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The story of “R”―怠惰天使の日常―  作者: ちりめんじゃこ
―4―
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◆…◆…◆…◆…◆




「……ス……い……ラース?」


 目を開けると、清が俺を覗き込んでいた。その薄茶色の髪が柑子色(こうじいろ)の陽にあたって照り映えている。

 どうやらいつの間にか寝入っていたらしい。


「ああ……ごめん、寝てた」


 まだくっつきたがる瞼を擦りながら体を起こす。

 雲はまだ少しあるものの晴れていて、すでに日は傾きかけていた。


「どうしたんだ?」


「暇だったから遊びに来た。言い付け守ったよ。褒めてつかわせ」


 フッと笑って、偉そうにすんなというツッコミを待った。


「言いたくないならいいけど……何でそんなに落ち込んでるんだ?」


 清は、鋭かった。


「……気になる?」


 なんだか真面目に向き合うのが気恥ずかしくて冗談めかしてそう言うと、清は何も言わずにただ真剣な眼差しを返してきた。

 その瞳からは、からかってやろうとか興味本位とかそういうものは感じられない。


 この男になら言っても良いだろうか。


 清は俺と向かい合って座り、俺が口を開くのを待っているようだった。

 俺は一度窺うように清を見てから今までに何があったかを話した。


 アズに悪魔と天使は仲良くなれないと言われたこと、試してみようとアズに触って怪我したこと、それできっとアズを傷つけたこと、ウィノに教わったこと、天界に居辛くてここへ来たこと。


 端折れるところは端折りながら、順番に話していく。清は最後まで黙って話を聞いて、それから二つ三つ、理解しきれなかったことを質問してきた。俺はそれにできるだけ分かりやすく答えた。

 清は茶化したりせずに聞いてくれた。それだけで少し気が楽になる。


「そっか……」


 そして清はおもむろに口を開いた。


「それ、ついさっきのことだよな?」


 俺はうん、と声に出しながら頷く。


「そうだな……、とにかく、会うのを怖がったら駄目だよ」


「え?」


「多分、次に会うときはすごく怖いと思う。だけどそこで逃げたらその次はもっと怖くなるから。アズから逃げ続けたくなんかないだろ?」


 それはその通りだ。

 分かってる。

 分かってるけど、次に会って拒絶されたら。また傷つけたら?


 目を伏せて、アズを思い浮べる。そうして浮かんだ顔は、泣きそうになるのを堪えてサファを睨むものだった。

 ああ、そうだ。泣き顔を見るのは嫌だな。


「でも、どんな顔して会えば良いのか分かんない」


 俺は今、多分自分史上最大に行き詰まってるから、「でも」や「だって」が先立ってどうしようもない。


 瞼の向こう側で、清のやわらかな栗色の双眸がふわりと細まった気がした。


「それはアズも同じ気持ちだと思うよ」


「……そうかな」


 言葉の代わりに清の手が俺の頭を優しく撫でた。

 子供扱いされてるような気もするけど、今はそれでも心地好い。

 顔を上げると目が合って、髪を撫でながら清は言った。


「それに、ラースが逃げたらアズはもっと傷つくだろ?」


「……そうかも」


 確かにここで俺がアズを避けたら、アズはもっと自分を責めるかもしれない。そんなのはダメだ。

 聖布に包まれた傷がちりちりと痛んだ。


「……けど、さすがに今すぐは会えない。こんなだし」


 自分が情けなくて。


 それを聞いた清は片方の眉尻を下げ、困ったように笑った。


「それはそうだろ。……今すぐなんて言わないよ。ラースが会いたくなったらでいいんじゃないか?」


「それで大丈夫かな」


「大丈夫」


 自分でもちょっとびっくりするくらい不安げな声が出たが、清がそれをかき消すように優しく、力強く言ってくれたおかげで、俺もやっと笑顔を浮かべることが出来た。まあ、ウィノに言わせたら普段とそんなに変わらない顔なんだろうけど。


 沈みかけの夕陽が雲の隙間から見えた。

 鮮やかなオレンジ色が辺りを覆うなか、頭上をツバメが二羽飛んでいった。高い位置だから、きっと明日は晴れるだろう。


 次にアズに会ったら、まず何て声をかけようか。

 やっぱりいつも通り行くべきかな。

 それとも。


 そんなことをぼんやり考えていたら、いつの間にか陽は沈んでいた。 



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