金融の魔女は恋煩い⁉――ターゲットは資産価値不明のフツメン画家でした
こっちに用意した倉庫に荷物の搬入作業が終わったら、先頭車両でセレモニーの挨拶をし終わったフロストを迎えに行った。
公爵様がくるということで、港湾都市のみなさんが気を利かせて持て成しをしてくれるようやった。
「やあサーシャ。もう書類の手続きは終わったのか?」
「さっき最後の荷物が運ばれてったところや。アンタもセレモニーお疲れさま。あと、安全運転もありがとな」
私はフロストに手を出すようにいって、彼が差し出した手にハイタッチした。
ほんま中々快適な列車旅やったわ。景色がそんな見れへんかったのが勿体ないけど。
こればっかりは金稼ぎにきたからしゃーないな。
「ハハッ、それぐらいお安い御用だ。今から別荘に移動するか?」
「いいや。さっきちょっと友達に会うてしもうてな、ラウンジで話しようかと思ってんねん」
その瞬間、フロストの眉間にぐっと力が入り、バリトンボイスが心なしか一段低くなった。
「友達?」
「そそ。私が学生時代に所属しとった生徒会の会長さん」
「生徒会に入ってたのか。へぇ~……サーシャは会計か?」
フロストはニコニコ笑いながらそう訊いてくる。悪気ないのは分かってるで? けど、私ってそんなに会計っぽいか?
「……正解やけど。なんか釈然とせんな」
「生徒会長じゃないなら、きっとそうだと思ったんだ。そうか……生徒会の会長さんか。俺も行っていいか?」
「別にええけど……」
フロストが来ても私たち金の話しかせえへんから、ちょっと退屈かもしれんな。
「辞めといた方がよかったか?」
フロストはそのつもりはないかもしれんけど、なんかピリピリする。な、なんか怒らせたんか私……そんなについて来たかったんか?
「いや……でもちょっと男の人と話すの苦手な子やからな」
ウルスラはあの性格で冗談みたいやけど、男が前やと委縮してなんも話せん。
せやから舞踏会とかではダンス踊れん私と並んで、いつも壁際にたむろして、ダンス踊るやつらを冷笑して駄弁っとったぐらいや。
それがこの雄の塊みたいなやつと対面したらどうなるか。
対消滅はせんやろうけど、一方的にウルスラが消滅しそうではある。
ある意味おもろいか……?
「女の子……か」
フロストからピリピリしたものが取れて、普通に戻った。
なんやこいつ……まさか私が男に会いに行くとでも思たんか?
「……あんな、フロスト。うちの生徒会は人気投票でな。基本、女の子しかなれへんのや」
「……そうなのか」
「せやから会長も、当然女の子やで」
「………………」
数秒の間、それが何を意味しとったんかはわからん。
せやけどフロストは半笑になって、ポリポリと頭を掻いた。
「そなのか。いや、すまない。だったらお邪魔だな……俺は止しておこう」
女と分かった瞬間に妙にすんなりフロストは引き下がった。暇やったらついてくるかと思ったけど。……まあちょっとついてきても、カモにされるぐらいやろう。
「べつにええで? ミヤハもおるから、実質ハーレムみたいなもんや」
「いや、いやいやいや、……勘弁してくれ。俺は仲間とラウンジで酒でも飲んでるよ」
こんどは慌てた様子でフロストは同席を全力拒否してくる。こいつは一体何がしたいんや。気分屋にも程があるぞ。
「そっか。……せやったら、挨拶だけでもしとく? 一応このマリーン・ヴェイルの領主の娘やし」
「やっぱり同席させてくれ。……シュガーライクも加えて」
「だからなんやねん。気が変わるん早すぎやろ」
「いや、マリーン・ヴェイルの実質的支配者とバイカル家の令嬢が会うとなれば、それは女子会じゃなくて『首脳会談』だ。公爵として同席しないわけにはいかない」
……それであわよくば、儲け話なら一枚噛みたいっちゅーことか。
甘いなぁ、フロスト君。アンタみたいな戦争馬鹿は私たちの食い物にしかならんぞ。
止めといた方がええと思うけど、まあついてくるんは別にええわ。
……にしても凄い心変わりがあったもんやな。
コイツはキャッキャウフフな女子会でも想像しとったんやろうか。
「私らが流行とかゴシップの話でもすると思うとったんか?」
「しないのか?」
「ゴシップはまあちょっとするけど、基本私らは儲け話と政治の話ばっかりや。たまにちょっと二人で反省して女の子っぽい話題も頑張ってみるけど、まぁー長続きせん。お互い男勝りな性格なのは自覚しとるからな」
「俗にいうサバサバ系ってやつか」
「いや、私は清楚系や」
「…………だな!」
「あ゛?」
こいつ目が泳いどるやんけ。一体今何を想像した?
