第2話 新たな出会い
「やったーっ!!やっぱりショーガンダーすげーっ!!」
「ちょっと勇人。お兄ちゃんに迷惑かかるでしょっ……いたっ」
大河ことショーガンダーの活躍をはしゃいでいた子供――勇人を見て、母親の瑞穂が止めに入るが、背中の痛みで顔を歪めた。
「大丈夫ですか?回復のポーションがあるので、使ってください」
カルンが瑞穂に大河にも使ったポーションを取り出すと、瑞穂はカルンのイケメンぶりに
「……はい。ありがとうございます」
魅入られていた。
「……やってくれたな、タイガ」
「カルン。やればできるってな」
怪我人にポーションを配っていたカルンに、変身を解いた大河が、嬉しそうに答えた。
「いや……お前。馬車を見事に破壊してくれたなぁ。ここにいる人たちを、近くの街まで運ぶのに使おうと思っていたんだが……歩かせないといけなくなった」
「……あ」
大河が会心のショーガンダーキックで、馬車は屋根からみごとにつぶれていた。
「……ごめん……」
「壊してしまったものは仕方がないが……さて、このあとはどうしたものか」
「俺が責任取ってと言いたいけど……」
大河はそう言って、周囲を見てみる。右も左もわからない異世界で、次の街などわかるはずもない。
「無理するな。この森にどんな生き物が、住んでいるかなんてことも分らんだろう?
大熊やダイナグス蛇など、大型の生き物が多い地域だ。とにかく、日が暮れる前にこの森を抜けてしまわないと」
カルンに出会えたことって、俺はすげぇラッキーだったのか?大河はカルンの説明を聞きながら、そんなことを考えていた。
「まて。なにか聞こえないか?」
急にカルンの顔が険しくなる。大河も耳を澄ませてみる。
なにかまとまった集団の足音―ー馬のような蹄の音が聞こえてくる。
「あいつら、仲間でも呼んできたか?」
「そうじゃないことを願いたいが……もしもの時は戦うしかないな。タイガも立派な戦士らしいから、期待できるか」
「……悪かったよ。もしさっきの連中だったら、俺も戦うから」
「ああ。たのもしいよ」
大河とカルンが、助けた人たちの前に立ち、こちらに向かってくる何者かを待ち受ける。
それは五頭の馬と、それを操るお揃いの制服を着た五人の人間。おそらく騎士だろう。とカルンは言った。
「あれは……」
そしてカルンがなにかを言いかける。大河は黙ってことの成り行きを見ていた。
「よかった。動かないで、まだここにいてくれたんですね」
大河とカルンを見つけた一人の騎士が馬を降りて、二人のもとへ近づいてきた。
「私はこのリルダ王国南方騎士団第二守備隊副隊長のクー・ブルジェオンと申します」
女性だ。と大河は思った。年齢は十六歳の自分より上ぐらいか。
金髪でセミロング。かわいいと言った感じだが、騎士の制服のせいか凛々しくも感じる。
「俺はカルン。こちらは異世界人でカンバタイガ殿だ」
カルンが代表して答え、大河は軽く頭を下げただけだった。
「この先であやしい賊を発見し捕らえました。
そして問い詰めたところ、この森で異世界人の放浪者を見つけたと。
今、異世界人は奴隷商の間で高値で取引されていますから、奴隷商に売り飛ばそうと考えて、捕まえようとしていたようです。
実行に移したところ、大剣を持った冒険者と、不可思議な鎧を着た戦士に邪魔された。……一撃で馬車を破壊されたという話を聞きました。
異世界人が十人はいたと言っておりましたので、早急に保護しなければならないといけないということになり、我らがその命を受けたのです。
この森は危険な獣や最近は魔獣の目撃証言もあるところ。むやみに歩き回って迷うより、安全なところで集まって助けを待ってくれていればと、迎えの馬車より先行して我らが参りました」
その後も続いたクーと名乗った騎士の話は、大河にとってはショックなことばかりだった。
異世界人が奴隷として売り買いされている。異世界人というだけで狙われる。
この世界では『異世界人狩り』が、問題化している。と。
「……あいつら……大丈夫か……」
未桜、悠都、武瑠、歩葉……空音。大丈夫だろうか。奴隷なんて……なってないだろうな。
落ち着いたら、すぐにでも探しにいかないといけない。
思い悩んだ顔していたせいだろう。カルンが大河の肩をたたいた。
「仲間のことが心配かもしれないが、今は、ここにいるお前の世界の人たちを、安全な街で保護してもらおう。もしかしたら、お前の仲間がそこにいるかもしれない」
「ああ、そうだな。俺がここにいるなら、あいつらが近くにいてもおかしくない」
「そうだ。とにかく今はお前のできることをやればいい」
「ありがと。少し冷静になれそうだ」
カルンはそんな大河に笑顔で頷いた。
「カンバタイガさん」
あのクーにフルネームで呼ばれ、大河は驚いた顔で「なんでしょうか?」を答えた。
「あの……カルン殿にあなたが馬車を破壊するほど、すごい力を持った不思議な鎧を着ていた方だとお聞きしました。
