手渡す父の顔は少しさびしそうで、私は頬に別れのキスをして飛行機に乗り込んだのだ。
そっと中身を取り出す。
それは一枚の写真と急いで書かれたと思われるメモだった。
“シキ、アサミ”
無事日本に到着した私は大きな荷物を抱えて空港内に足を踏み入れた。
忙しく歩き回るスーツを着た人、ヒト、ひと。私はたくさんの人に押されながらも何とかゲートをくぐって広いロビーへとたどり着いた。
たしか母が迎えに来てくれるはず。
私はポケットの中の携帯電話を握り締めた。
15年ぶりの親子の再会。正直私は母とどう接したらいのか、わからない。
名前も声も、顔ですら覚えていない私は、急に母だといわれても違和感を感じてしまうだろう。
どうしよう、緊張してきた。
すると握り締めていた携帯電話が手の中で震え始めた。きっと母からだ。
勇気を出して通話ボタンを押す。
「リア、さん?」
耳元に持ってきた携帯、しかし奥から聞こえる声は意外なことに男の人の声だった。
「誰、ですか?」
私の名前を呼んだのだから間違い電話ではなさそうだ。
聞き覚えの無いこの男の人の声に、私は小さく首をかしげた。
そのとき、私の前を横切っていたたくさんの人たちの群れがちょうど途切れた。
すると私の数メートル先に携帯電話で電話をかけている、私と同じ年くらいの男の人が見える。
まっすぐこちらを見つめる彼は見たことも無い知らない人。
でも私は、その男の人と繋がった視線をそらすことができずに、ただその場に立ち尽くしていた。近づいてくる男性、その視線はずっとはずされないままだった。
「見つけた。」
私の正面に立った彼は電話越しにそうつぶやいた。
I cannot run away by being captured to your eyes.