53 雨宿り 後
「あ、ありがとう。もう少しで凍え死ぬ所だったよ…」
俺が片手で試行錯誤していたらやまとが手伝ってくれた
お陰で俺達はこうして焚き火であったまることができてるわけだが…
「なぁ、チラッと見ただけでそんな露骨に拒絶しなくても良くない?近くにずぶ濡れの女の子が居たら気になるのが漢のサガってもんだろ?」
「開き直らないでください」
やまとの方に体を向けていないので表情までは確認できないが、きっと羞恥心でいっぱいな顔してるんだろうなぁ。うん。断言できる
「そういや俺たち飯もろくに用意せずに出発したけどさ、昼飯どうするんだよ」
「私はお腹は空いてないので良…」
直後腹が鳴る音が洞窟内に響き渡る
「…今の俺でも兎くらいは狩れるはずだから、少し待ってろ」
「…はぃ」
語尾が不安定だし、こりゃ相当心に来たんだろうな。まぁ痩せ我慢する方が悪いしそこら辺を可哀想だと俺は思わないが
「うっわ…まだ降ってるじゃん…」
外を覗いても草原にひたすら雨が降り注いでいる景色しか見えない
「まぁ行ってみるだけ行って…って寒すぎだろ!?今さっき晴れてた時は普通に暑かったのに?本当にこの世界はどうなってんだろう」
そんな愚痴をこぼしながら何か動物はいないかと辺りを見渡す
…いた。森の中に数匹入っていく姿が見えたぞ
俺は森に入っていく兎に集中し、チェインを使った
何を封じたかって?脅威から逃げる本能をだよ
この魔法何が悪いって対象に一つしか制限をかけられない事なんだよね。もしかしたら複数人で何個も掛けられるのかもしれないが、そもそも周りにチェインを使える魔法職なんているのだろうか?
「よし。そしたら捕まえ…て…」
クソッ!!なんて愛くるしい目を向けてきやがる!
…ダメだ。俺じゃこの子達には手をかけられない
とりあえず兎の耳を掴んで洞窟まで持っていく事にする
「おーい、やまと。今帰ったぞー」
「おぉ!ホワイトラビットじゃないですか。よく分かってますね」
何がよく分かってるのかがイマイチ分からないが今現在も頑張ってやまとの方を向かないように努力しないといけないのが辛い
「…まだ生きてるじゃないですか」
「当たり前だ。俺じゃこんな可愛い子に手はかけられ…っておま!?何してんだよ!!」
やまとはいきなり俺の手から兎をもぎ取り、手を伸ばして…
ゴギッ…
「…首折りやがった」
「しかないでしょう。これも生きるためです。ほら、命に感謝しながら焼きましょう」
焼く時点から感謝するとは良い心がけだが…良い心がけだが、コイツ結構そう言う所で躊躇がないんだな…今後怒らせるのはやめよう
そんな俺の決意を読み取ったが如く
「流石に人間を殺した事はないので安心してくださいね」
何も安心できねーよ
そんな複雑そうで単純な思いを抱えたまま俺は兎の直火焼きを頬張った
兎肉ってどんな味なんでしょうね
実は日常で結構遭遇してたりするのかもしれません