「いや! サーシャは可憐で素敵だよ」
「そ、そか。……へへへっ。答えになっとらん気もするけどまあええか。……とにかくもう行くで! もう三十分ぐらい待たせてるからな」
私は上気した頬をパタパタ仰ぎながらラウンジに歩き出す。
あー暑いなぁ、今日は。太陽もキラキラで元気いっぱいでええこっちゃ。
「護衛から離れずに歩いてくれ。俺たちもなるべく気を配ってはいるが、君に万が一ということもある」
「わかったわかった。……ほんま心配症やなぁ」
あかん、フロストセラピーが効き過ぎた。しばらく離れんと過充電になる。
◇
「酷い惚気の気配がしたけど、私に語ってくれるなよー」
「す、するかボケっ! アンタとは金の話しにきたんや」
ラウンジでストローを注した水色のジュースを飲みながら、待っとったウルスラの隣に座る。フロストはシュガーライクを呼んでくるらしい。
「やっぱサーシャって目立つねぇ」
「……? 珍しいこともあるもんやな。アンタが人の目気にするなんて」
「私もサーシャぐらい自信家だったら少しは違ったのかも知れないね」
ウルスラの様子がおかしい。こんなしみったれた話をするような子ではないはず。
どないしたんや。ジュースでも飲み過ぎて具合でも悪くなってもうたんやろうか。
「なにかあったんか」
「……気になる人ができた」
……ファ⁉
……え!! なにその面白いギャグ。
「それは……ガチの相談……やんな?」
コクンと頷くウルスラ。
ハハッ、ハハハッ! ハハハハハッ! やったぞ!
ついにこいつの弱みを握ったぞぉ! この魔女めぇ!
うぉー! やっぱりかー! テンション上がってきたぞおい!
悪魔に魅入られてしまった犠牲者第一号がついに出てしまったぞー!
退避だー!
……で? それは一体どんな存在なんや?
どんなイケメンを見つけたらそんな話があんたの口から出るんや。
絶対裏で笑わんから聞かせてくれ。ましてや私の婚約者と比べるようなことは決してないと神に誓おう。……さあ早く、私の顔面が崩壊しないうちに。
「誰なん」
私が真剣な表情でそう訊くと、ウルスラは視線をグラスから少し上げて、ラウンジの海が見えるテラス席に眼を向けた。
「ほう……」
そこには味わい深い継ぎ接ぎの服を着た、褪せた金髪の青年が、筆を持って海をキャンバスに描いとった。
ふ、フツメンやぁー!
一般人過ぎて視線外したら人並みに消えてしまいかねん男やないか。
たぶん平民の青年なんやろうけど……いや、普通にアカンやろ。伯爵令嬢と平民じゃあ身分が違い過ぎる。
お前はあれか、恋に恋する乙女の自覚はあるんか。
それが危険やって自覚はございますかー⁉
「いいひとそうやな」
ぐらいしか形容できる言葉がみつかんねーよ。なんだあのいかにもな男は。あんなのが好きなのか。あれなら男装した私の方がまだマシまであるやろ。
……いや待て。男ならハート、つまり生き様がカッコよさで決めるべきやと、私の男心が二審で判決を変えよった。
実はハードボイルドで、資産も金貨数千億枚は下らん隣国の王子とかかもしれんやろ。人を見た目で判断したらアカンって、ほんまに。
「そ、そうでしょ……いつ話かけようか悩んでて……」
それ以前の問題やないかーい!
話かけてすらないとか、お前はなーにを考えとるんや⁉
相談に乗らせるつもりなら、少しは進展してて、その経過報告でも⁉ 長々と聞かされるもんやと思うてたわ! お前ら赤の他人かよぉおおおおお!
「突然話しかけてもええと思うけど───」
「きゅぅ~……ん」
「───まあ、それは私でもないと無理そうやな。イベントとか開催して、そこで絶対に話をしなければならない状況を作る、とか。アンタの資産ならやれるやろ」
「イベント? ……そういえば近々海辺で開催するスプリングフェスがあるの。そこに呼んだら来てくれるかしら……」
「アンタらしくないで! シャキッとしなさい。男なんて近寄ってきたところを、網でバッと捕まえたらええねん」
虫取りみたいなもんや。
私もフロストはお見合い申請が来たから、それを逃がさず捕獲した感じやし。
まあでも私もあの時は驚いたよ。
傷心気味で網構えとったら、ヘラクレスオオカブトが網に飛び込んできたんやからな。
───閑話休題、問題はその男が出たがるスプリングフェスにせなアカンってことやけど。
「私もそのスプリングフェス協力するから。絶対に成功させるで」
「何する気なの?」
私の高速回転する頭脳が一瞬にして、解決策を叩きだす。考えるまでもない。春やけど、このカラッとした地中海性気候なら問題ないわ。
「氷を削ったお菓子、かき氷を売るんや。アンタはその試食と称して、その男にかき氷を持っていく。そこで少し話をして関係を深めるんや。ほんでほんのり酒なんかも入れて酔わせたら、海の家に連れてくる。そこでしばらく話をすれば相性も分かるやろう」
「ヴァイノさん、お酒は余り飲まないんだ。だから用意するなら、紅茶の氷とか用意できない……?」
「そうなんや。ふーん、ちょっと考えてみるわ」
スゥー………二人は赤の他人なはずやんな?
