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第3話 この世界のこと

 「恐竜がいるっ!!トルケラトプスみたいっ!!」

勇人が大興奮で叫んでる。

「本当だ……すげぇ。リアル恐竜じゃんっ」

大河も感動でそのあとの言葉を失っていた。



 「そ……そんなに珍しいのでしょうか」

「俺はそこまで詳しくはないんだが、タイガたちの世界では、大昔に竜のような生き物が生きていたらしい。だが、大きな『メテオインパクト』が起こり、多くが絶滅してしまったそうだ。

以前、そんな話を別の異世界人から聞いたことがある。

今はそんな大きな生き物はいないらしいが……」

「異世界でも、昔には魔導術が存在していたとは。

でも『メテオインパクト』なんて、誰がそんな禁忌の技を放ったのでしょう……」



 馬車を引く二頭の大型竜に興奮している大河と勇人を見ながら、カルンとクーが話している。

重量のある竜の姿は異世界人にとって、さぞ珍しい生き物なのだとクーは感心していた。



 到着した馬車に、異世界から来てしまった人々と、大河が乗り込んだ。

「カルン殿も同じ馬車でよろしいですか」

騎士の一人が、カルンに小声で話しかける。

「乗せてもらえるだけありがたいですよ」

カルンは大河に続けて乗り込んだ。



 「……あの剣士の方。よく、異世界人と一緒の馬車に乗れますね」

「俺はあの人を尊敬するよ。いや。あのタイガという少年もかな」

「サウト様?」

騎士の一人が、異世界人への印象が良くないものを吐露したが、それをサウトという青年騎士が笑顔で否定した。

「カルン殿は率先して異世界人と関わろうとしている姿勢がすごいよ。それに、あのタイガという少年、わけもわからない異世界に来たばかりというのに、賊を一人も殺さず、人を助けたのだからな。

