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卵焼きに失敗したらなぜか公爵になったのだが

作者: カエル
掲載日:2025/10/27

※ この小説は作者が夢で見た内容をそのまま書いてるので、矛盾や特殊な世界観が含まれています

※ 基本的に主人公も周りも頭がおかしいです

※ 時代設定は中世ですが、卵料理が非常に大事で、失敗するとめちゃくちゃ怒られます

※ 主人公は現代日本からの転生者なので卵料理が神聖とは全然思っていないです

※ 一応魔法要素もあるが登場するかは不明

※ AIで文体の修正や校閲をしています


俺の名はトリスタン・ド・ブラン。前世では日本の会社員、現世では卵を崇める変な王国の片田舎――ブラン領の子爵だった。

この国では卵は「太陽の雫」。割れば儀式、焼けば祈り、殻にすら税金がかかる。うっかり落としたら、床のひび割れを数えられるほど怒られる。


そんな宗教観とは露知らず、ある朝、俺は空腹に負けて台所へ。

「卵焼き、作るか。甘じょっぱく、くるくるっと……」


結果から言おう。俺はその日、卵料理を十連敗した。

半熟オムレツは鍋に貼りついて地層に、茶碗蒸し(らしきもの)は沸騰で全域スクランブル、ポーチドエッグは白身が蜘蛛の巣。

「……ぜんぶ、まずい」


だがこの国では「卵を無駄にする」ことが大罪。

そこで俺は前世の知恵――いや、ただの貧乏性を発揮した。


「証拠は胃袋にしまうに限る」


焦げ玉、塩辛玉、甘すぎ玉、半生玉。涙目で全回収。

皿は重ね、油は拭い、殻はひとところへ……のはずが、山盛りの殻だけは俺の胃袋に入らない。

台の隅に、固着した黄色い層と、山となった殻。それでも俺は現場から撤退した。


その頃、もう一方の現場――客館では、王都からの一行が静かに到着していた。

公爵家ヴァルベリオの第二女、リネア殿下。目的は俺の弟エドモンドと“儀礼の面談”。

だが俺はその時、会っていない。

広間の応対は執事と弟に任せ、俺は厨房で自作卵地獄と格闘していたからだ。


日が傾いたころ、事件は起きた。

リネア殿下が「自ら祈り焼きを拵え、面談の前菜に」と流行を追って厨房に入り、火の魔石を“炎”まで点けてしまった。

ぼうっと立ち上がる炎、こげる香り、床に落ちて伸びる卵の線――そこへ巡回の執事スタンレーが遭遇した。


「殿下――! “太陽の雫”が床を汚しましたな!」

「ち、違うの。私、やり方を……」

「理由は問われませぬ。儀礼の前に祈りを焦がすは大罪!」


ほどなく俺にも累が及び、「領主として厨房を放任した」との名目で拘束。

部屋が足りないという理由で、俺と彼女は同じ反省房に押し込まれた。

そこで、初めて対面したのだ。


石壁、小窓、硬い寝台がひとつ。看守が鍵をかける。

「共同の償いですので」とだけ言い残して。


「……はじめまして」

「……はじめまして。えっと、トリスタン・ド・ブランです」

「私はリネア・ド・ヴァルベリオ。いきなり同室でごめんなさい」

