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レディ・クロックの夏休み〜働き者の令嬢は、婚約破棄により「お休み」いたします?!〜  作者: 烏賊


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46話_ヘンリー・バーンズ

「お前に婚約者を用意した。五日後に挙式だ」


「は?」


 馬車から無理矢理降ろされたアナベルは、目の前の古びた館に引きづられるるように連れて行かれた。重々しい空気が停滞し、人が暮らしている気配はない。掃除は行き届いているが、所々壊れている箇所もあった。

 今は二階の応接間でアナベルはヘンリーと対峙していた。

彼の周りには屈強な男たちが控えて、余計に重々しい雰囲気に彼女の体は余計に固まってしまう。

 ヘンリーはアナベルに薄い板状のものを投げた。それは綺麗な用紙が表紙に貼られた冊子で、開けば、男性の姿が描かれた紙が入っていた。

 その顔にアナベルの整った眉は、その眉間にしわを寄せる。見覚えのある男性であった。ベルナルド家と付き合いが深い、パトリック・ルロワ伯爵だ。細かく模様の入った生地のタキシードを好み、女性関係の噂で有名な紳士だ。

 しかしなんでこんな物が。アナベルの脳が疑問符で脳が埋め尽くされていると、ヘンリーから「ルロワと挙式だ」と断言された。


一体何を言っているのか。


「おじいさま。私はキャンベル侯爵のご子息、イーサン様と婚約しました。お父様からお話が入っていないのですか?」


 もしかしたら、祖父の耳に婚約の話が入っていないのかもしれない。デービッドですら、行方が不明だと言っていたのだ。きっと彼は知らないのだ。だから「伯爵と挙式」なんて奇妙なことを言うのだ。

 アナベルはそう考えた。そうでないと、色々とおかしなことになってしまう。


「そんなものお前がされたように、こちらから破棄すればいい」


 だがそんな考えは簡単に打ち壊される。婚約「破棄」、つまり彼はアナベルとイーサンの婚約がなされていることを分かった上での言葉選びだ。


「なにを、おっしゃっているのですか?」


 ヘンリーの眼光が鋭くアナベルを捉える。

 背中には冷たい汗が流れ、震えないようにアナベルは必死に手を握りしめる。


「お前はバーンズ家の長女だ。家の名誉を守る責務がある」


「それでしたらキャンベル侯爵家が最も相応しい相手のはずです!」


「キャンベルよりも奴の方に旨味がある」


 アナベルは毅然とした態度で声を上げたが、ヘンリーは変わらない。

 逃げなければ。

 アナベルは部屋を出ようと席を立つ。すぐに男たちがアナベルを取り囲んだ。


「準備はすべてこちらが用意する。お前はこの屋敷で待っていればいい。それではなアナベル」


 ヘンリーは数人男たちを引き連れ、応接間を出ていく。アナベルは彼を引き留めようと声を上げたがが、部屋に残った男たちに阻まれてしまう。取り押さえるために伸ばされた手を、彼女は強く叩いた。


「触らないで! そこを退いて!」


 アナベルは必死に抵抗する。掴まれようとすれば、叩き、身を捩り、足をばたつかせる。


 だが、悲しいかな。力の差は歴然だ。

 アナベルの必死の抵抗も虚しく、彼女は男たちに捕まってしまった。


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