以前出会った異世界人は、今回のように異世界人を襲った賊を皆殺しにして、「悪いことをしたやつを殺して何が悪い」と、笑いながら、開き直っていたがな」

「ああ。たしか二年前ぐらいにそんなことがあったと聞いています。本当にクズだと思いましたが、たしか『ルシィラ国』との戦の最前線に送られたと」

サウトは小さいため息をついた。

「そのあとどうなったかなんて知らないが……。今回、そのことを思い出してしまったが。

だが今回は、幼子が英雄とよろこぶ少年が一緒だったとは」

「……そんなもんでしょうか」

サウトの様子を不思議そうに騎士は見つめた。



 「サウト様、用意ができましたので、出発しようと思います」

「ああ、クー。行こう」

「では出発するっ」

二頭の竜が歩き出し、そのあとを、五頭の馬が騎士を乗せて竜の周りを守るように歩き出す。



 「カルンさん。この世界のことをお聞きしてもいいですか?」

瑞穂が隣のカルンに話しかけた。

「はい、どうぞ」

カルンの丁寧な態度に、瑞穂は安心した表情になった。

カルンって、よっぱど世話好きなのかと、大河はカルンと瑞穂を見て考えていた。

「……私たちはどうなるんでしょうか」

「これから行くリルダ王国という国は、異世界人にとても寛容な国のひとつです。

手厚く保護してくれてますから、これから皆さんが暮らしていけるようやってくれますよ。

大丈夫です。

とはいえ、いきなりこちらへやってきてしまったのでしょうから、不安だとは思いますが」

疲れてしまったのか、勇人は瑞穂に抱かれて眠ってしまった。

「そうですか。でもさっきのあんなやつらがいると思うと……」

瑞穂が顔をうつむけると、馬車に乗り込んだ一人が口を開いた。

「……さっきのやつらみたいのがいるんだから、俺はとてもこの世界のことが信じられない。

異世界人は奴隷として売り買いされているとかも言っていた。

あんな目にあって、今すぐあんたたちを信用できない。

本当に大丈夫なのか?俺たちは帰れるのか?」

カルンが一瞬、答えに詰まる。

「俺はこの人たちを信用できないと、この世界で生きていけないと思う。

まずは信じてみよう。どっちにしても今は、それ以外に選択肢はない」

大河の言葉に、その場の全員が沈黙した。



☆彡 ☆彡 ☆彡



 馬車は大きな門をくぐり、石造りの建物が連なる町へと入った。

大河たちは馬車の窓から、街並みを眺めては興奮または湧き上がる不安から動揺する……それぞれの反応の中、馬車はとある建物の前についた。



 辺りは木々に覆われ、静けさが際立つ。あのにぎやかな町の中とは思えない。

「ここは南方守護騎士団の使われていない宿舎です。一旦ここで皆様を保護します。

各部屋に案内しますので、今日の疲れを癒してください」

クーの指示のもと、騎士たちはてきぱきと異世界人たちを部屋へと案内していく。

「なにかいるものがあれば、後から来る者に言ってください。可能な限りご用意いたします」

丁寧な騎士たちの対応に、心配された問題はなにも起きなかった。


 「タイガ。さきほどはありがとう。助かった」

大河の部屋にはカルンがいる。

カルンはこの世界の人間だが、違和感なく、この部屋に通されていた。

「……あの馬車でのことか?

それは俺たちがカルンにお礼を言わないといけないと思うよ。

あんたがいてくれて、皆が安心できたと思うんだ。本当にありがとう」

「いや。俺も成り行きでこうなった。第一、お前をほっておくと何するかわからんから……。

で、タイガ。話なんだが……」

「うん?」



 部屋は二人部屋にしては大きめ。元、騎士団長が使うような部屋なのだそうだ。

扱いがよかったのは、カルンがいてくれたからか、『ショーガンダー』効果か。

「お前、その力をどう使うつもりだ?」

「……人を守るために……って言いたいけど、まずは妹と友達を探す。そのために身を守るためってこともあるかな。それ以外は今のところはわかんねぇ」

「……そうか」

カルンは大河の言葉に、口元を緩めた。

「なぁ。俺と一緒に行動をしてみないか?

お前の妹と友達を探しつつ、その能力の使い方を学ぶこともあるだろう。

必要によっては、ここから移動することも考えないといけない。

正直、今のお前をほっておくのは、大変危険ということもある……」

「あ、それ頼めるの?俺もカルンに頼もうと思ったたんだ。

俺はこの能力とかまったくわからないし、なにより、この世界のことがまったくわからん。

名前は知ってても、細かいところがさっぱりだし」



 小さなテーブルに用意されている紅茶を飲みながら、大河が話すと、それまで大きいソファに寝ていたカルンはここで体を起こした。

「……なら、好都合だ。

今は冒険者は移動を制限されている。ほとんど禁止されているという感じだ。

俺は『魔導術協会』というところから依頼されて、各地域の状況を調べているということだ。

その立場も利用できると思うからな」

「だから色々詳しいのか」

「そうだな。お前に教えてやれることも多いだろう」



 「なぁ、カルン。どうしてこの世界では、俺たち異世界人は……差別されているんだ?

それだけのことをやったのか?」



 カルンと初めて会った時、カルンは大河たちの世界とこの世界の関係が厄介なことになっている。ということを話した。

そして、同じ異世界から来ることになった――おそらく、あのイベントに来ていた人々だ。

それが襲われ、さらわれ、奴隷として売り買いされそうになっていた……どうしたって異常だ。



 「この世界には、昔から異世界人は迷い込んできた。

この世界の歴史に名を遺した異世界人もいるぐらいだ。

十五年ぐらい前から、急に異世界人がこの世界に増えたんだ。

今までどのぐらいの異世界人が来ていたかはしらんが……。

各国々から報告があがるようになってな。『魔導術協会』は世界の国境を超えて活動していた組織だったこともあって、そこが保護に乗り出したんだが、年間でも数十人以上と報告された。