それで、あの。この場で『変身』とかは……できますか?」
カルンのやつ。少しでも心を許したのがいけなかったか。
クーさんにへんなことを吹き込んだんじゃないだろうな。クーの表情は好奇心全開のわくわく感で溢れている。
「ああ、まぁ。やり方はわかったんで……」
大河が首元のペンダントに触れると、ヴンという小さな音とともに、大河の体はショーガンダーのスーツを着こんでいた。
「……す、すごいですねっ!!」
「あー!!ショーガンダーだーっ!!」
クーの声はあの勇人の声にかき消されていた。馬車が来るまでの時間を持て余していた勇人は、ショーガンダーのスーツに身を包んだ大河を見つけ、興奮のまま駆け寄ってきた。
「こら、勇人っ!!」
たまらず母親の瑞穂も駆け寄ってくる。
「ショーガンダーもぼくたちと一緒に行くのっ!?」
「…ああ。そのつもりだ」
「ショーガンダーはぼくとママを守るためにここに来てくれたんでしょ!?」
期待に満ちた勇人の顔を見るのが辛い。どう答えたら、勇人を心を傷つけずに済むのだろう。
ショーガンダーの中で、困り切った大河の顔はさぞ情けないものだっただろう。
「勇人、いい加減にしなさい。ショーガンダーが困っているでしょう!?」
瑞穂が勇人を連れて行こうとすると、クーが勇人の頭を優しくなでた。
「そうか。君の名前はハヤトというんだね。ショーガンダーは君の国の勇者なのかな?」
クーは膝をつけ、勇人と同じ目線になる。
「おねえちゃんは?」
「私はクーという。ショーガンダーとお話があってきたんだ」
「おねえちゃんもか。ショーガンダーはね。野菜たちのヒーローなんだよ。ぼくはショーガンダーのおかげで葉ショウガが食べられるようになったんだ。ショーガンダーは、ぼくの住む時月市を守ってくれている強いヒーローなんだから。さっきも悪い奴らの乗り物もキックだけで壊してたんだよ」
「そうかぁ。ショーガンダーはすごいな。私たちも、ショーガンダーに協力して、ハヤトとママたちを守るようにするよ」
「うんっ」
クーは終始笑顔で勇人の相手をしていた。クーと話せたことで落ち着いたのか、大河ことショーガンダーに手を振りながら、瑞穂に手を引かれて去っていった。
「タイガ殿」
「なんですか?」
大河は変身を解いて、元の姿にもどっていた。
「あなたは、あなたの世界で子供を守るために、本当に頑張っていられたんですね」
「……いや。そこまでは……」
悠都や結衣のおかげで、かなりかっこよく見えるよう動画編集してもらえたし。それがよかったんじゃないか?そんなことを考えると、どこか感動しているクーを大河は直視するのが辛かった。
「謙遜をしなくても大丈夫。あの少年の様子をみればわかります」
カルンといい、このクーさんといい。勇人のおかげで、大河の評価はかなり上がったのではないだろうか。
「クーさん。このあと、俺たちはどうなるんですか?」
大河の問いに、クーは一瞬、間をおいて口をひらいた。
「王都チェーロには、異世界人の一時的ですが、保護施設があります。
そこで本人の適性を調べたり、希望を聞いて、この世界でやっていく必要な勉強や訓練をしてもらいます。
この国で住むことを希望されれば、住居を用意して、しばらくは保護手当を支給する。当面はこんな流れになるとは思いますが。
でも残念ながら、元の世界への帰還は、一度も成功したことはありません」
「それでも……ずいぶん手厚いんですね」
「この世界には、『魔導術協会』という組織がありまして。その組織と、わたしたちの国が同盟を結んでいるジオタ王国とファーレス聖国が資金を出してくれているのです」
そこまで聞いて、大河は一番訊きたい質問をしてみた。
「……クーさん。異世界人の行方不明の誰かを探す手立てはありますか?」
切実な大河の問いに、クーは大河を見つめた。
「どなたか、大切な方を探しているのですか?」
「……双子の妹と、兄妹のような幼馴染と。親友たちを」
大河の話を聞いて、クーはぐっと右手を握りしめた。
「『魔導術協会』は異世界人の身元を管理しているところです。この国も同盟を結んでいますので、望めば資料を取り寄せることは可能です。
……タイガ殿。よろしかったら、私たち騎士団の団長に会ってはみませんか?」
「は?クーさんの、その……上司の人に?」
「はい。団長は人脈が広い方で、もしかしたら、もっとくわしくわかるかもしれません」
「……本当ですか?」
大河がクーに身を乗り出した。
「ただ、ご希望通りになるかはわかりませんが……」
少し申し訳なさそうに、クーは大河に言い添えた。
大河は一呼吸すると、クーをじっと見据えた。
「お願いしますっ。チェーロに連れて行って、クーさんの上司の人に会わせてください」
クーも気を引き締めたように、大河を見ると。
「はい。必ず」
と、言葉を返した。