115 憶測
…正直助かったよね
だって馬小屋に帰れるんだもん
あの不気味な美少女の事はもう忘れて馬小屋に行ってしまおう
そうして歩こうと立ち上がるも
「景品が多い!!」
いくらバッグがないとはいえまさか立ち上がれないほどに荷物がかさばるとは思わなかった
頑張って腕に巻きつけたりしながら試行錯誤してようやく立ち上がった
そのまま不恰好な歩き方で歩く事数十分後…物を抱えていたので普段の何倍もかかったのだが…見覚えのあるような場所に辿り着いた
てかさ、わざわざちょっとだけ寒い中探しに行ってやったのにあいつは反応すらしないし気付いてすらいないのかもしれないんだろ?
ぁあ、意味がわからん。俺の行動無駄だったってことになるじゃんか…もう馬小屋ついたら藁に倒れこ……
…
「何でお前がここに居るんだよ!!?」
俺が寝転がろうとして目を向けたその先には快適そうに寛ぎながら何かを真剣に考え込んでいるやまとの姿があった
「カ、カイセイ…どどどど、どうしたんですか?」
「いや狼狽えすぎだろ」
クソッ、どうしたもくそもないだろ
「お前自分から逃げておいてなんでここに居るんだよ!?わざわざ探しに行った俺が馬鹿みたいじゃないか!」
…てかそんなことよりも大事なことがあったな。
何故やまとがどっかへ逃げて行ってしまったのか…と言うよりかは俺の言動のどこに不満があったのかを聞かなければ
「なぁやまと。俺の言動のどこに不満があったんだよ…一応言っておくけど俺は今も引き篭もりたいからな?お前が拗ねたごときで俺の考えは変わんないから」
「別に屋台を回りたいんじゃなくて、カイセイと一緒に祭りを楽しみたかっただけなんです。私は物なんてどうでも良く…」
「つまり何が言いたいんだよお前。それ馬小屋で寝てるお前が言うことか?何度も言うけどさ、必死になってお前のことを探しに行った俺の身にもなってみろよ。あまりにも虚しいだろ!!」
本当に俺が探している時の労力は何だったんだよ…
「…てかさ、お前泣いてキレるの早すぎじゃないか?流石にもうちょい本気で俺のこと問い詰めてくれた方がわかりやすいんだが…」
「…もう呆れましたよ。そうですね。カイセイにはまだ早かったですね」
「何がだよ言ってみろよクソガキ」
「…てかさぁ、お前とのトラブルってすぐに解決しすぎじゃないか?まるで既に決まっている簡単な現象かのようにさ」
「…その年齢で厨二病は痛いからやめてください」
「よし殺すか」
…なんで俺たちの言い合いは最終的にこうなるのだろうか
「…てかカイセイ、今あなたが持ってるそれは何ですか?」
ドキッ…!
「いや、あのォ…これは!やまとにあげようと思って…」
「下手な嘘はやめてください!!」
「はい…」
いつもとあまり変わることのない会話
いつまでも続く俺たちの変わりない安定した関係
それを見て俺は感じた
今日も世界は、好都合に廻っている、と
…そう感じたその瞬間に自分に嫌気がさした
そんなんじゃ、まるで今までの俺たちのことを否定しているような物じゃないか
…そうだ。あまりにも都合が良すぎる
…仲間と喧嘩してはすぐに仲直りし、あまりにも現実とはかけ離れたスピードで展開が進んでいく
そんな世界の周り方に疑問が浮かんだ時もあった
でもそれは俺の勘違いだと、俺の思い違いだと信じた。そう信じない限りは、到底耐えうるものではなかった
だって、そんな考えを信じてしまったその瞬間、転生してから…いや、生まれた時から積み上げてきた何かが崩れる気がしたから
「…カイセイ?どうしたんですか?」
…もしかしたら、今ここであの勘違いを間違いだと証明できるかもしれない。
そう思った俺は少し具合が悪いように演技をしてみることにした
…ちょっと考えすぎかな?
「いや、何でもないさ」
「…本当に?まぁカイセイが大丈夫なら良いですけど…」
…ダメだな。これだけじゃ自分が信じるための材料として不十分だ
そんなことを考えているうちに、重要なことに気がついた
やまと、コイツは泣き止むのがとても早いのである。まるで、そこに泣いていたと言う状態がなかったかのように
「…なあやまと?」
「どうしたのですか?」
…これを聞くのは正直怖いしやまとにどう思われるのかがわからなくて恐れている部分もある。
でも、自分が立てた仮説を崩すためには、これしかないんだ
「お前って、泣き止むのが早いよな」
「…?そうですか?」
「というより、物事の収束が途轍もなく早い気がするんだよ。俺が転生者だと言う話はこの前したと思うけどさ、前世じゃこんなに簡単に信じてもらえなかったしこんなに簡単に許してもらえなかった」
「…何が言いたいんですか?もう厨二病は良いですから…」
「違うからな!?」
勿論即答。自分の名誉を守るためにも、やまとを試すためにも
「そうですか」
「…やっぱりおかしい」
「???」
…ダメだ、うまく口で言い表せない
「…なっなぁ、俺たちって、仲間だよな…?」
「何を当たり前なことを聞くんですか。私たちは仲間ですよ」
「…俺が思ってる仲間ってのは、お互いの発言が重くて、意見とかの食い違いで衝突がたまにあるような、絶妙な関係だと思うんだよね。でも、俺らにはそれがない」
「…?」
「俺たち、毎回同じ結果に収束してる気がするんだけど気のせいかな?」
その瞬間、一瞬だがやまとの目が金色に輝いた気がした。勿論気のせいだろう。だってコイツの瞳は翠色なんだから
でも、確かめずにはいられない
ずっと疑問だったんだ。俺が死んでから転生し今ここに至るまでの内容が妙に薄っぺらいこと。ここまでトントン拍子で進んできた事。そして、最初からチームメンバーのステータスがインフレしまくっている事。
正直、異世界に来たからと言って仕舞えばそれで終わりかもしれない
…怖い
「なぁ、やまと。もしこの世界が…」
「…この世界が?」
やまとが続きを言うように促す
「もしこの世界が“特定の動きをして特定の未来へと辿り着くプログラムされた世界だとしたら、どうする?」
「…カイセイ、わたしが強くあたりすぎたのですか?体調とか悪いところがあれば…」
「わるかねーよ!」
そんな会話をしていたその時
ーーーーぞくっ
何処かから妙な視線を感じていることに気づいた
「…なぁ、今この場にいるのって俺と…やまとだけだよな…?」
「そうですね」
その後もやまとは表情ひとつ変えず、まるでこの返答が決まっているかのように
一瞬目を泳がせたかと思うと、再び何事もなかったかのように口を開いた
「…それがどうかしたんですか?」
「いや、ちょっと気になっただけだよ…」
…おかしい。
何故やまとは“周りを見渡しもせず”に周りの状況を確認できたんだ?出鱈目言ってるのか?それとも…
いや、きっと俺の考えすぎだな。連続の仕事で疲れてるんだろ。きっと
『フフッ…髫ェ閧イ蛻、鬨セ螢ケ』
何かが聞こえた気がした。
どこか遠い場所で聞いた、だけれども自分と深く関わりのあるような、馴染み深い声
それでも俺は、その声の正体を導き出せなかった
まぁ、きっと疲れてるんだ。あいつらの元に帰ったら回復魔法でもかけてもらおう
…やっぱり今日も、世界は好都合に廻っている
正直この話は出すべきか迷いました
何せ書き始めた頃に考えていた途中経過とだいぶ変わっていたからです




