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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
序章:氷売りの令嬢

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凱旋パレード大成功!でもちょっと数が多すぎへんか?【パレード編】

「……なぁ、ミヤハ。私、一言でも『芸術性を追求せえ』って言うたか?」


 数日後。


 凱旋(がいせん)パレードのメイン通りを視察しに来た私は、目の前の光景に絶句しとった。


 私は『春の雪だるま大作戦~みんなで仲良く作ろうね~』くらいの、ゆるいノリのつもりでおったんや。


 公爵様が雪だるま見たらホッコリするかなぁ~とか。


 そう言うノリやと思ってたんやけど。


「眼が……おかしくなったんか?」


 ゴシゴシ……。



 うん、やっぱり「雪だるま」なんて可愛いもんやない。


 数メートル級の巨大な氷塊を削り出し、細部にまで匠の技が光った、ガチすぎる『雪の彫像群』が鎮座しとった。


「いいえ。お嬢様は『ええの作った奴に肉を出す』としか申し上げておりません。……ですがどうやら、ヨトゥンヘイムの民草にとって、高級肉の魔力は我々の想像を遥かに超えるものだったようですね」


 そうは言うけどやな、ミヤハさん。まさかこんなに野生のプロが増殖するとは思わんやん。何がそこまで駆り立てたんや?


 ……ていうか、こいつら人間の構造把握しすぎやろ。前世はミケランジェロか?


 骨格とか完璧すぎるし、肉体表現がリアルすぎる。……全員フロストの像を作ってるのがちょっと疑問やけど。


 まあでも採点はちょっと厳しくなるか?

 ……あからさまに公爵に媚び売って肉をもぎ取ろうという魂胆が丸見えやからな。

 そこまで戦略立ててリアルに攻めてこられるとこっちも身構えてまうわ。


 もっと可愛い雪だるま~とか、可愛いうさちゃん~、とか期待しとったのに。

 なんやねん、鎧の騎士に馬とか、弓兵とか。戦争に関係する奴ばっかり。

 可愛いのが一つもないんやけど。


 ……いっちゃんムカつくのが、私をフロストの隣にわざわざ設置しとるやつとかや。

 これはまーじで小癪(こしゃく)

 

 そこまで肉が欲しいんか? まあ、食事に余裕ができるってなったら、命がけにもなるんか……な?


「あっ、これサーシャ様だけの雪像ですよ。高得点ですね」


 隣で盲目なミヤハが、分厚いコートに身を包んで淡々とメモを取っとる。


「やめんか。おどれは私を羞恥心で殺す気か」


 きょとんとした顔で顔を上げて、当然のことのように首を傾げるミヤハ。


「採点基準は明確にするべきでは?」


 私の有無を採点基準にするバカが何処におるんや。新手の独裁政治か。


「……まあ、採点基準は大事やんな。でもそこはやっぱ芸術点というか。作品に込められとるテーマを二重三重に深堀できるようなもんが優勝するべきちゃう?」


「一番綺麗な雪像を優勝させるつもりはないと」


「当たり前や。───にしても、今日が最終日やけど、まだディティールに時間かけとる奴がぎょうさんおるみたいやな。頑張りは認めるけど悪あがきにならんか?」


 通りの両脇には、血眼になった領民たちがノコギリやノミを振るい、必死に最後の仕上げを施しとった。


「見てくださいよ、お嬢様。あっちの彫像なんて、フロスト様の腹筋が八つに割れてますよ。実物より三割増しで筋肉盛られてません?」


「……おぉ確かに。あれはあれでおもろいな。背筋も人間の骨格やったらありえん肉の着き方してるし。……ちょっと高得点あげたくなるやん」


 指差した先には、大剣を掲げたフロスト卿の巨大雪像。

 作ったのは───例のアイスマンたちか。

 自分らのボスへの忠誠心と、肉への執着が合体した結果、背中に鬼神が宿っとる。


 しかも、無駄に顔だけは肖像画通りに美形なのが、余計にシュールさを加速させとった。


「おーい! サーシャ様! 見てくれよこの大胸筋! 肉、期待していいんだよな!?」


 上半身裸の男が、雪まみれの手を振ってくる。……アンタら寒くないんか?


「……ええよ、期待しとき! その代わり、フロストが帰ってきた瞬間に崩れたりしたら、報酬は『ザワークラウトの汁』だけにするからな!」


「「「「うぉおおおおお! 気合い入れて固めろぉおおお!!」」」」


 地鳴りのような咆哮。

 現金なもんや。でも、この「活気」こそが、私がこの領地に来て一番見たかった景色でもあった。


「花の方はどうや? ミヤハ」


「はい。内職チームのペーパーフラワー、既に百万輪を超えました。現在、木工ギルドの職人たちがアーチに取り付けています。……サーシャ様、あれを見てください」


 ミヤハが指差す先には、通りをまたぐ巨大な木のゲート。


 そこには、鮮やかな赤や黄色の「紙の花」が隙間なく敷き詰められ、モノクロだった雪の街に、パッとお色直しをしたような華やかさが宿っとった。


「ほう……。やるやん。これなら王宮のパレードにも引けを取らへんで。……まぁ、全部紙やけどな」


「コストは百倍近く違いますけどね。……お嬢様、そろそろ楽器隊の最終リハーサルの時間です」


「よし。(ゼニ)の力で、この極寒の地を熱狂の渦に叩き込んだろか。パレード開始まで、あと一時間や! もうフロストは凱旋してこっちに向かって来とるみたいやからな。急いで準備するで!」