「いや、こちらこそ。こっちの世界の常識、まだ慣れてなくて」


沈黙。石の冷気。小窓から月の欠片。

先に口をひらいたのは彼女だった。


「ねえ、ブラン子爵。あなた、卵……食べたの?」

「え?」

「厨房に、殻が山のようにあったわ。けれど、料理の残りが見当たらない。床の線は私のもの。あなたは……全部、食べたの?」

「……はい。ああ、はい。証拠隠滅のために」

「すごい。愚かで、勇敢で、すごい」


彼女は笑った。緊張のほどける笑いだった。

「私ね、流行だからって見よう見まねで火を点けたの。強いほうが早いって思って」

「だいたいのものは、強い火ほど遅くなるんですよ。焦げるから」

「そうなの?」

「卵は焦らない。火は弱め、油は惜しまない。混ぜすぎない。巻くときは三呼吸」


「三呼吸?」

「一呼吸で縁をはがし、二呼吸で手首を返し、三呼吸目で置く。魔石を使うなら“灯”だけ。“炎”は絶対使わない」

「……ねえ、ブラン子爵。あなた、どうしてそんなふうに言えるの?」

「前世の記憶が、ちょっと。別の世界では卵は宗教じゃなく、朝ごはんの真ん中でした」


彼女は驚いた顔で目を丸くし、それから小さく頷いた。

「あなたの世界、少し羨ましい。こちらでは、卵は失敗すると人が壊れるの」

「壊れないように、練習しましょう。卵なしで」


俺は寝台の板と木べらを取り、巻く動きだけを教えた。

「手首はこう。返しはこの角度」

「こう? こう……?」

「うん、上手い。音を立てないで、呼吸を数える」

「一、二、三――」


彼女は笑み混じりに繰り返し、十回、二十回、三十回。

その合間に、俺たちは話した。王都のこと、儀礼のこと、彼女が成人であること、そして――

「“血の儀礼”が嫌い。人を数字にするみたいで」

「同感です。人は卵じゃない」

「でも、家のために私は来た。あなたの弟君は、嫌な人じゃなかった。だから余計に、流行に乗って“祈り焼き”なんて背伸びをした」

「背伸びは火の高さじゃない。手首の角度です」

「うふふ。ほんとに変わった人」


夜は長かったが、石の冷たさより会話の温かさが勝った。

互いが成人で、互いが互いの意思でここにいると確かめ合い、やがて俺たちはそっと抱き合った。

具体的なことは語らない。ただ、同意と安堵と、少しの笑いがそこにあった、とだけ言っておく。


明け方。小窓の向こうが白んで、看守の足音が近づく。

「反省の様子は――うむ、静かでよろしい」

「(静か……だった?)」

「(静かに、ね)」

俺とリネアは顔を見合わせ、堪えきれず吹き出した。


――


騒動はすぐに王都へ伝わった。

「公爵家次女、祈り焼きを焦がす。床に“卵の線”。重罪の疑い」

役所は早い。しかも過剰だ。

「身分剥奪の上、奴隷階級へ降下の可能性あり」

「待て待て待て! 線一本で人生を落とすな!」と俺は叫んだが、紙は紙として走る。


一方で、俺には市場から花束が山ほど届いた。

“彼は無駄にしない。すべて食べる”

“胃の勇者に祝福を”

“殻だけは許す(許さない)”

