朝起きたら女の子になっていた話。
朝起きたら女の子になっていた。女の子に変わっていた。
なぜかはわからない。なんでかどうしてか、まったくわからない。
鏡を見る。女の子だ。体を見る。女の子だ。
冗談じゃない。僕は女の子になどなりたくない。
しかし、今日は学校がある。休むわけにもいかない。
僕の姿を親が見たら驚くだろうな。
そう思っていると、母は「まあ、まだ学校に行っていなかったの? 早く支度しなさい」と言った。
あれ? 僕の姿がわかっている?
「お母さん、僕の姿、変じゃない? なぜか女の子になっているんだけど」
母はぽかんとして「なに寝ぼけたこと言っているの。あなたはもともと女じゃない」と言った。
まったくどういうことだ。意味がわからない。
父と妹が、僕らの声を聞いたのか、姿を見せた。
「何をやってる。朝ごはんを食べなさい」
「お姉ちゃん、早くしないとお母さんが怒るよ」
みんな何を言ってる? 僕は男だ。男のはずだ。
夢でも見ているのか?
しかし、お母さんに叩き出されて、学校に行くことになった。
教室に入る。さすがにおかしいと気づくはずだ。
親友に声をかける。
「なあ、僕、なぜか女の子になっていたんだけど、なんでかわかる?」
しかしそいつは言った。
「ええっと、どういうことだ? おまえ、もとから女の子じゃないか」
おかしい。世界がおかしい。いや、僕か? 僕がおかしいのか?
今日一日を通してわかったのは、僕はなぜか“生まれたときから女の子だった”ということになっていたという事実だった。
昔の写真、動画を見ても、なぜか女の子の姿の僕が写っている。
⸻
次の日。仕方がないので学校へ行くと、クラスがざわついた。
やっと僕の異常に気づいたか。そう思っていると、先生が声をかけた。
「おまえ、やっと学校へ来てくれたのか。不登校だったおまえが来てくれて、俺はうれしい」
心臓が寒気で震えて、どうにかなりそうだった。
僕が不登校に?
そう思って周りを見ると、みんなが僕を見ていた。
「あの子、不登校の子らしいよ」
「でも、学校に来れてよかったよね」
「うん、勇気を出したんだね」
そう聞こえて、この世界がとにかく狂っていると本気で思った。
⸻
そして次の日、朝食を食べようとすると、妹から小突かれた。
「お姉ちゃん、また仏壇に手を合わせてない。お母さんに怒られるよ」
仏壇? 何言ってる?
妹は部屋の隅を指さした。
そこには父の写真が立てられた仏壇があった。
呼吸が荒くなり、鼓動が聞こえるほどうるさくなっているのを感じる。
声を絞り出して「ねえ、お父さんはどこ?」と聞くと、妹は何てことない様子で言った。
「何言ってんの。お父さんは数年前に事故で死んだじゃん」
もう何もかも意味がわからない。
女の子になって、不登校になって、父さんは死んでいる。
いや、いや。おかしいのは僕ではないか?
たとえば思い込みとか妄想とかで、変になった心が元に戻ったんじゃないか?
⸻
そして次の日、僕は学校で知らない人と友達になっていた。
正確には、もとから友達だったらしい。
次の日には家の場所が変わっていて、しかもマンションになっていた。
世界が変わって、変わって、変わり続けて、
もう混乱を通り越して冷静になっていた。
そして次の日、学校へ行くと、机の上には花を挿した瓶が置いてあった。
何かのいたずらだろうか?
近くの生徒に聞くと、
「その子なら少し前に事故で亡くなったの。いい子で、私も好きだったんだけどね」
もう笑うしかない。
死んでる? 僕が? ここまできたか。
家に帰った。ここまできたら何が起ころうと驚かない。
そして玄関を開けると、
男の子の僕が立っていた。
「あなたは誰?」
彼は、そう言った。




