両親の業を継がない悪役令嬢の娘
「ベッカー君、君を追放する」
「え、何故ですか?伯爵殿」
「それは娘に邪な目を向けていたからだ」
「そんな。馬鹿な」
俺はベッカー、騎士の息子だった。4男だ。
やっと、この伯爵に雇われ、2年間、仲間と共に領内の魔物を狩り続けてきた。
厳しい戦いだった。生き残ったのは俺一人だ。
一段落ついたらこのざまだ。
ご令嬢にそんな目を向けた憶えがない。
っていうか。王都にいたではないか?
「ヒィ、お父様、怖いわ。嫌らしい目で見るのです」
「解雇は分かりました。紹介状と退職金、今までのお給金をお願いします」
「それを言える立場か?紹介状だけ渡そう」
滅茶苦茶書かれた内容の紹介状を渡された。懲戒解雇だ。
お金はもらえなかった。
「私はどうしたら良いのですか?」
「強盗でもするのだな。そして、縛り首にでもなるが良い」
「あ、そうか。それ良いですね・・・」
「おい、君、何、剣を抜いてる!」
「キャア、怖いわ」
「まあ、やはり野蛮ね・・」
まだ、身の危険を感じていない。
「どのみち、無一文で放り出されたら私は死ぬのですよ」
剣先を伯爵に向けた。
伯爵は笑いながら手で剣を払おうとした。
その瞬間、首筋を斬った。
プシューと血が吹き出る。
「グハ!何だ、これは!」
「はい、頸動脈を斬りました。何もしなければ出血多量で死にますね」
「分かった。君、金を出そう。手当・・・をしてくれ。これは無かった事にするから・・・ウワワーー!」
「いや、もう、主人を斬ったので強盗をしたことになります。もう、取り返しが付きません」
次は奥様だ。
腰を抜かして口を開けてワナワナしている。
レディファーストだったな。失敗した。
だから、楽に殺してあげよう。
スパン!
首を斬った。
ポロンと落ちた。
ご令嬢は、胸をはだけて白い肌を見せていた。
こいつ、乙女じゃないな。
「ベッカム、実は私、貴方の事が好きで、つい、試練を与えたの。ほら、この胸を見て!」
「失礼、私はお嬢様の事、少しも好きでは無かったのです。私の名はベッカーです」
「ヒィ、護衛騎士!サム、トーマス!」
「お嬢様、二人は魔物の討伐中に亡くなりましたよっと!」
「ギャアアアアアアーーーーー」
お嬢様は動いたので、肩を斬ってしまった。
「ヒャアアアーーーーーー」
「動くといたいですよ」
逃げるお嬢様のスカートを踏んで、そのまま斬った。
伯爵は出血多量で死んだので、これで三人殺した。
使用人達は黙っていてくれた。経理官を兼ねている執事長が、お金を金庫から出してくれた。
「実は、旦那様はサム様、トーマス様の遺族にお給金を払っていないのです」
「頼む。送ってくれないか?」
「もちろんです」
手続きが終わったら。執事長は言う。
「私を傷つけてくれませんか?」
「ダメだ。ワザとつけた傷はすぐ分かる。脅されて金を出したと言うのだ」
「分かりました。ベッカー様はお逃げ下さい」
「有難うよ」
よっぽどケチだったのだな。
使用人たちに恨まれていた。
村で食料と靴を買い。
山道を進み。
隣国に入った。
雨が降ってきた。
あれは猟師小屋か?
と思って入った小屋に令嬢がいたんだ。
山奥にドレスを着た令嬢、切れ目に瞳は紫、赤いドレス、顔は細長い。厳しそうな印象を受ける。
美人だが、好みが分かれる美人だ。
「俺は、ベッカー、君は?」
「・・・・・・・・・」
無言が続く。
「ヒン!ヒヒ~ン」
馬のいななきだ。馬で来たのか?