理屈が迷子でも、世間は勢いで納得する。ほんとやめてほしい。


その最中、公爵――リネアの父が動いた。

彼は事態を重く見て、王都へ直行し、王ローデリック二世の前へ進み出た。


玉座の間。高い梁に卵を模したランタン。黄衣の司祭たち。

王が静かに言う。「ヴァルベリオ公。娘君の件、詳しく聞こう」

公爵はひざまずき、額を床につけた。

「陛下。娘リネアは祈りを焦がしました。私の教え、私の家の慢心の結果です。よって、私は公爵の座を退きとうございます」

ざわめき。宰相モルテンが眉をひそめる。

「軽挙だ。大貴族が、台所の失敗で――」

「台所の失敗ではございません」と公爵。声が低く、よく通った。

「この王国は卵を崇めすぎた。その結果、人を罰しすぎる。私はその最前列にありながら、何も変えられなかった。娘の失敗は――私の失敗です。

娘を守る口実ではない。私は、私を罰したいのです」


王は目を細めた。「お前が退ければ、誰が領を治める」

「流れが示す者が」と公爵。

「流れ?」

「人は“卵を無駄にするな”と叫ぶより、“どうすれば無駄にならぬか”を示す者に従います。私はもう示せない。

だが、ブランに――すべてを食い、すべてを笑いに変えた若者がいると聞いた」

宰相が紙束をめくる。「胃の……勇者?」

王は口元を緩めた。「妙な異名だな」

「妙であれ、実があればよろしい。私は退き、次代の流れが選ぶ者に任せたい」


王はしばし沈黙した。玉座の間に、燭の油がちり、と鳴る音だけが落ちる。

やがてローデリック二世は低く告げた。

「お前の引退の意思、確かに受けた。正式の裁可は評議を経るが――父としての覚悟、しかと見た」

「はは」

「ただし、娘君の処遇は別の議題だ。厳正に行う。……覚悟はあるか」

「いかようにも」


公爵は深く一礼して退いた。その背は老いてもなお、まっすぐだった。

彼が帰還する道すがら、王都の風は冷たく、人々の噂は熱かった。


――


その噂は、ブランにも炎のように届いた。

「リネア殿下、奴隷落ちの公算」

「待て、その前に聞け!」と俺は役人に食ってかかる。

「彼女は成人で、反省房での行為も合意だ。それと“線”は別件だろ!」

「事実関係は把握しました」と役人は冷たく言い、次の紙を開いた。

「なお、反省房にて共寝の事実があったため――」

「それを“事実”と書類に記すな!」

「書類とは事実を書くものです」

「だからって!」


だが、この事実が別の意味を生んだのも事実だった。

「公爵家の血が新たに芽吹く可能性が生じた。よって、リネア殿下は保護対象。拘束は一時解除」

「ほんとう!?」とリネア。

「ただし血統の管理上、子の籍は如何にするか」

「そこで提案」と宰相から飛んできた通達を読み上げる役人。

「ブラン子爵トリスタンをヴァルベリオ公爵家の養子とする。将来生まれうる子は、両家の橋となる」


「なんで俺が公爵家の養子に!?」

「流れ、だそうです」と執事スタンレー。

「その“流れ”万能語やめろ!」


こうして俺は半ば強制的に公爵家の養子になった。

市場はまたも沸き、「胃の勇者、ついに公爵家へ」と駄歌まで作られた。勘弁してほしい。


――


数日後。王都から正式な返答が届く。

「ヴァルベリオ公爵引退、裁可」

「後任は、“流れが良い者”」

「流れって、ほんと何だよ!」


だが理屈が通るのがこの国だ。

評議は俺の養子縁組を既成事実と見なし、「血の連続性」と「民意(胃の勇者人気)」を勝手に数式化した。

その結果、紙にはこう書いてあった。


――“よって、公爵はトリスタン・ド・ブラン殿下とする”。


爆誕である。


公爵印の大きな指輪が俺の指に嵌められた。

「税の卵率を下げろ? 上げろ? そもそも卵率って何だ」

「殻税にございます」とスタンレー。

「殻に税!? 誰が払うんだ」

「割る者すべて」

「民主的に理不尽だな!」


それでも、やれることはやった。

俺はまず「無駄にしたら怒る」の代わりに「無駄にしない工夫を競う祭」を開いた。

失敗卵は粥に、殻は粉にして畑へ。床に“線”を引いた者には、罰金の代わりに一週間の料理講習。

講師は――俺と、リネア。


「はい、三呼吸。手首はこう」

「こう……上手くいった!」

リネアは笑って、やわらかな層を巻き上げる。

「見て、トリスタン」

「完璧だ。市場がうるさくなるぞ」

「うるさくなるのは、あなたの異名よ。“胃の勇者・殻税改革公爵”」

「肩こる称号だな」


弟のエドモンドは、儀礼の件を落ち着いて辞退した。

「兄貴が公爵になったら、俺は田畑で卵殻を撒く係になるよ」

「立派な仕事だ。手首の返しより腰の返しを鍛えろ」


そして、公爵を退いた父――元公爵は、ある夕べひっそりとブランを訪れた。

「陛下は、お前を面白がっていたぞ」と彼は笑う。

「“妙な異名の若者だが、民の腹を満たす術を知っている”とな」

「恐れ多いです」

「恐れるな。腹を満たし、笑わせろ。それが治世だ」


彼は俺とリネアの並ぶ台所を見て、ふっと目を細めた。

「リネア」

「はい、お父さま」

「私は、娘の失敗を重く見て退いた。だがな」

「だが?」

「お前が笑って卵を巻けるなら、私の失敗は半分くらい成功に化ける」


短い会話だった。けれど、十分だった。

今も王都では卵に怒る人が多い。制度もすぐには変わらない。

それでも俺は、少しずつ変えていくつもりだ。怒鳴るより、巻いて見せる。罰するより、食べ切る道を作る。


窓の外の月は、黄身みたいにまるかった。

リネアが囁く。「ねえ、公爵さま」

「やめろ、その呼び方はまだこそばゆい」

「じゃあ、トリスタン。あなたの“前の世界”では、卵はどのくらい大事?」

「朝の食卓の真ん中にあって、みんなを笑顔にするくらい」

「ここでも、そうできるかな」

「できる。焦がすな、焦るな、三呼吸」


彼女はうなずき、もう一度きれいな層を巻いた。

俺は公爵。卵は食べ物。

そして、理屈は相変わらず変だが、少しだけこの国が好きになっていた。


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