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5.なろうエッセイ・批判系エッセイ(過去作は検索除外しているのでこちらから)

インボイスの賛否の主張を見て、思う。

 結構前に書き始めて眠らせていたインボイスに関する文章をちょっと掘り起こして加筆修正してみました。長いですが、よろしければどうぞ。

 例えば、果物屋さんでリンゴを一つ100円で買ったとします。で、消費税として10円上乗せして110円支払ったと。


 この消費税10円は、リンゴを買った人が税金として果物屋さんに支払ったお金です。当然、果物屋さんはそのお金を消費税として税務署に納めると思いがちです。……が、実はそうではなくて、果物屋さんは、お客さんから預かった消費税から仕入れたときに払う消費税を差し引いた額を税金として納めることになります。そしてそれは、果物屋さんが卸業者からリンゴを買う時も同様です。果物屋さんは卸業者にリンゴの代金と共に消費税を支払いますが、卸業者さんはその全額を国に収めるわけではなく、農家から仕入れた時に払った消費税を差し引いた額を国に収めます。


 例えば、農家の人が1個50円(税込55円)でリンゴを卸業者に売るとします。卸業者はそのリンゴを果物屋さんに80円(税込88円)で売り、最後に果物屋さんがそのリンゴを100円(税込110円)で売る。


 この場合、それぞれの業者さんが負担する税額は以下のようになります。


・100円(+消費税10円)のリンゴの税負担

 農家: 50円(+消費税 5円-控除0円=税負担5円)

 卸業者: 80円(+消費税 8円-控除5円=税負担3円)

 果物屋:100円(+消費税10円-控除8円=税負担2円)


①消費税として売買時に支払われた金額:23円

②仕入れ時に払った消費税として控除される金額:13円

③実際に税金として国に納められる金額:10円


 上記①の「消費税として売買時に支払われた金額」というのは、リンゴを買った人、卸業者さん、果物屋さんがそれぞれ払った消費税の合計金額で、そこから果物屋さんや卸業者さんが控除を受ける(差し引かれる)額の合計が②の「仕入れ時に払った消費税として控除される金額」です。そして、①から②を引いた「実際に税金として国に納められる金額」は、消費者が支払った消費税と国に納められる金額とで一致する、そんな仕組みです。


 この「一つの商品に関わった業者が少しずつ、その利益に応じた金額の税を負担する形の消費税」を付加価値税と言います。


 まあ、実際には消費税を商品ごとに計算なんてしていないし、色々とどんぶり勘定だったりするのですが。ただ、できるだけこれにできるだけ近くなるように、でも煩雑になりすぎないようにと、そんな形で制度が作られてると思っていいと思います。


  ◇


 と、上記を踏まえた上で。ここから少し、思考実験をしてみたいと思います。


 まずはこの卸業者さんが悪い奴、そうですね、ここでは仮に越後屋としましょうか。この卸業者越後屋さんが、本当は国に収めなくてはいけない消費税を懐に入れていたと、そんな仮定です。


 そうすると、先の仮定は以下のように変化します。


【思考実験1】卸業者越後屋が消費税を懐に入れた場合


・リンゴ:100円(+消費税10円)

 農家: 50円(+消費税 5円-控除0円=納税額5円)

 卸業者: 80円(+懐in消費税 8円)

 果物屋:100円(+消費税10円-控除8円=納税額2円)


①消費税として売買時に支払われた金額:15円

 (懐in消費税8円は納税対象外のため除外)

②仕入れ時に払った消費税として控除される金額:8円

③実際に税金として国に納められる金額:7円


 当然の結果として、彼が消費税として預かった8円を国に納めなかったせいで、国に納める金額が減ります。書き出して検証した結果、上記のように、3円も減ってしまっています。


……面白いですよね。「懐in消費税」は8円なのに、「国に収める消費税」は3円しか減っていません。


 なぜこんな結果になるのかというと、元々卸業者越後屋さんが負担していた税金は3円だったからです。預かった8円を懐に入れても、農家さんに払っていた消費税5円は消えませんし、不正をしたので控除が受けられません。だから、彼は実際には3円しか儲けていないことになります。


  ◇


 では次。もし、卸業者越後屋さんが懐に入れてしまった消費税を果物屋さんが代わりに支払わなくてはいけないとなった場合はどうなるでしょう。


【思考実験2】卸業者越後屋が懐に入れた消費税を果物屋が払う場合


・リンゴ:100円(+消費税10円)