「俺はロフトで寝るから君は火の側で寝なよ」
「・・・・・・・・・・・」
俺を恐れないが、何も話さない。
身上を話したのは、普通の人か、怪異か判別するためだ。
だめだ。分からない。
ロフトの上だと、もし、殺しにくるのなら、必ずハシゴを登るだろう。
その音で起きる自信がある。
俺は剣を抱いて寝た。
翌朝、小屋を出る。まだ、あの女は寝ている。
おさらばしよう。
「ヒヒ~ン」
令嬢が付いてくる。馬と一緒だ。
その後、俺は開拓村の外れに家を買い。
耕作と魔物狩りで生計を立てようとした。
彼女は馬を提供してくれた。
「私は、マリーよ」
うあ。絶対に偽名だ。
「ああ、宜しく」
耕作が終わったら、もらった金の半分をあげてお引き取りを願おう。
と思っていたが。
・・・・・・・・
「ただいま。今日はアナグマのスープか?」
コク「・・・・・・・・」
女はまだいる。
そして、20年経過した。
彼女との間に子供が生まれた。
顔は母親似、性格は俺の母方の祖母、明るい性格だ。
イルゼと名付けた。
今年18歳だ。マリーは王都のドレスの話をすると。娘は
何故か、新しいドレスや帽子のデザインが泉のように湧き出る。
そして。領主のコンクールに提出した。
「お父さん。お母さん・・・実は、産業コンクールで私が提出したドレスと帽子が金賞を取ったわ」
「おめでとう!」
「良かったわね・・・」
「でね。伯爵様の目にとまり・・・ご子息の婚約者候補にならないかって、言ってくれたの」
「ダメだ!」
俺は即答した。そんな事はあり得ない。
18歳?男爵家ならギリ間に合うが、伯爵家の礼儀作法など覚えられる訳がない。
ツンツン
しかし、マリーが袖を引っ張る。
(とめたら、もっと、火がつく)
「う、イルゼ、もう少し考えた方がいいぞ」
「でも・・・・私が話を断れば銀賞の子に行くって・・・」
イルゼは結局、迎えの馬車に乗った。
気に食わない。
いくらこちらが平民でも親に挨拶にこない奴がいるか?
案の上、数ヶ月も立たないうちにボロボロになって帰って来た。
服がところどころ破れている。まさか・・・
「イルゼ!」
「グスン、ウワワワ~~~ン、型紙とスケッチブック全部取られたわ!・・・私、婚約破棄だって、初めからデザインが目的だったのよ。母さんから教えてもらったデザインをアレンジしたものなのに・・・悔しいわ!」
「イルゼ、もしかして・・・」
ツンツンとマリーが袖を引っ張る。
そうだ。乙女を奪われたのなら母親が聞くべきだ。
マリーはイルゼを抱いてヨシヨシと慰めている。
・・・・・・
俺は剣を取る。10人くらいはやれる自信はある。
だが、またも、マリーが袖を引っ張る。
「何だ。まさか、止める気じゃないよな!」
「貴方、あてがある。イルゼについていて・・・そうね。生まれたばかりの子馬と猫ちゃんを側においてあげて・・・まさか、ここまでするとは思わなかったわ。私の責任よ」
「今更、そんなこと」
マリーは馬に乗り。そのまま去った。
☆☆☆レーゼランド辺境伯邸
この日、行方不明になったこの家の長女が帰って来た。
「マリアンネ、ただいま戻りましたわ。父、エーベルハイトに取り次ぎをお願いしますわ」
「おい、そこの馬に乗った女、無礼だぞ!・・・・ま、まさか、お嬢様!」
「お嬢様が帰って来られた!」
「お館様に報告だ!」
・・・・・
「マリアンネ!良く戻って来た!父に顔を見せてくれ」
「まあ、貴方の無実が証明されたのよ!」
「姉上!」
「お姉様!」
「伯母上?」
マリアンネは身に起きた事を全て話した。今は辺境の村で男と暮らしていること。
娘が生まれたが、
領主にドレスのアイデアを盗まれ操まで奪われて放逐されたこと。
「ゆ、許せぬ。木っ端貴族めぇ!」
「騎士団を集めろ!この兄が成敗してやる!」
「お父様、お兄様なら討伐は容易でございましょう。問題はその後ですわ。イルゼの心の傷を癒やしたいですわ」
辺境伯は察した。
「そうか、王家とは和解がすんでいる。マリアンネの王太子暗殺は間違いだった。
今は傍系の王家から王は即位している」
「そうだ。まず。伯爵を殺してからだ!」
・・・私、マリアンネは間違いを犯したわ。
あのとき、処刑されないように逃げなければ、王家と辺境伯で戦争が起きた。
貴族社会が嫌になって、途方に暮れていたことが間違いよ。
☆☆☆領主伯爵邸
伯爵邸では、長男サイモンとその従姉妹にして婚約者デニーズを中心に宴が行われていた。
「「「「アハハハハハハ」」」
「デニーズ、君のプロデュースしたドレスと帽子は王都の社交界で好評だぞ」
「ええ、サイモン、古くて一周回って好評だったと言うわね。私、実は見た事無いのだけども」
「「「アハハハハハーーー」」」
その時、銅鑼の音が笑い声を消した。
ガン!ガン!ガン!ガン!