年々増え始めて、今では百人を軽く超える。しかも異世界人の『霊力(マナ)』は、この世界の人間とは桁違いの潜在量の上、強力な魔導師となれる資質を秘めていた。

……各国は、こんなおいしい話をほっておく訳がない。

異世界人を『魔導術協会』より早く捕まえて、魔導術を学ばせて、自国の軍事力として使い始めた。

この国のことを知らない異世界人は、この世界の事情なんて知らないから、利用しやすい。

祖のうえ、知能も高い。富裕層どももこぞって欲しがった。

そうなれば需要が上がる。『異世界人狩り』が問題になりはじめたのは十年前ぐらいから……。

と……大丈夫か、タイガ?辛かったら……」



 カルンの説明を聞いていた大河は、心痛な面持ちでうつむいていた。

「……大丈夫だ。未桜と空音……皆のことが心配になっただけだから」

「ミオとソラネ……妹か?」

「妹と、俺たちと一緒に育った幼馴染というか……俺の好きな相手というか」

「そうか。それは心配するのも当たり前だな……どうする?続けるけどいいか?」

「頼む」

カルンは決意の表情の大河に頷いた。



 「『異世界人狩り』から……状況が一変したのは五年前。

ここから東の国、『バナバ王国』という国でクーデターが起こって、『ルシィラ国』と名乗る国ができた。

それが異世界人たちがつくった国でな。

ここが異世界人たちの人権を守るために、自分たちの国をつくったと宣言した。

そこからすぐに、隣国のルタニアナ王国に侵攻して攻め落とし、今度はルゥール王国の半分の領地を奪い取った。

その軍事力は強力で、主力は異世界人の魔導師と、お前たちの世界の科学力というものも利用して、あっという間に領地を拡大、今では、さらにクローネ王国とシュダルダンド王国という国々とも戦争状態だ。


 ここまでに五年。

今は、『魔導術協会』と、近隣の国たちもクローネ王国とシュダルダンド王国に援軍を派遣して、反撃が激しくなったことで、『ルシィラ国』の侵攻は止まっている状態だ。

でも、『ルシィラ国』は、戦争に加担している国の王族や関係者の命を狙うテロ活動も活発になった。

それぞれの国の町での破壊活動や異世界人、現地の人間構わず誘拐も起きている。

……もう何でもありだ。

それまでは同情的な目で見られていたこの世界の人たちの見方も、今ではこの世界にやってきた侵略者として見られている。

そして、その「異世界人が勝手につくった国、『ルシィラ国』との戦争の責任は、同じ異世界人にとらせろ」という世論が起こっていて、異世界人を集めて、『ルシィラ国』との戦争の兵士として魔術師にするという国も出てきている。

……面倒なこととはそういうことだ」



 語り終えたカルンは、動きを止めてうつむいたままの大河を見た。

辛いだろうとは思っていたが、正義感の強い少年だろう大河にとって、こんな話は酷なはずだ。

それも妹や想い人、親友たちが巻き込まれているかもしれないという―ー恐怖。

……判断を突きつけるのは、しばらく辞めておこうか。カルンがそう考えた時。



 「……今は判断できないけど、『ルシィラ国』のことはもっと調べてから、よく考えてみる。

教えてくれてありがとう、カルン。

俺は、妹と仲間たちを探す。それがどちらかに敵対するなら、必要なら自分の思いを優先することは厭わない。

それだけはブレない。でもそれは、今の俺じゃ叶えられないのもわかった。

だから……カルン、魔導術とか、色々教えてほしい。ここまで迷惑かけて悪いけど……」



 今の状況の中で、精一杯考えて出した答えなのだろう。

良い目をしている。

カルンは口元に笑みを浮かべると

「成り行きだ。その頼みを受けてやろう。

とても無視できるものじゃないし、な」

「……ありがとうございます」

大河は深々と頭を下げた。

「……で、ひとつ気になっていることがあるんだが……」

「なんだ、カルン?」

「お前、幾つだ?」

「十六……だな」

「……俺は、少なくともお前より十は上だな。タメ口なんだけど」

「えっ、カルンってそういう細かいこと、気にするタイプなんだ」

ここでカルンが絶句した。大河は面倒くさそうな顔をしている。



 「わかったよ……このままで。まったく……」

「じゃ、このままタメ口でいいってことだよな」

「ああ」

カルンは盛大にため息をつく。

「カルンって面倒な性格だけど、すごく良いやつなんだな」

明るく笑う大河に、カルンはそれ以上言い返すのが本当に面倒になってきた。

「……お前なぁっ。これから覚えとけよ」

「覚えていられたらな」

「……期待できそうにないな」

あははと笑う大河に、カルンは――少しでも明るくなれたのなら、これはこれで良かったと思うことにした。



 コンコンとドアのノック音がした。

「……誰かな」

「俺が開けよう」

少し警戒した声で、カルンが立ち上がる。

「私です。クー・ブルジュオンです。南方騎士団団長カムル・プリュイ・ヤールも同行しております」

あの時の騎士。クーが話していた団長を連れてきたという。

会いに行くと思っていた大河は、カルンと顔を見合わせると、カルンは小さく頷いた。

「どうぞ」

と大河は答え、カルンがドアを開けた――。

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