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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
アイス・イン・ワンダーランド編

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20/22

金融の魔女と欲望の都マリーン・ヴェイル ――悪友はパジャマで玉座に座る


 夕刻。スレイプニル号の行く手に、巨大な港のシルエットが見えてきた。

 

 商業都市『マリーン・ヴェイル』。


 ミズガルズ王国の腐敗が(おり)のように溜まり、法律よりも金貨の枚数が正義を決める、欲望の吹き溜まりという素敵な私たち商人のおもちゃ箱。


今日も今日とて、この街では新たな発明の萌芽を紅茶と共に楽しむことができる。


その熱気は景観にも波及してて、バロック調をベースにした家屋に、煙突から黒い煙を吐き出す工場が立ち並ぶ。


 凱旋パレードの前座に行われた雪祭りの雪像がミケランジェロのようやと語ったことは記憶に新しいけど、ここはそれで言うならベルニーニの作ったバロックの世界といえんこともないやろう。


調和に対する躍動感、冷たさすら感じる王都の静謐とマリーン・ヴェイルの商人たちが醸す熱気。


どちらが好みかは人によるやろうけど、私はこの熱気が嫌いやなかった。どこか私の故郷にも似た剛毅さをこの街からも感じられるからもしれん。


空気は悪いけど、呼吸はしやすい。そういう場所や。


「……ここは相変わらず駅から賑やかやなぁ。ほんま人の切れ間がないんちゃうか?」


 ホームへと滑り込む列車の振動を感じながら、私は車内の窓から外を見渡した。

 活気と潮風が混じり合うマリーン・ヴェイルの駅舎。


相変わらずの(さび)(いそ)の香りに石炭の臭いが混ざり合う雑踏の中で、私は学生時代に仲良かった悪友を一人見つけた。


見つけたというより、目に入ったという方が正しいかもしれん。あからさまにそこだけ人払いがされてて視界が開けてるし、周りの通行人もそいつが持たせてる黒板に視線が注がれとるから、見んわけにはいかんかった。


素通り出来れば一番やろうけど、そうすれば地の果てやろうと追いかけられる未来は容易に想像できる。

……あれはそういう類の怪異や。


日傘を執事にさされて、メイドには小さな黒板に、『サーシャ御一行様は早く降りてきやがれ』の物騒な文言が書き記されたボードを持たせ、自分は駅のホームで場違いなほどに豪華な玉座に肘ついて座っとる。……人としてあれ恥ずかしくないんか?


寝起き100%の無防備なレースのインナーに豪華な毛皮を羽織っただけの、駅にいるのが違和感の塊としか思えん恰好の変人は、アンティークな色調と、透き通るような紫色の天然ウェーブの頭を掻きながら、虚無感のある黄金の瞳で車両の中におる私を待ち構えとった。



「……サーシャ様、あちらの方は」


口を片手で抑えて笑いを堪えとるミヤハはその予期せぬ客人をどうやら好ましく思っとるようやった。


……私もこのタイミングやなかったら両手を広げて再会を喜べたやろう。ハグぐらいしたかもしれん。


せやけど今はアカン。せっかく稼いだロールアイスの金が丸ごと持ってかれかねん。


「親友の皮を被った借金取りが来よった」


外の世界にはまるで興味ないような虚ろな目で、車内におる私だけを見とる儚げな瞳。傍から見ればそれは華奢で可憐とか、お金持ちの箱入り娘だとか、そういう想像を抱かせるのに十分な美しさを兼ね備えた美少女なのは間違いない。


実際学園におった時も、いっつも半分瞼が閉じ掛かっとる隈のある目で、うつらうつらしとったから、そういう勘違いのまま学園生活を終えた幸せ者もおったかもしれんけど実態はもちろん違う。


あの紫髪の悪魔がいつも半分眠気眼であるのは、金勘定でいつも忙しいからや。

()()()()()()()()()、つまりは金貸しをしとる。

私ら商売をする者達にとって金貸しは、切っても切れん関係の悪魔に近い。


「そろそろ機関車から降りてきて、私に顔をみせろよー。ばーかーもーのー」


少女の眠たげな声が私の耳に届いた。

電車の中で潜伏しとるのがバレとるんか?


……駅のホームからその後もなんか言うとるけど、雑踏に揉み消されて消えてしまうから、仕方なく私らは電車を降りて歓迎に答えた。


「相変わらず三秒で眠れそうな服装で幸せそうやなぁ、ウルスラ」


「ふぁぁぁ~ああ……あふぅ……何を隠そう、つい先ほどまで眠っていたんだ。サーシャが改造貨物列車でやってくるというから、私がこうして重い腰を上げてきたんじゃないかー」


「おう、それならせめてそのけったいな椅子から立って話しようや、ちびっこ」


「ちびっこ言うなーデカ女ー。これは私のために作られた特注のゴージャスな椅子なんだぞー」


普段ならマジギレするところも、今日はゆる~く言い返してくる。なんか、こっちの調子まで崩されそうや。しかも一切椅子から降りる素振りすら見せん。


こいつのマイペースには、もはや感心すら覚える。こいつは学園時代から何も変わらん。


私が婚約破棄されてから政治的なパワーを失ったと知った傍から、縁を切ってくるような連中が大勢おったのに、港湾都市から私に大量の食料を買わせてくれたのが、このウルスラやった。


