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第3話 爆発

「おはようございます姫様、朝食をお持ちしました」


 その声の主は俺もよく知っている。ホープ王女の専属メイド、名前はルミノーザで王女からはルミィと呼ばれている。


 彼女の仕事はホープ王女の身の回りの世話で、この部屋まで食事を運ぶのも勿論彼女の役目だ。


 外側から鍵を開けたルミノーザが扉を開くより先に俺は勢い良く扉にもたれ掛かって力づくで止め、ドアストッパーを扉の隙間に挟み込む。


 ルミノーザはホープ王女が幼少期の頃からずっと世話をしていた。上手く演技しなければすぐに俺が偽物だと気付く可能性がある。俺は慎重に言葉を選んだ。


「お、おはようルミィ。悪いのだけれど今朝は鴨ロース定食を用意してくれない? クラスの子が絶賛してて食べてみたくなったの」


 理由は何でもいい、兎にも角にも彼女をこの扉から遠ざけなければ。


 王女の学園内での食事は基本的に王室お抱えの料理人が作ったものが用意されるが、この様に王女の気まぐれでメニューが変更されることがよくある。


(これなら怪しまれないはずだ、さぁ早く食堂まで行ってくれ!)


「そう言うと思いまして鴨ロース定食もお持ちしております」


「えっ?」


 鍵穴を通して外を見る。確かに彼女が運んできたサービスワゴンの上段には普段通りのメニューだけでなく鴨ロース定食も置かれているようだ。


「あ、えーと、間違えたわ。クラスの子が話していたのは鴨嘴(カモノハシ)ロース定食だったわ。準備に時間がかかると思うけど大丈夫かしら」


 鴨嘴ロース定食は三日前に予約しなければ食べられない激レアメニューで、学園内でも相当の食通しか知らない幻の定食だ。そう簡単に準備できるような代物ではない。


「ご安心ください。そう言うと思いましてそちらも用意しております。冷める前にお召し上がりください」


 いやいやいやちょっと待て用意周到が過ぎるだろ。何だよ「そう言うと思いまして」って、予知能力者か? そんなに用意して残りは誰が食べるんだよ。


「姫様? 扉が開きませんが何か扉に挟まっていませんか?」


 ルミノーザが扉を開こうとするがストッパーに阻まれ少しガタガタ震えるだけに終わる。少し肝を冷やしたが、この程度ならまだ爆弾は反応しない。


「そ、そうかしら、特に何かが挟まってるようには見えないのだけれど……」


「どうやらガタが来ているようですね。ぶち破りますので姫様は扉から離れてください」


「は?」


 ルミノーザがワゴンを横に除ける音、そして助走のために扉から離れる足音。


(コイツ……本気でドアを蹴破るつもりか!?)


「ちょっと待って! 何もそこまでしなくてもいいんじゃないかしら……」


「緊急事態に扉が使えないと大変でしょう。最近は物騒な話もよく耳にしますのでこの際新しい扉に替えさせます」


(今がその緊急事態だし物騒なのはお前!)


 このメイドは時々手段を選ばずに乱暴な方法で物事を解決しようとする事がある。いやまぁ実際に俺が侵入していた訳だからその懸念は正しいのだが。


「行きますよ、3……」


 もはや扉から出るという選択肢は潰えた。ならば残る選択肢はたった一つ。


「2……」


 俺はワイヤーを潜り抜けながら部屋の中央に置かれた長机に飛び乗り、この体の筋肉を限界まで振り絞って全速力で走った。


「1……」


 この部屋から脱出するもう一つの出口、それは昨晩俺が侵入に使ったガラス窓だ。


 勿論この窓の前には人が潜り抜けられない様にワイヤーの仕掛けを張っている。


 だが、ワイヤーを突き抜けるのと同時にガラスをぶち破って外に身を投げれば助かる可能性はゼロではない。


 一か八か。


(こんな所で……死んでたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)


 俺は出し切れる全ての力を出して窓を突き破った。


 数瞬後、室内の全ての爆弾が起爆し、王女の部屋が消し飛んだ。

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