Perfume
私の鼻をくすぐる甘い香り。
まるで花の香りに誘われる蜂になってしまったみたいだった。
この香りを見つけると今でも周りを見渡してしまうの。
馬鹿みたいでしょう?
もうこの香りに触れることはないってわかっているのにね。
商ケースに並んださまざまな種類の香水。可愛いものから、大人っぽいものまで、人を魅了するためにデザインされたそれは、私の心をも掴んで離さない。
「コレと、コレ、どっちの香りがいいかな。」
両手首につけた少量の香りたちは、自分の存在をアピールするかのように香りを放っている。
隣に立つ大きな猫は少しだけ眉を寄せ、私の手を引っ張った。
「どっちもだめ。」
一言だけそう言った彼はそのまま私の手をとって歩き出す。
私は遠ざかっていくキラキラを見えなくなるまで何度も振り返った。
ウチの猫は本当に気まぐれだ。
さっきまで不機嫌だと思っていたのに、いつの間にか私の後ろから肩越しに腕を回してきているのだから。
シキ、小さく名前を呼んだあと、ふわりと香る心地よい香りに私はふと後ろを振り返った。
「シキは何の香水使ってるの?」
大きな猫は私の唐突な質問に一瞬目を丸くして、それから何事も無かったように微笑んだ。それがまるで私には内緒だと言われたみたいで少し悔しかった。
「リアはそのままの香りでいいよ。」
そう言って私の肩に顔を埋めた猫。
首にかかるふわふわした黒髪がくすぐったくて、彼の名前を呼んだ。
「世界中でたった一つの香りなんだから。」
耳元で聞こえる囁き。
そして私はゆっくりと手首を顔に近づけた。
先ほどつけた香水はだいぶ匂いが薄れていて、最初につけたときの存在感はもうなくなっていた。
私はそれだけで、なんだか、ほっとした気分になった。
“これからは香水に心が惹かれないようにしないと。”
心の中でそう小さく誓ったことは、後ろから大きな手で私の髪を弄んでいる大きな猫には、絶対秘密だ。
Your smell is a philter.




