僕のはなしを、きいてくれる? episode004
最近、ちょっと気になることがある。
ジーパンで一番最初に穴が空く箇所が、
以前までは膝かケツポケットの辺りだったのに、
最近は、内股の辺りになったことだ。
これが俗に言う「中年太り」と言う奴だろうか?
んにゃ!僕はまだ中年ではない!・・・・ハズ。
とにかく、またまた股の辺りに穴が空いてきてしまったので、
僕はジーパンを買いに行くことにした。
本当は、ちょっと高いブランド物のジーパンが欲しかったのだけど、
すぐに穴があいてしまっては勿体ないと思い、
今回もいつもと同じ、安めの物を買うことにした。
僕は、高田馬場の駅の近くの、
小道を入った所にあるジーンズショップへ向かった。
僕はいつも同じようなジーパンを買う。
少しゆるめのストレートで、紺と青の中間ぐらいの色。
裾上げはベルトを巻いて、ちょうど地面スレスレぐらいのところにしてもらう。
長すぎると、地面に擦ってボロボロになってしまうし、
短すぎると靴下が見えてしまい、ちょっと格好悪い感じがする。
今日もいつものように、いつもと同じようなジーパンを探していると、
不意に声を掛けられた。
「よろしかったら試着してくださいね。」
『ああ・・・店員か・・・。また、いつものかと思った。』
「いつものって?それよりオヂサン!僕の話を聞いてくれる?」
始まった・・・。今日はジーパンが僕の心に話しかけてきた。
『僕は、ジーパンと話したことがないんだけれど、それでもいいかい?』
「もちろんいいよ!僕だって、人間と話すのは初めてだよ。
あとね・・・。」
『ん?何?何か言いづらいこと?』
「僕、ジーパンって呼ばれたの、何年ぶりだろう・・・。」
『え?ジーパンじゃないの?僕はジーパン以外の呼び方、知らないんだけど・・・。
あ!もしかして、ジーンズ?』
「・・・。それも最近少ないなぁ・・・。僕はね、最近デニムって呼ばれてるんだ。」
『デニム?それって生地のこと言うんじゃないの?』
「オヂサン。デニムじゃなくてデニム。『ニ』を上げて発音するんだよ。」
『デニム・・・。そっか・・・。』
「そうだよ!デニムね!覚えてよ!
あとさ、オヂサンはデニムのシルエットってどんなのがあるか知ってる?」
『し・・・シルエットね・・・。それはわかるよ!ストレートにスリムにパンタロンでしょ!
あとは・・・。』
「・・・・。スリムって・・・・。パンタロンって・・・・。」
『え?』
「スキニーとか、ブーツカットって聞いたことない?」
『あ、スキニーね。当然聞いたことあるよ!もしかして・・・。スリムのこと?』
「スリムっていうのがわからないけど、多分そう。
じゃあ、もしかして、ローライズとかもしらない?」
『ローライズ?知ってるよ!あの潜水艦の映画のことでしょ!』
「それは、ローレライね!って一応突っ込んでみた・・・。
ま、いいや。オヂサンはいつものように、半端なシルエットの半端な色の
何の特徴もない『ジーパン』を買いなよ!」
『うっ・・・。何か、感じ悪い。もっと僕に色々教えてよ。お願い。』
「じゃあ、今から店員さんにこうやって言ってごらん。
刺繍入りのバリヒゲのローライズをルーズ目の腰パンで履きたいんだけど、
何かおススメありますか?
って・・・。」
『えっと、刺繍入りの・・・何だっけ?』
「はい。メモって!刺繍、バリヒゲ、ローライズ、腰パン。分かった?」
『うん。心の片隅に小さくメモしたよ!
ジーパ・・・デニムのこと色々教えてくれてありがとう!』
「いいよ!じゃあメモを忘れずにね!」
『刺繍バリヒゲローライズ腰パンだね。』
「お客様、もし良かったらお探ししますけど・・・。」
早速、店員が話しかけてきた。
「ちょっとジ・・・デニム探してるんですけど・・・。」
「どんなものをお探しですか?」
「刺繍でバリゲでローレライをこしあんパンで履きたいんだけど・・・。」
「は・・・はい。刺繍入りでヒゲが多く入ってるローライズをお探しですね?」
「そう!それです!」
「では、こちらはいかがでしょうか?」
店員が出してきたジーパ・・・デニムは、
まるで古着のようなボロボロの刺繍入りデニムだった。
「それって、古着ですか?」
「いえ!こちらはユーズドではありません。新品でヴィンテージ風になっています。」
「そ、そうでしたか。じゃあ、それください。裾上げは・・・。」
「こちら、裾上げは必要ない商品でして、
このままルーズ目に腰で履いていただければ、大丈夫かと思いますけれど・・・。」
そう言いながら、店員が迷惑そうな表情になってきたので、
僕はそのデニムを、そのままレジで清算した。
「ありがとうございました!」店員がそういった後
他の店員にこそこそ声で話したのが聞こえた。
「あの人、チョイ悪オヤジデビューっぽい。」
チョイ悪かぁ・・・・。
ま、僕は見た目が普通っぽいから、ちょっと悪い面もあったほうがいいかもな・・・。
あれ?でもちょい悪ってジローラモみたいな、
胸毛丸見え系スーツじゃなかったっけ?
「僕は、チョイ悪でもなければ、オヤジでもなーーーーい!」
海に向かって叫びたい気分だった・・・。
デニム・・・いや!あのジーパン小僧のせいで、飛んだ恥をかいた。
(って自分の妄想だけど・・・。)
でも、このジーパンは勿体ないから捨てられない。
それに、ゆるめだから、股にも穴が空きづらいかもしれないし・・・。
このジーパンとは長い付き合いになりそうだ・・・・。
つづく・・・。