 ◇







 地鳴りのような音が、足の裏から伝わってきた。


 ズン、ズン……と重厚に響くのは、数万の軍靴と軍馬の蹄が地面を蹴り叩く音。

 私は丘の上にある邸から、遠くに見えるヨトゥンヘイム軍を望遠鏡で捉えることができた。


「……来よったで。英雄達の帰還や」


 城門の向こう、雪煙(ゆきけむり)の向こうから、黒い鉄の(かたまり)のような一団が姿を現した。


 最前線で血と泥にまみれて戦ってきた男たちの放つ覇気は、それだけで周囲の空気を数度下げるような、凄まじい威圧感があった。


「ビリビリとした殺意が体から抜け切っとらんな……アンタらは帰ってきたんや。それを思い出させたるで」


 鉄火場帰りの連中が城門を通り抜けた瞬間から、私が用意した『紙と雪のファンタジー空間』は容赦なく包み込む準備ができとった。


 私は望遠鏡を片手に右手を上げ──────


「楽器隊! 演奏開始や! しん気臭い空気、景気良く吹き飛ばさんかい!」


 号令と共に振り下ろしたった。


 招集された楽団が一斉に太鼓を叩き、ラッパが北の大地に響き渡る。

 邸前から波のように城下町の奥の奥へと並び立つ楽団員が、次々と楽器を掲げて音色を奏でていく。

 その光景は壮観で、城下町も大いに沸き立ち始めよった。


「おぉ! やっぱ音楽は凄いな! 一気にそれっぽくなったで!」


 寒いせいでリハもそんなにできんかったけど、そこはなんかアドリブで巧くやってくれてるようやった。


 それと同時に、内職のおばちゃんたち千人以上集まって必死で折った百万輪の紙の花が、城壁の上から紙吹雪となって舞い散り始める。


 手作業で作った赤・ピンク・白、様々な色をした労働の結晶が兵士達の心を癒していっとる。泣いとる兵士もおるぐらいには、完璧な演出が決まっとった。


「……てか花が多すぎて、もはや城下町の景色が物理的に見えへんわ。フロストが花の中に消えたんやけど」


 望遠鏡片手にフロストを探し出すために眼を凝らす。

 けど望遠鏡に映るのは感動しとる他の兵士ばかり。


「…………な、なんだこれは」

「花? 雪じゃなくて、花が降っているのか……?」


 殺し合いをしてきたばかりの兵士たちが、口をポカーンと開けて馬上からその絶景を眺めて行進しとった。


 無理もない。さっきまで地獄におったと思ったら、帰ってきた瞬間に「メルヘンな世界」に放り込まれたわけやからな。


「見てくださいお嬢様、あの最前列の兵士。あまりのギャップに脳がバグったのか、馬から落ちそうですよ」


「よしよし、計画通りやな。……おっ、我らが大将もお見えになったで」


 一団の中央、ひときわ巨大で傷だらけの黒馬に跨り、返り血で黒ずんだボロボロの鎧と、襤褸(ボロ)切れのようなマントを(ひるがえ)している全身(オトコ)――フロスト卿が、驚愕の表情で街の景色を見渡しとった。


 彼は、通りの両脇に並んだ「自分を三割増しで筋肉ダルマにした雪像群」に目を止め、次にアーチを彩るド派手な紙の花を見上げ、最後にパレードのプロデューサーとして邸の門前で仁王立ちしている私の姿を見つけた。


 目が合った。


 サファイアブルーの瞳と、野性味溢れる黒い瞳が。


「サーシャ!!」


 楽器にも負けないバカでかい声でフロストが咆哮を上げる。刃こぼれのあるボロボロの大剣を掲げると、城下町は黄色い歓声が包み込んだ。


 かつて城下町の民にあれほど憎まれていた公爵は、今日この時だけはみんなの憧れであり、その瞳に焼き付く英雄なんやろう。


 城下町には凱旋パレードを一目見ようと領民で溢れ返り、街の守備隊が交通網を()いて、大通りの一本道を彼らのために解放しとった。


「まったく……みんな仕事を休んで優雅にパレード見物かいな。フッ……まあ……今日ぐらい仕事はええか」


「サーシャアアアアアア‼」


 うるさ。


 ……まあでも良かったわ、あいつめっちゃ感動しとるやん。

 尻尾の代わりに大剣振り回しとる。めっちゃ危ないわ。


 パレードも上手くいったし、後は邸の外に席を用意しとるから昼間の内に宴をして貰わんとな。夜とか吹雪でそれどころやないやろうし。食堂の収容人数も数百人はいけても、流石に数万は無理や。


 タラーリ、と頬に伝う汗が氷ついた。


「……流石にあの数が一斉にうちの在庫(メシ)を強奪しに来るようなことはないやんな? ……敵襲より怖いねんけど」


 流石にあれだけ来られたら食料庫が空っぽになってまう。


「一般の兵士は征服先の略奪(りゃくだつ)がメインの報酬になるので、こんなにくることは(まれ)だと思いますよ。食料の余りも運んできているようですから、それを食べきって解散でもする腹積もりかも知れませんね」


「えー……余ったら、安く売りさばきたいのに……」


 確かに思った以上に日数はかからんかったようやった。半年か一年ぐらい大規模な征伐(せいばつ)が行われるっちゅー話やったから、それを三か月で終わらせてくるのは、もう驚きを越えて恐怖すら湧いてくる。


「まあまあ、サーシャ様。すでに消えたはずの食料ですから。今日だけはご寛大な目でみてあげましょう」


 ミヤハに言われて、私は溜息をつきながら邸のものに新しい指示を送った。


酒樽(さかだる)の中、空にしても構わん! 全員酔わせる気で酒の用意や!」 


 





次回は【再会編】です。

やっとフロストが凱旋パレードを経て邸に到着するので、ガチャガチャする予定です。

サーシャ様は未成年なので飲酒はしません。

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