「旦那様!大変でございます。レーゼ辺境伯の騎士団が邸を取り囲んでおります!」
「何だって、あの戦闘狂が!」
【やあ、やあ、レーゼ辺境伯エーベルハイト!今から作法に則り襲撃する。使用人どもは早急に立ち去れ!伯爵とその郎党は鎧を着る時間をやる!10分で武装し、10分で遺書を書き。10分で馬に乗れ!30分やる!】
「い、いやだ。鎧なんて、ないよ」
「うちは新興の商会出身だよ」
「わ、私は女よ」
☆数週間後
噂が聞こえてきた。領主が空位になったそうだ。一晩でだ。
娘は最近、俺とも会話出来るようになった。今は子馬と猫の世話をしている。
「ヒヒ~ン」
「ニャン、ニャン」
「フフフフフ、お父さん・・・・私が馬鹿だったわ。お父さんの言う事を聞けば・・」
「もう、言うな・・・」
庭で馬の世話をしていたら、マリーが帰って来た。
「「「ヒヒヒヒ~~~ン」」」
「貴方!」
髭ズラの大男と優男だ。
「あんた誰?」
「ゴホン、マリアンネの父だ」
「マリアンネ?ああ、やっぱりそうか。初めまして」
「貴方、ごめんなさい」
「良いって、俺は傷物だぜ。良く所帯を持ってくれた」
「お祖父様?」
「おお、イルゼか!」
俺の義父は説明をしてくれた。
「実はな。あの伯爵一家は改心をして、女は北の修道院に子宮を潰して・・・え、それは言わなくて良い?ああ、そうか、改心して、北の修道院で民の平穏を祈るそうだ。
そして、男どもはな。その~、伯爵を辞して、両腕を切断して・・いや、旅に出た。イルゼにヒドい事をしたから行脚の旅だ。乞食をして苦労をして生涯を罪の懺悔に捧げるそうだ」
うわ。マリー、いや、マリアンネが義父に耳打ちをしている。
女は顔と子宮を潰して、修道院、男は両腕を切断して、放逐。これは、死刑の一歩手前だ。いや、死刑の方が良い刑罰だ。
娘は寂しそうに言った。
「・・・もう、いいわ」
「でな。伯爵位をイルゼに譲ると言っている。もちろん、イルゼは王都に行ってドレスの修行をしていいぞ」
「・・・本当に」
「ああ、王家御用達の商会だ。陛下の推薦がある」
「でも、伯爵位はいらないわ・・・本当に民の事を考える方がなるべきだわ」
娘は断った。
いくら何でも娘に伯爵は行きすぎだろう。
マリアンネは、型紙とスケッチをイルゼに渡した。
「王都に行きなさい。修行をするのよ。ドレスの世界は厳しいのよ。賠償金ももらっているから、すぐに店は出せるわ。その時に伯爵位は武器になるわ。伯爵位があっても失敗する世界なのよ」
「分かったわ・・・」
そうだな。村にいても噂は広まっている。
ここでやっと優男が自己紹介をした。
「初めまして、イルゼ嬢、私は王都のトムゼン商会の商会長補佐のスミロです。修行のご案内を出来ます。スケッチブックを見ましたが、まだ、粗が目立ちます。
しかし、素人でここまで出来るのはすごいことです」
ピクッと『粗が目立』で義父の眉毛は動いたが、こいつは良い先生かも知れない。
それに、
「30歳です。妻は流行病で亡くなりましたから同伴出来ませんでした。メイドも控えていますので、私と二人きりでの旅ではないのでご安心を」
「・・・いえ、そんなこと」
落ち着いている。年上だ。今のイルゼに丁度良いかもしれない。
「だが、しばらくは宴会だ!」
「お父様・・・」
それから、俺たちは領主館に住むことになった。
イルゼが伯爵だ。伯爵夫人とかの肩書きが商売に良いのかもしれない。
マリアンネが代行だ。俺はその補助だ。
しかし、義父の話の半分は嘘だ。やつらは修道院にも行ってないし。旅にも出ていない。
屋敷の座敷牢には、玉を潰されて両腕のない男達が、4人いる。
イルゼを乱暴した奴らだ。
「「「ウウウウウーーー」」」
「なあ、聖女様を呼んでくれ・・・」
こいつらは生きて的に出来ないかな。
そうだ。人を斬る訓練に使おう。
斬ってポーションで治せば長持ちするかな。
そして、屋敷の奥には、デニーズだっけ?それと元伯爵夫人とか、何名かいる。
顔は潰されている。足の腱は斬られている。
「た、たすけて・・・」
「わ、わたし、スケッチ返した」
「殺して・・・」
マリアンネの管轄だ。
生きた標本として、骨を折ったり。いろいろするらしい。
ああ、これは娘に見せない方が良い。
娘はこれから太陽に向かって進むのだ。
娘が結婚して里帰りをするとしたら、こいつらを殺すか算段中だ。
最後までお読み頂き有難うございました。