それで仲良くなりたいんやもんな?
聞き間違いではないはずや。なんか急にホラー展開になってきたからビビったわ。
「サーシャには彼の好みがわかるリストを渡しておくから、それを見て役立ててくれると嬉しい」
「おおっと。ホホホッ……なかなか、手の込んだ犯行ですやん。一体いくらつぎ込んだんや」
「たったの金貨十枚ぐらいだよ。もう、気にしすぎだって~」
身辺調査に金貨十枚はアンタ沼り過ぎや。
というかいきなり衛兵呼ぶレベルのガチ案件に昇華させんな、ビビり過ぎてツッコミも吹き飛んだわ。
こいつどんだけ、情報屋と探偵雇ったんや……?
それにあれは見るからに、調べるまでもなく、売れない画家やないか。
アンタ人形みたいな可愛い顔しとるのに、目玉までガラス玉になる必要はないんやで?
リストをチラッと見たけど、それが間違いないことは間違いなさそうやし。
あんなん好きになったら一生ヒモを飼うことになるの分かってんのかな。
目覚めるパワーで目を醒まさせることは不可能か?
───まあ、無理やろうな。
こうなってはお終いということを私は学生時代に学んできた。駄目よ駄目よと言ってても、こじれていくのは友情だけ。
だったら私は完全同調ドリーマー、ここだけ完全に雌になってやり過ごしてしまおう。
「好きな人にお金使えるって幸せやんな~! わかる~」
分かってたまるかと、心が拒絶反応を起こしそうなところを冷静に落ち着かせる。
私は貢がれることはあっても貢ぐことは絶対にせんし、それで得た関係に未来があるとも思ったことはない。しかし私も人の子。言えぬ言葉の一つや二つはあるもんだ。
けれども……この沼ちょっと深い気がする。救難信号を受け取るのが遅すぎたんやろうな。
最近音沙汰ないと思ってたけど、こんな底なし沼に嵌ってたんなら早く言っておくれよ。悪友って言っても、私たち、六年以上一緒に舞踏会でダンス踊るやつら馬鹿にしてきた仲ですやん。
何でもっと早く言ってくれんかったんや。知っとったら、ワインとポップコーン持参できたのに。ここまで来たらもう笑えへんで。
なんとか……なんとか、親友が闇落ちする前に! この物語をハッピーエンドに終わらせねば。
「私も一肌脱がんとな」
「ちょっとぉー、色目使わないでよね? 」
「安心しなさい。これでも学園時代は無数の情報網を駆使して、あらゆる人の相棒キャラとしての地位を確立してきた私や。私が成就できんかった恋はない」
なにせ男と女、両方の気持ちが分かるからな。
そこら辺はほんまに無双させてもらったわ。
「そういやサーシャ、固定のメンバーに入らずに色んな組織を転々としてたっけ。共有財産としての自覚があったよね」
「いやそれは単純にこのノリで毎日こられると、胃もたれするヤツが続出したってだけや。……口を開けば金と政治の話しかせんからな」
そんな悲しい過去を思い出させるな。今はお前の恋路を見守ることが私にとって一番の娯楽になりつつあることを忘れるんじゃあないぞ。
破局しても、片思いで終わっても、きっと最後は爆笑する自信しかないけど、絶対に応援だけは続けるからな! とりあえずはスプリングフェスの準備をしようやないか。
「あ、そうだ。スプリングフェスで屋台を出すなら私が全額出すからね。私のことでもあるし……特別に」
よしゃよしゃよっしゃあー! 経費ウルスラ持ち!
コレを待ってたんやこれを。言われなかったら打診しようかと思ってたところに、丁度いいボールが投げられてキター!
私はリスクゼロで新商品のテストマーケティングができて、アンタは恋が一歩進む。Win-winっちゅーわけ。
「そうと決まれば、さっそく打ち合わせやな! ……っと、その前に。向こうのバーカウンターで気まずそうにこっち見とる私の婚約者様? 自己紹介させてくださる?」
ビクッと体を震わせたのは、シュガーライクと一緒に息を顰めとったフロスト卿。北部の英雄も、流石にこの話に入ってくる勇気はなかったようやな。
最近内政が多いような気がしたので、ここでガツンと恋愛要素をぶち込んでみました。
実験的な書き方もしてるので、評判良かったらこの書き方を続けようと思います。




