Dearest
この鏡に映っているのは一体誰だろう。
私はひとり大きな鏡の前に座っていた。
先ほど最後の手直しが終わり、父や母が横のドアから出て行ったところだった。
未だ信じられないこの状況になんだか実感がわかない。
もう一人の主役さえいてくれれば、少しは冷静にいられたかもしれない。
真っ白いドレスに、今まで一度も着けたことの無いような綺麗な色のルージュ。
口元に手を持っていくと、かすかに指が震えているのがわかった。
とにかく落ち着こう。
私は今日の段取りを一通り確認するため脇においてあった冊子を手に取ろうとした。するとそのとき、横の扉が小さな音を立て、静かに開いた。
「清雅!」
ぱっと振り向いて本日のもう一人の主役の名を呼ぶ。
そして私は一瞬にして自分が絶対にしてはならない間違いを犯したことに、気がついた。
シキ。
そう小さくつぶやいた私の声は、この広い部屋の静寂に吸い込まれるようにして消えていった。
彼は前と変わらない様子で、いや、今まで見たことの無いような色の瞳で、私を見て、そして私の名前を呼んだ。
リア。
胸が締め付けられたような感覚。
のどの奥が痛み出し、私の頭に警報を鳴らす。
「久しぶりだね。」
ゆっくりとつむいだ私の言葉。
本当はこんなことを言いたいんじゃない。
でも口から出てくる音はなんともありふれたものだった。
「あぁ。」
そう言った彼の声に私はひどく安堵した。
あの頃と変わらない、低音の聞きやすい声。
それからしばらく沈黙が続いた。部屋の中にある静寂、聞こえるのは私の心音だけ。
「今日はさ、」
最初に沈黙を破ったのはやはりシキのほうだった。
わたしは伏せ目がちだった瞳をゆっくりとシキのほうへ向けた。
最後の覚悟はもうできている。
「最後に一言だけ言いたくて。」
一歩一歩私に近づいてくるシキ。
絡み合った視線をはずすことはできなくて、真正面まできた彼を見上げるようにして席から立った。
「俺リアのこと、心から、愛してた。」
心臓が押し潰されそうな感覚に、私は自分の手を握り締める。
彼の瞳は依然として私を捉えて離さない。
「もう、縛られなくていいから。自由になって、いいから。」
シキの大きな手が私の頬を優しくなでる。
暖かい、そして懐かしい香りに酔ってしまいそうだ。
「結婚おめでとう。 姉さん。」
幸せになって。
耳元で小さくつぶやかれた声に、どうしていいのかわからず私は小さくうなずいた。
そして喉の痛みを堪えながら言葉をつむぐ。
「ありがとう。」
そして今、愛しい、愛しい、最愛の弟の手によって、
私の目の前に真っ白いベールが、落とされた。
I also sincerely loved you.