彼女と彼女の父親が港湾(こうわん)都市の実質的な支配者であると同時に、王家を気にせん立ち回りを続けとるから、私らはマリーン・ヴェイルから食料を調達することができたと言っても過言やない。


気に食わんけど……私の命の恩人ではあった。


「この私がいなくば、お前がヨトゥンヘイム卿に気に入られることはなかったこと、一生忘れないでほしいな。それにそのお礼もまだ聞いていないし? 仕方ないから聞きに来てやったってわけー。私ってば優しい~」


無数にある欠点のうちの一つとして、恩着せがましいことがあげられる。

というかこいつもやろうけど、私たちはお互いの悪口なら世界が終わるまで言いあえる自信があった。


というかこいつが自分から来るときは取立以外にない。

私の元に現れたということは、書類の粗をみつけてあぶく銭を浚い(さらい)にきたということやろう。


「眠いならとっとと帰って休めや。心配せんでも私から別に邸に出向いたのに」


「無一文で来られても嬉しくないもんね。どうせサーシャのことだから、たんまり稼いできたんだろ。感謝はいいから金を出せ」


ウルスラはそういって、停車した車両の中を指さしてニヤリと口角を歪めた。


なんでもお見通しとはいかん……と言ってやりたかったけど、生憎そのか細い指で示された場所には、ミヤハが先ほどまでアイスを作っとった設備と、下には銀貨と銅貨がずっしり詰まった袋が隠されとった。


私の悪友らしく金の匂いには人一倍敏感なのも全く変わらんようやった。


「馬鹿いえ。これは今後一山当てるための軍資金や」


夢を実現するための金をみすみすここで(むし)られてたまるか。


「あ~、そう言えば氷を売るとかっておじ様が言ってたっけ。また変わった物に手を出したもんだよなぁ、まったく。……それとも今度はそれが売れるのか? ふーむ、……頑張るなら投資するけど? いる?」


「今は投資もいらん。てかギルドに株式の申請もしてへんし」


キッパリと断っておく。

そうせんとあの手この手でうちの事業を乗っ取ろうとしてくるからな。


「え~なんでだよー、株式公開しろよー。エンジェル投資家様だぞー」


「エンジェルには角と尻尾は生えてへんぞ?」


「もぉ、失礼だな~全く。せっかくサーシャの新規事業に金を出してやろうと思ったにさぁ。あの馬鹿のお飾り王子に一杯食わされて金がないんだろぉ~?」


小さく笑うウルスラは可愛らしい人形のようやけど、その発言内容が過激すぎて周囲の人がドン引きしとるで?


王子を公然と馬鹿呼ばわりとか、頭が世紀末すぎるアホかアンタぐらいやろうな。

まあそれも前者はことごとく死刑になってこの世にはおらんやろうから、実質唯一無二や。


そんな傍若無人(ぼうじゃくぶじん)っぷりはさすが私の悪友という評価に行きつく。


「気持ちだけ受け取っとくわ。アンタにも色々心配かけさせたみたいやしな」


そう私がいうと、半開きの目をぱちぱちしながらウルスラは椅子に背中を預けて、溜息を分かりやすくつきよった。


「そうか……それが分かっているなら合格点をくれてやらんでもない。私ももうこんな暑い場所は御免だからねー。先にラウンジで待たせてもらうゾ。……絶対きてね?」


パンパンとウルスラが手を鳴らすと、何処からともなく雑踏から執事が四人現れて、ウルスラの座った玉座を四人で肩に担いで雑踏の奥へ消えていった。


私がなんも返事をせんかったから、ウルスラは運ばれてく椅子から後ろを振り返ってこっちを最後まで見とったけど、私はやっぱり最後までなんも返事はせんかった。


「ふふっ……ウルスラ様は相変わらず、サーシャ様を困らせることがお好きなようですね」


そう言ってミヤハは軽く笑う。

ほんらいお互いの立場上、絶対に仲良くなれへん二人のはずなんやけど。


同じ生徒会のメンバーやったとかいう、奇妙な縁を今日まで引きずってしまった結果生まれてしまった正真正銘の腐れ縁。


学園生活が終わったあともつるむのが、まさかこいつとは私も想像すらせんかった。


「ハー……一旦忘れよ」


「よろしいのですか?」


「そっちの方が仕事の効率がええ」


私は思考からウルスラの情報を全て消して、荷物の整理に入った。

あいつのことを考えると、生み出した利益の幾らかはあいつの下に行くのが想像できて、なんか気が滅入ってくる。


それにこの春のくせにえらく強い日差しも、拍車をかけて私をさらに陰鬱とさせた。


「さっ……早く荷物整理してラウンジ行こか。フロストにも声かけんとな。安全運転のお礼言っとかんと……」


親友とあって久しぶりにこんな落ちたテンションを、婚約者で回復させなければ。フロストセラピーはいずれガンにも効くと言われてるからな。




高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。


それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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