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いつかは二人で幸せを手に入れる。
そんなこと考えて今までやってきたけれど。
現実は思うより残酷で。
二人で生きてきた分だけ、罪は重くなる。
だからどうか、今だけでも。
今だけでいいから。
「リアは恋人とかいないの?」
口に運んだカプチーノのカップが一瞬動きを止める。
目の前には、楽しそうに微笑んでいる細身の女性と、その横で平然とコーヒーを飲む大きな猫。
カフェの窓際で私は一瞬迷って結露した窓に目を向ける。
「…いないよ。」
少しばかり温くなったカプチーノを一口ふくんだ。
いつもは好んで飲んでいるはずなのに、なんだかおいしくないように感じるのは気のせいだろうか。
「そうなの。じゃあもし恋人ができたら紹介してね。お母さん、楽しみにしてるから。」
わかった、そうつぶやく私の声はちゃんとしていただろうか。
斜めに座った大きな猫はこちらを全く見ることなく携帯電話をいじっている。
あなたには絶対いえない。
私が恋しているのはあなたの息子で、私の弟だなんて。
薄暗い帰り道、綺麗な月が私たちを見下ろしている。
都心ではめったに見ることのできない綺麗な空が広がっていた。
「シキ、恋人っていたことある?」
突然の私の質問に、隣に立つ大きな猫は大きな溜息をつく。
やはり、先ほどの母とのやり取りが気に入らなかったようだ。
「…ここにいるけど。」
そうじゃなくて、以前によ。
眉間にシワを寄せた猫はふと歩く足を止め、こちらに向き合うようにして立つ。
「いないよ。俺の隣には、最初からリアしかいない。」
繋いだ右手に力が込められた。
真っ直ぐ私に向けられた瞳に目を逸らすことができない。
そうだ、そうだった。
空しく頭の中で繰り返される言葉に、今まで気づかないフリをしていただけなのだと、今気づいた。
最初から何も無かった。
私たちの間には真っ赤な繋がりが、一つあるだけだ。
私は握られる手に力をこめる。
それが合図だったかのようにどちらからともなくまた前へ歩き始める。
私は。
私の選択肢はそれほど多くはない。
そっと上を見た。
夜空に輝く金色の月。かすむような眩さに私はそっと目を細めた。
この関係に、審判を下すのは誰だろう。
神か、人か、それとも。
手を伸ばせば届くだろうか。
この月に。
そして今、私はそっと手を伸ばす。
I quietly reach the moon.