 農家: 50円(+消費税 5円-控除0円=税負担5円)

 卸業者: 80円(+懐in消費税 8円)

 果物屋:100円(+消費税10円-控除0円=税負担10円)


①消費税として売買時に支払われた金額:15円

 (懐in消費税8円は納税対象外のため除外)

②仕入れ時に払った消費税として控除される金額:0円

③実際に税金として国に納められる金額:15円


 これはこれでおかしい結果が出てきました。消費税として15円も納付されてしまっています。……なぜこんな結果になっていまったのでしょうか。


 それは、卸業者越後屋さんは3円しか儲けていないのに、果物屋は彼に消費税として払う8円を消費税として国におさめてしまったからです。


――それは計算がおかしい、果物屋が肩代わりするにしても卸業者越後屋さんが負担する3円だけ収めればいいはずだと、そういう考え方もあると思います。ですが、それは極めて困難なのです。なぜなら、卸業者越後屋さんがリンゴをいくらで仕入れていくらで売ったのかを記録しているのは、卸業者越後屋さん自身です。果物屋さんは、彼が実質的にどれだけ消費税を負担していたのか、知る術が無いのです。


 もちろん、今回のように農家から果物屋までの取引を整理して記せば、卸業者越後屋がいくら儲けたのか、彼が消費税をいくら負担していたのかは簡単にわかります。が、そうでない以上、果物屋さんは彼が懐に入れた8円を納付するしかなくなってしまうのです。


  ◇


 さて、卸業者越後屋さんが消費税を懐に入れたせいで、なぜか国に15円も税金が支払われることになってしまいました。その消費税は一見、果物屋が負担しているように見えるかもしれません。ですが、果物屋さんだって自分が卸業者越後屋が払う消費税を肩代わりしていることを知っています。結果、こんな風説が流れてしまうかもしれません。


――「卸業者越後屋さんが消費税を懐にいれたせいで果物屋さんが8円も損をしている」と。


 ですが、卸業者越後屋さんは、私がこのエッセイのために生み出したカッコいいキャラクターです。その彼が、たった3円の利益のために、8円も果物屋さんに損をさせたという噂が流れるのを黙って見ているでしょうか? いやいや、彼はきっとそんな間抜けなことはしません。彼ならきっと、お代官さまとかけあって、自分だけは税金を払わなくてもいいような法律を作らせてしまうと思います。


【思考実験3】卸業者越後屋だけが消費税を払わないようにする場合


・リンゴ:100円(+消費税10円)

 農家: 50円(+消費税 5円-控除0円=税負担5円)

 卸業者: 80円(+消費税 0円-控除5円=税負担-5円)

 果物屋:100円(+消費税10円-控除0円=税負担10円)


①消費税として売買時に支払われた金額:15円

②仕入れ時に払った消費税として控除される金額:5円

③実際に税金として国に納められる金額:10円


……何か驚くべきことが起きている。そう思わないでしょうか。


 まず、やっぱり果物屋さんが消費税をかなり(卸業者越後屋の分まで)負担してしまっている。ただ、これまで卸業者越後屋さんに80円(+消費税8円)で計88円を支払っていたのが、80円(+消費税0円)に変化しています。なので、実は果物屋さんの利益は全く変わっていません。

 そして、卸業者越後屋さんですが、果物屋さんから消費税を受け取らない代わりに、農家に払った消費税の控除をしっかりと受けています。その結果、彼もまた、その利益は一切変わっていません。

 最後の農家さんはもう、最初から最後まで変化がありません。常に50円の商品に5円の消費税を付加して売ってるだけです。変化する余地がありません。


 というわけで、せっかく卸業者越後屋さんが手に入れた消費税率0%の特権ですが、特権を得る前から何一つ変わらなかったりします。


 結局のところ、果物屋の利益は「税抜きの売値100円-税抜きの仕入れ値80円=20円」ですし、卸業者の利益は「税抜きの売値80円-税抜きの仕入れ値50円=30円」です。税抜きの価格が変化しなければ、その利益も変わりません。それは「消費税から不当な利益を得なければ」そうなるはずです。


 消費税というのは、消費者(最終顧客)から預かって国に収める税金です。その税率が売上に関係するのは消費者(消費税控除を受けられない人)を顧客にする果物屋さんくらいで、それ以外の農家や卸業者にとっての消費税は、正しく処理されていれば右から左に流れるだけ、最終的には全て税務署に行くお金です。そのお金が誰かの利益になるのなら、それは制度がおかしいということになると思います。……まあ、どんぶり勘定だったり益税なるものがあるせいで、そこまで理屈通りにはいかないものでもあるのですが。


 なのでまあ、卸業者越後屋さんのカッコいいところはきっとこの後です。彼のことです、きっと口八丁手八丁で「私は免税特権を得ているからお得だ」とか力説して、いろんな人にいろんな物を仕入れさせると思います。


――「税率0%で仕入れても控除を得られないから、最終的には同じになる」ということに、最後まで気付かせないままに。


  ◇


 私は、インボイスには反対しています。その主な理由は「インボイスの事務処理が煩雑すぎるから」と「(思考実験2に挙げたような)税負担を他者に押し付ける行為が制度の中に含まれているから」の2つです。


――いや、わかるんですよ、どっちもね。ちょっと陰謀論的なことを言ってしまうと、このインボイスという制度は「税務署から見た場合」、芸術的なまでに良く出来ている制度だと、結構本気で思ってますし。


 でもさ、やっぱりおかしいと思うんですよ。このIT、ICTの時代にインボイスのような古臭い制度を持ってくるのも、税負担を他者に押し付けることがあるのも、消費税率以上の税金が税務署に行く可能性があるのも。

 一体何のためにデジタル庁はあるのか。何のためにマイナンバーカードみたいなものを作ったのか。わざわざ混乱するような移行の仕方をしなくても、最新の技術を使って消費税の税捕捉率を上げながら、混乱のない形で少しずつインボイス制度に寄せていってもいいのでは?と思います。


 巷で言われている「免税事業者が廃業に追い込まれる」というのも、多かれ少なかれそうなるでしょうね。インボイスという制度が施行されれば、今の免税事業者のような「消費税の計算をしない事業者」が不利になるのは確かだと思います。さらに益税問題まで抱えていては、一般の人への印象も相当に悪くなると思いますから。


……なのにさ、今のインボイス反対は、その「印象が悪くなる」益税の保護を訴えてる訳で、そりゃあ、あんなの広がりっこないですよ。


 売上一千万を下回るような零細って、よっほどだと思うんですよ。それなりに仕入れのある業態でそれを上回っていないのなら、もう事業そのものが危ないレベルじゃないかなと。

 まあ、感覚は人それぞれだし、仕入れの無い業種も少なくないとは思いますが。ぱっと思いつくところでは、士業、文筆業、クリエイターあたりでしょうか。でも、こういうフリーランスと言われるような人たちって、感覚的には「零細」とはちょっと違うんじゃないかと思うんですよ。


 付加価値税というのは仕入れと密接に関わる税制ですし、益税を諦めた上で「仕入れの少ないフリーランス」に限定した特例を求めても良かったんじゃないかなと思います。仕入れが少ないという前提であれば許容できることも多くあると思います。また、正しく処理されれば消費税率が0%だろうが10%だろうが還元されて関係なくなるというのは【思考実験3】で示した通りです。いくらでもやりようはあったんじゃないかなと、正直思います。


  ◇


 ここまで長々と書いてきましたが、私はインボイスの是非を声高に叫びたいとは思いません。ただ、賛成するにせよ反対するにせよ、ちゃんとその制度の全体像を理解して、自分なりの考えを巡らせた上で主張してほしいと思います。


 多分ね、このインボイスの是非に関しては、表に出てこなくなってしまった意見というのが相当にあるように思えてしまいます。それが一番悲しいかなと。


 最後に一つ、わがままを言わせてもらえれば。こう、見てて知識が深くなる、賢くなる、そんな議論を見たいなと、そんな風に思います、まる。

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[一言] 一番影響を受けるのは、物流業界かな?と考えています。 ウーバーなどの新しい業態の配達員、赤帽などのBtoB、佐川や郵便局、Amazonなどの宅配業者。こういった職業の殆どが個人事業主です。こ…
[気になる点] ちょっと論点がずれてしまったようなのでもう一度だけ書かせて頂きます。私が一番言いたかったことは、あなたの思考実験のおかしさについてです。 (売り上げ-経費)×10%のような形で、それぞ…
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